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実家で平穏に暮らしていた頃、当時八歳の甥っ子を自室に招いて、算数を教えたことがあった。正月休みの部屋の中は、ストーブの熱で暖かかった。 「今度は一人でやってみて」 甲板の丸い座卓で幾つか問題を解かせようとしたが、胡座を組んだ甥っ子は次第にそわそわして・・・ 本を読んでいる僕に途中で声をかけてきた。 「おにいちゃんは、なんで勉強してるの?」 「弁護士になる為だよ」 「やっぱりそうなんだ。じゃあ止めた方がいいよ」 「どうして?」 「あのね、弁護士は地獄に落ちるんだって」
「これはもう、捨ててしまおう。」 そう思い立って、花瓶を新聞紙に包んだ。 「それ、もう使わないのか?」と、 庭の花が驚いた声で言う。 この花瓶に花を入れたら、みんな枯れてしまうんだ。 最後には、枯れた花を始末しなきゃいけない。きっと呪いの花瓶だよ。 「そりゃ、聞いた話とずいぶん違うな。」と花は言う。 「そこに入ってる花はとても幸せそうに見える、って評判だよ。」 「試しに、君が入ってみるかい。どうなっても知らないよ。」 これできっと最後だ。そう思いながら、新聞紙をはがす。