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観光目線ではなく「Tourism」目線からの取り組みが"旅人"の旅を豊かなものとする。4099字

 二週間ほど前になるでしょう。星野リゾート代表 星野佳路 氏の会見について報じられた産経新聞さんの記事を拠り所とし、コラムを一本書かせて頂きました。
 有難いことに多くの皆さんに読んで頂くことが出来たようであり、スキポチも思いの外頂戴することが出来ました。
 読んで頂けたあなた様お一人お一人には、心から感謝申しあげます。有り難うございます。

 中には現役で星野リゾートで"星野マン"として活躍しておられるご仁からのスキポチも頂けており、驚くやら感謝に堪えない思いもあるやらなわけでございます。重ねて御礼申し上げます。有り難うございます。

 その上で、今回の原稿では関連項目をチョット深掘ってみたいと考え、キーボードを打ち始めた次第。宜しければ最後までお付き合い頂ければ幸甚に存じます。世一のリハビリなのだろうな~と思って読んでやってください。

 一つだけ、これを書くわたしの願いは、読まれた方、Tourismや観光に携わる方たちにとって根っこを持たれる一助になることです。ここと同じ考え方をする必要はありません。ただ、何処に根を張るかというのはとても大切なことです。その為に必要なことは「ゼロ起点」を知ることだと考えます。都合はね、社会に出れば彩々に後付け刷り込まれてゆくものです。
しかし、疑問を持つ行為は諦めるべきではないでしょう。
そのためにも正しいゼロ起点を根っこの一つとして持ってほしいと考えるのです。

                  ◆

■インバウンドと・・・・・・

 さて、経済用語として日常の慣用句として国民生活に良い意味でも悪い意味でも定着した感のあるインバウンドという言葉。言葉としては業界用語として昔からあった言葉なのですが、日本においてインバウンドという言葉が明確な「意味」を持ち認知されるようになったのは、2003年、時の内閣総理大臣 小泉純一郎氏の号令のもと発布された観光立国推進基本法からとなり、広義としてのゼロ起点はここと考えて異論の出るところではないでしょう。この発布に至る背景などは話の本筋とは乖離を見るので先へと進めますね。

 観光庁、日本政府観光局などが中心となり、ビジットジャパンが立上り、官民一体となった誘致促進プロモーションが展開されました。あれから20年の歳月が過ぎ、対外的にも観光立国としての立場も確率されたようであり、コロナによるパンデミック終息後、右肩上がりに回復をみせ現在に至っていることは皆さん実感しておられるところでしょう。わたしなどはこれに関して書きはじめると「恨み節」が尽きないことから、書きませんけどね。

 今更ながらの話しになりますが、ではインバウンドとはどの様な存在なのでしょうか。
広義としてインバウンドは「訪日外国人観光客」となります。
これとは逆に、海外旅行にでかける邦人を「アウトバウンド」と呼びます。

 インバウンドとアウトバウンド。
棲み分けですね。セグメントであり、チャネルです。さて、あまりに唐突ですが、誰にとってのセグメントとでありチャネルなのでしょうか。
 旅人=Touristにとって必要なセグメントでありチャネルなのでしょうか。

必要ないでしょう。インバウンドもアウトバウンドも事業者サイドからみた経済指標、経営指標に基づく旅人(tourist)を色分けするセグメントに過ぎないわけですから、旅人にとっては必要ないことなのです。これが「旅人目線」からの基本です。わたしの根っこはここにあります。
だからわたしは「Cosmopolitan」という言葉を大切にするのですがね。

 従いましてわたしの書くものは、原理原則「旅」を楽しもうとする人々を根っこにおいて考え抜いたものとなります。
旅人があっての事業者、事業団体、制度策定というのがわたしの考え方ですから、発信するものもこれに基づいたものとなることを前提として抑えて下さい。

 では何故日本の観光は事業者目線からの取り組みや発信が目に付くのでしょうか。一つには「アカデミー」の存在が挙げられるでしょう。

 大学などで「観光学」を履修した方ならお分かりかもしれませんが、観光学の先生と呼ばれる人たちの多くは「実業畑」から大学教員になられた方が少なくありません。余談ですが、トリプル J という言葉があります。
JAL
JR
JTB
実業畑から大学教員になられる方の出身母体のチャネルです。今ではもう少し母体の幅も広がっているようですが、20年ほど前まではトリプル J が主流派でした。

寧ろアカデミックな処から大学教員になられた方を探す方が難しいでしょう。従いまして、世に出回る考え方であり、政策制度が実業寄り、事業者寄りとなるのは当然のことと云えるのです。資本主義ですからね。経済まわしてなんぼのものです。

