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レコード再生: 忘れ去られた低域共振?

昨今のアナログブームの中で、「音歪み」に対してシビアにみる向きがあるようです。ただそれがもっぱらカートリッジの針先形状、トーンアームの形状・形式やターンテーブルの性能、に終始してしまっている印象なので、忘れ去れているっぽい低域共振について、諸兄の記録も参照しつつ、簡潔に書きまとめておこうと思い立ちました。

レコードの再生原理上、カートリッジの針先を支えるゴムダンパーをばねとする低域共振(レコード盤に刻まれた音楽信号とは無関係に生じる共振)が概ね数Hz~10数Hzに存在します。レコードの反りや偏心に誘発されて生じるものであり、
(1)低域共振周波数が低すぎるとカートリッジが反りや偏心に追従できずに針飛びを起こしてしまい、
(2)低域共振の大きさ(低域共振鋭度。目視で分かるのはカートリッジが低域共振によってゆすられてしまう量)によりトレース能力が劣化、また混変調歪(音楽信号に入っていない音)が大きくなる、とされています。
低域共振周波数はカートリッジのコンプライアンスとアーム(カートリッジ本体の重量含む)の実効質量によって決まるため、トレース能力向上のためにコンプライアンスが高い(ゴムダンパーが柔らかいので針先がぐにゃぐにゃ動く)ものほど低域共振問題はクリティカルになります。何故ならアームの実効質量が同じであればコンプライアンスが高いほど低域共振周波数が低くなるためです。

ですからトレース能力の安定と音歪の減少のためには低域共振をコントロールする必要が出てきます。コントロールする、とは、大きくは「低域共振周波数(f0)を適正な値に設定する【最適は概ね10Hz前後(8~15Hz)】」ことと、「低域共振鋭度(q0)を抑えこむ(=ダンピングする)」ことのふたつです。言い方を変えますと、低域共振周波数を適切にするだけではトレース能力の劣化と混変調歪は抑えたことにはなりません。低域共振周波数を別のところにスライドしただけであって、混変調歪のもとである低域共振鋭度を抑え込んでいないからです。従ってふたつとも対処する必要があります。

低域共振周波数と、その鋭度がどの程度あるのかを確認するには、低域共振周波数を調べることのできるテストレコードを入手して確認します。テストレコードの該当パートを再生し、目視で最もカートリッジが激しく揺れているところが低域共振周波数で、その揺れの激しさが低域共振鋭度です。

「低域共振周波数(f0)を適正な値に設定する【最適は概ね10Hz前後(8~15Hz)】」には、カートリッジに対するトーンアーム/ヘッドシェルの実効質量を最適なものにすること(大抵の場合は軽量化)になります。ありがちなことですが、ヘッドシェルは重いほど音質に良いからとして、実態として低域共振周波数が6Hz以下になってしまっていることがあります。或いは、データスペック上はミドルコンプライアンスだから…と思っていたら、実はハイコンプライアンスなカートリッジで、低域共振周波数が思っていたより低いということもあります。SL-1200シリーズのトーンアームはライトマスなアームと勘違いされることがありますが、実際は純正シェル込みの実効質量が12gとミドルマスの部類ですから、実はシェル重量化のマージンは少ない場面が多々あります。思い込みを排するためにもテストレコードでのチェックは必要なのです。

「低域共振鋭度(q0)を抑えこむ(=ダンピングする)」には、低域共振をダンピングする機構が組み込まれたトーンアームを使用するか、後付け装置を装着することで対応します。
低域共振をダンピングする機構が組み込まれたトーンアーム*とは、オイルダンプ式のトーンアーム、機械制動式のダイナミックダンピングなどと呼ばれるトーンアーム、電子制御式トーンアーム等。後付け装置とは、主にトーンアームの支点付近やカウンターウエイト後ろにオイルバスを設置するもの等(主に海外のサードパーティ市販品<テクニクスSL-1200シリーズやRega RB300アーム向け>か、自作することになります**)。このほか、かつてはShure V15V-MRのようにカートリッジ側に粘性ダンパー機能を持たせたスタビライザーを内蔵することで、低域共振ダンプするというものもありました。

上記2点を適切にコントロールすると、以下のような効果が表れます。
(1)反りや偏心による針飛びがしにくくなる
(2)反りや偏心によって生じる音の混濁感や強奏部での音歪み、強奏部でも内周でもない箇所で生じる音歪みが大きく軽減される
(3)濁っていた中低域がきれいに出るようになり、全体的なサウンドバランスが整う。また楽器ごと・ボーカルのフォーカス感が出てくる

デジタルオーディオ時代のアナログ再生、ということで、音源に忠実に再生するために音歪みを排したいというアナログ時代の姿勢から、アナログならではの音を追求する(音歪みも「らしさ」追求要素?)という方向転換が起きているためか、数百万円のオーディオ装置であっても低域共振への手当がゼロという製品が当たり前になってしまっているように見受けられます。今一度、低域共振はアナログ再生の音質改善の根本に関わる部分として目を向けられるべきではないかと思います。

*トーンアームがスタティックバランス式/ダイナミックバランス式である、ナイフエッジである…は低域共振鋭度の根本的な抑制には関係がありません。また勘違いされやすいですが、トーンアームのキューイングレバーがオイルダンプ式、というのは低域共振のオイルダンプとは異なります。

**tonearm fluid damping DIY, などとGoogle検索すると作例が出てきます。







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