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遠距離介護は突然に シーズン2 番外編
家に戻ると、義母の言動がエスカレートしており、許容範囲を超えていた。
もともと常識的で世間体を気にするタイプの義母は、下品な言葉使いをする事はなかった。その筈だったが、認知症が進み、段々訳が分からなくなってきていて何でも人のせいにする様になっており、ボキャブラリーも貧困になってきたのか、「馬鹿!クソ馬鹿!」何言っているか不明なブツブツが続き、「ざまーみろ!」など罵る様になっていた。息子(私の夫)とのやり取りは、少し前からこんな感じになってきていた。でも、実の親子の会話だし、夫も義母に対して全然優しく言わないので、まあ親子で戯れてるくらいに思う事にして放っておいた。
私が不在の時は、かなり煮詰まっていたのではないかと思う。
私が帰ってきて、三人でまた夕食を取る様になった。夕食が終わってお茶を飲んで、義母が「ご馳走様。じゃあ、おやすみなさい。」と言って階下へ降りて行く。93歳で介助無しで階段を昇り降り出来るのは本当にすごい。いつも、「ご馳走様。」と丁寧に挨拶して去るのだが、階段を降りながら、ブツブツ大声で文句を言いながら降りていく。夕食の最中に会話が無いのがご不満で、「ひとっことも話しかけやしないで!」「あーあー、針のむしろじゃ。」とか大声で文句を言いながら降りていく。全部聞こえてるのだが、夫と顔を見合わせて、「無視無視、相手にするな。」「うん、そうだね。」と聞こえないふりをする。確かに、夕食時の会話は全く弾まない。耳が遠い上に、話しかけても理解出来ない事も多い。ご飯を食べるのに必死で、こちらが話しかけても全く聞こえてなかったり。そもそも、何の話もないので、「今日は暑かったですね。」など天気の話しくらいしかない。夫婦間でも特に話す事もないのだ。なので、おばあちゃんが何を望んでいるのか知らないが、ワイワイ楽しい夕食ではない事は確か。
夫が「ご飯出来たよ。」と呼びにいくのだが、それさえ、「あーあ〜、行きたくないなぁ。」とすごい嫌な顔をする。じゃあ、来るなよ!と言いたいが、それも聞こえないふりをして、一緒にご飯食べている。
前頭葉がやられていて、心の声が全部ダダ漏れになっている。認知症とは、恐ろしい病気だ。よく本には、病気で性格が変わってしまっているので、言葉通り受け止めない様にしましょうと書かれていたりするが、私には、本来の性格が変わったというよりは、本来の性格の延長線上にあり、結局この人はこういう人だったんだとしか思えない。非常に残念な事ではある。自分も嫌な性格が最終的に露呈して嫌われながら死ぬのなら、早めに死にたいと思う。因みに私の祖父は98歳迄生き、90代後半はやはり呆けていたが、周囲の人に誰か判らんがありがとうありがとうと言って、亡くなった。いろいろな呆け方があると思うけど、自分がどのパターンなのか知るのが怖いので、本当に早めに死にたい。
義母の話しに戻るが、以前は、部屋を出て少ししてから文句を言いはじめていたのだが、最新バージョンでは、「ご馳走様でした。お休みなさい。」と頭を下げて挨拶をし、振り向いて部屋を出ていく瞬間から、罵り始めた。まだ、部屋を出るか出ないかのうちに。文句をわざと聞かせようと思っているのか、そこが完全に呆けているのか、分からない。
「あーあー、こんな家族と一緒に暮らしたくないわっ!!もう、ひとりで暮らしてひとりで死にたいわ!!」結構な大声で喚きながら出ていった。
思わず、私はビックリして、「お父さん、おばあちゃん今、こう言いながら出ていったよ。」と夫に言う。夫は、もうおばあちゃんが言っている事を聞くと腹が立つので耳をブロックしているらしく、なんて言ったのかは聞き取ろうとしていなかった。「もう聞くな聞くな、完全にイカれてるんだから。」イカれているなどと言ってはいけないのかもしれないが、この場合イカれているとしか思えない。思っている事がダダ漏れになっていると思っていたけど、こうなってくるとワザと聞こえる様に言っているとしか思えない。尚も大声のブツブツはずっと続き、「もう怖いから、電気消して寝よう。」「うん、そうしよう。」と私達は7時半に消灯して、それぞれの寝室に引き上げた。夫婦別室派です。
朝になっても、まだ何かしら大声でぶつぶつ言っている。トイレに行こうと廊下に出たら、おばあちゃんの大声のセリフがハッキリと聞こえた。
「全く、男の子がいるんなら、面倒みりゃいいじゃないの。何で、こっちを放ったらかして、何回も実家に行くのかしら。全く、バカじゃないの!」
え?なんの話し?もしかして、私?
私が実家に帰るのが気に入らないんだ。‥
夫に、「今、おばあちゃんが、大声でこう言ってた。遂に、私の悪口も言い始めた!今までは、実の息子と娘だったのにね!」まあ、今までも言ってたかもしれないが。
夫は、「すみませんねぇ。」という。まあ、そう言うしかないよね。笑
今まで「父が病気で実家帰ってます」というのを毎回忘れて驚いていたのに、何回もやってるから遂に認識したらしい。しかも、「心配ねぇ、なるべく行ってあげたほうがいいわ。」と凄く心配して言ってくれたと思ったら、この有り様。
ワハハ!笑うしかない。
相手は、認知症の老人だと思い直して、一旦スルーした。
後半へ続く。