【開催報告】第8回あざみのカフェ:前編「続:その連携ほんまモン??~心理職はどう見えている?保健師・精神科医・社会福祉職に聞いてみよう~」
テーマは「続:その連携ほんまモン??~心理職はどう見えている?保健師・精神科医・社会福祉職に聞いてみよう~」と題し、さまざまな領域で働く多職種がスピーカーとなり、ライブトークをしました。その内容を余すことなく前後編に分けてお届けしたいと思います。
◆目次
● 初めまして自己紹介~心理職との絡みは~
● 心理職と連携して良かったこと、困ったこと(前編)
■話しやすい心理職、話しにくい心理職
■最終的には人間性
■一人で抱えない
■いつの間にかいなくなる心理職
第7回あざみのカフェでは、「連携と協働」について、3名の心理職のスピーカーがライブトークをしました。その詳細については、こちらをご覧ください。
第7回あざみのカフェ(前編)
第7回あざみのカフェ(後編)
第7回のカフェの終了後アンケートや当日の振り返りから、「それでは他職種は、心理職に対して何を求め、期待しているのか、あるいは心理職に困っていることは何なのか?」という問いが生まれてきました、それでは実際に心理職以外の他職種の方から話を聞いてみようということで、今回の企画となりました。
当日は、次のメンバーで進行しました。
メインパーソナリティ:岡田美穂子(大宮すずのきクリニック)
・スピーカー1 保健師:藤田さん
・スピーカー2 精神科医師:櫛野さん
・スピーカー3 社会福祉職:Aさん
・リスナー(参加者):64名!!
リスナーも心理資格に加えて、社会福祉士、精神保健福祉士、看護師の資格をお持ちの方が10名ほどいらっしゃるなど多職種の方が参加していました。多くの方のご参加、まことにありがとうございました。
今回も前回に引き続き、台本なしの生放送。パーソナリティの岡田さんが、初めて出会う3人のスピーカー達から、「連携と協働」について日々思っていること、心理職に対して感じていることを聞いていきます。「そこまで突っ込むの?」というところまで突っ込んで、3人のスピーカー達からリアルな声を聞き出しました。
連携と協働に関する本音を引き出せるか、パーソナリティとスピーカー達による「初めまして」の4人はどのようなコラボレーションを見せるのか。多職種による「連携と協働」をリアルライブで繰り広げます。乞うご期待。
と思ったところですが、少しここで考えなければならないことが発生しました。
スピーカーの方は、当日初めて会う同士なのですが、その呼び名をどうするかということです。スピーカーを「先生」などと敬称をつけて呼ぶかどうかの問題が生じました。今回はスピーカーの方と話し合って「さん」付で呼び合うことにしました。岡田さんは仕事柄、精神科医には「先生」づけで話すことが常だったため戸惑ったそうです。この問題は連携や協働を考える上でリアルです。職種間の対等さ、指示関係などの権力関係の問題もはらむ一つ目の壁だったと言えましょう。
というわけで、3月26日が始まりました。
ここからは、当日の話の流れに沿って報告します。
最初に、パーソナリティの岡田さんが前回のカフェを振り返ります。こちらの資料をご覧ください。
ここから、いよいよ他職種の3名のスピーカーの方々にお話を伺っていきます。まずは自己紹介からです。
● 初めましてと自己紹介~心理職との絡みは~
まず、保健師の藤田さんから自己紹介です。藤田さんは、福島県内の自治体で保健師をされており、保健衛生部門にいらっしゃいます。今は新型コロナウイルスの対策も行っていますが、普段は母子健康手帳の交付をはじめとして、妊婦さんや、生まれた子どもたちに関わっているとのことです。また、最近は学校保健にも関わっています。あとは、大人、メタボの人に保健指導をしたり、心のケアを行ったりしています。また、高齢者のフレイル予防(フレイル:加齢により心身が老い衰えること)や、認知症予防など、生まれる前から死ぬまで関わっておられます。そして、心理職と関わる機会としては、母子保健の母のサポートを虐待予防も含めてお願いすることが多いそうです。
続いて、櫛野さんです。櫛野さんは、聖マリアンナ医科大学病院で、緩和ケアを中心に働かれており、臨床研修センターの研修医の教育も行ったりと、他の部門の職員と一緒にお仕事をする機会は多いそうです。緩和ケアはそもそも他職種連携のチームなので、自然といろんな職種とやっており、医師だけで何かをやることは、むしろ不自然です。心理職との関わりとしては、自分一人で抱えられなそうな不安な時は助けを求めています。また、緩和ケアに依頼されてきた中で、これはちょっと辛いなというものは心理士に手助けを求めたり、若手の精神科医の育成にも力を借りたりしているそうです。