 しかし、結果、そのことによる悪弊も散見される現実を見逃すわけにはゆきません。他人事ではないのです。


■知床遊覧船水没事件

 二年半ほど前のこと、4月の末のゴールデンウィーク走りの北海道は知床から一報が齎されました。乗員乗客26名が知床遊覧船での知床観光で命を落とされました。時化による荒波をうけての浸水と隔壁部の損傷により浮力を失った結果、船が水没。
 多くの遊覧船会社が5月に入ってからの運行を組合の総意として決めていたところ、知床観光遊覧船「カズワン」を運行する運航会社「知床遊覧船」はこの日運行を強行。結果、26名の乗員乗客の死亡と行方不明という惨事を招いてしまいました。
 さてこの時表立っては出ていませんでしたが、カズワンは「どの様に集客していたのか」代売先(旅行会社・ホテル・観光案内所・他)からの送客だったのか、直売りだったのかというところも見逃すことのできない問題の本質として見落とすことはできないのです。
 結果的には「じ○○ん」という媒体に運行計画を告知していたことが判っており、数人は「じ○○ん」経由での申し込みだったことが、当時のわたしの調査ヒヤリングの結果確認できています。

 知床観光遊覧船運航組合が運行を見合わせ、5月からの運行を申し合わせていたのに、何故、媒体は運行計画の告知を掲載したのでしょうか。
実は、この辺が「観光事業と事業者団体」の根っこの脆弱さを露呈しているのです。突き詰めて云えば、この人災は観光事業者全体がその責任を大なり小なり考えなければならない事件だったと云えるでしょう。

勿論、旅人たちにも責任は帰責します。旅は原則自己責任。選択側の責任も否めないところです。しかし、旅人たちは運行を計画した運航会社を信じたのです。まして、天候悪化、のちに時化模様となるなどの詳細情報などは知り様も無かったのがTouristです。
 
 どうでしょう。
 インバウンド、アウトバウンド、国内観光旅客、グループ、インディビ…
チャンネルやセグメントは関係ありますか ? 無いでしょう ?

そうなのです。
Touristをもてなす事業団体、制度策定に血道を上げる行政、公共団体が本来根っことして持つべきはゲストのセグメントやチャネルではなく、Touristの安全と安心が担保される制度政策の拡充であるべきなのです。

わたしが常に申し上げるホストとしての責任、ゲストの命と財産を守ることとはそういうことなのです。ここで申し上げる財産という言葉を矮小化して読むことはやめてほしい。人間にとっての"財産"とはお金だけではない。


 数年前。北国の地で大きな地震がありました。わたし達はその地でのセミナーを計画していたのですが、セミナーの開催を延期しました。地震で疲弊した住民への配慮であり、事業者への配慮を念頭に置いた結果でした。

 延期後、無事にセミナーを開催させて頂いたのですが、その際にセミナーにご協力いただけた公立高校の校長先生や副校長から伺ったお話に衝撃を受けました。
「地震が起き、数時間。地域被災者のために避難所として学校の施設を開放したのですが、避難していらした方にはインバウンドの旅行者が多数いらっしゃったのです。観光バスだけでも数台分はいらっしゃいました。これらの方は、ホテル施設が停電し受け入れできる状況ではない、安全が担保できないのでチェックアウト時間にはチェックアウトしてほしいと云われたそうです」と仰るのです。

 なんと云うことでしょう。中には、ホテルを避難所として開放していた宿泊事業者もあったのかもしれませんが、こういう時に業界団体、事業者団体が足並みを揃え、避難所として開放する仕組みがあるべきではないでしょうか。
 ゲストにとっての真のホスピタリティーであり、ホストとしてのあり様について大いに考えさせられたと同時に、避難所としてインバウンドを受け入れたこの高校のリテラシーの高さには大いに学ばせて頂くことが出来たものです。

 ホテル、宿泊施設の団体だけでも一つや二つではないですからね。先ずは各団体ごとにガイドラインを策定、後に、観光庁や日本政府観光局がガイドラインを取りまとめ、緊急時向けの制度の策定、クオリティーのコントロールまで構築してゆくべきでしょう。

 これがTouristを根っこに置いた者の考え方の一つなのです。

観光とTourismは残念ながら未だに同じではありません。
ここも根っこの一つ。
観光が誰のためのものなのか。観光地、観光客、観光団体、観光施設、観光事業者、観光業界 さて貴方なら誰のためのものとイメージするでしょう。

Tourismは簡単ですね。旅人にとってのアイデンティティーでありイデオロギーですから、十人十色。
ライフスタイルに基づく人、信仰や宗教に基づく人、ホビーに基づく人。
千差万別。そこに基づき、ホスト側が考えなければならないことが、未だに置き去りなのが「オーバーツーリズム」の根っこなのですよ。

じゃぁ……どうすればいいか ? それじゃぁお前、野党の云っていることと変らんだろう~ ふむ。。。しかし、ここから先は、どこかの首長になるか、役人にでもならなけりゃ変えようが無いという現実を知ってるだけに世知辛いところなのですがね。

文責 飛鳥世一


次回は、HIS 澤田帝国について 異端のTourism Doctrine 俺流目線から綴ってみたいと思います。


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