最後にAさんです。Aさんは行政社会福祉職です。現在は、保健所で精神障害者の支援を行っており、同じ係の中にも心理職がいて、基本的には多職種がいる環境にいるとのこと。子どもの支援を行ったことや、精神科デイケア、ひきこもり支援の部署にもいらっしゃったこともあります。心理職には助けてもらっている感覚があり、アセスメントの視点、自分の面接の中で何が起きているのかなどを心理職に教わってきている。そのことで、次の面接で少しだけ相談者との関係性が冷静に見られたり、プロセスが変化したりもしました。連携は自然に始まっており、例えば医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して、専門的な治療と処遇を行うことを定めた法律)のケースを地域で見ていく前から、病院と連携することもあるそうです。
パーソナリティの岡田さん自身は、医療系と教育系を経験したこと、SCでは最初から担任の先生と連携するが、カウンセリングや教育相談では、相談者に心理士だけで関わることがあり、行動を起こさないと連携が始まらないことが話されました。
ここから、3人のスピーカー達に心理職と連携をして良かったこと、困ったことについて聞いていきます。
● 心理職と連携して良かったこと、困ったこと(前編)
藤田さんから、保健師は何かと何かを結ぶこと、困っていることを解決するために人や情報をつなげるのが仕事の本質とのこと。その中で、困っていることに気づけていない人もいて、例えば何に困っているかわからないけど、悩んでいて子どもに当たってしまうという場合など。そういう時にイライラの原因を解決する際に、心理の先生と話してみない?というふうにつなげる。そこから、実は自分の育ちに関する悩みがあり、昔の自分と向き合って、より新しい自分になっていくということがある。そこに関われた時が嬉しいそうです。
パーソナリティの岡田さんから、困っていることに気づいていない人を見分けて、どうやって繋げているのかという質問が入ります。藤田さんによると、それはふとした会話の中などちょっとしたきっかけで「何となく」気づき、「来週心理の先生が来るからどう?」という感じで「タイミングを見て」繋げるとのこと。その人の心理職の支援は比較的短期間でいったん卒業ということも多いが、困ったときに相談できるというチャンネルみたいなものがその人に残ることに意味があると考えているそうです。
■話しやすい心理職、話しにくい心理職
一方、心理職との連携で困ったこととしては、以前一緒に働いたカウンセラーの方で、相談者の満足度は低くないのだけど、そのカウンセラーが志向性を持っている方向にばかり話を持って行って、相談者のニードとはズレていると感じたことがあったそうなのですが、そのことを言えない雰囲気だったとのこと。
岡田さんから、話しやすい雰囲気の心理職の人と、そうでない人はどう違うのかという質問が入ります。
藤田さんから、どう違うかはうまく言えないけど、そのカウンセラーは仕事について話そうとすると、「私は○○で勉強してます」と言い、自分のやり方、専門性以外を受け入れない壁があったということでした。
■最終的には人間性
そこに、櫛野さんが入ってきました。櫛野さんの感覚としては、職業的な関わりだけをしている人は入って行きづらい、とのこと。心理職の枠を出て、素人臭さ、というよりその人の人間性が感じられると生々しい関係性が作れるのでないかと思う。緩和ケアで扱うものは、その人の人生だったり、人間そのものだったりして、最終的には「人間としてこう思う」みたいなものを出していかないと、どうにもならないことが多い。そういうものがあるかどうかは、連携のしやすさに影響する、という大事な視点が提起されました。
岡田さんが、櫛野さんと知り合いの心理士木下さんに話を振ります。木下さんからは、「心理職としての意見はわかったけど、実際その人はどう思ってるの?」という部分が大事なのではないかと話がありました。
前回スピーカーの心理士の坂口さんは、「人間性のようなものに関して、心理職は基本的には面接中に自己開示をしないというのがあって、相談者だけでなく、他職種と連携する時にもそれを引きずっているのでないか」とのことでした。
藤田さんと仕事をしている心理士の岩倉さんは、「守秘義務に関しても自己開示と同じことが言えるのでないかと。ケースのことについて、ケース外で話してはいけないという雰囲気がある。藤田さんと岩倉さんは、移動の車の中で、あの人はこうなってて、こういうことがあってということをずっと話しています。一緒にいろんな話をしている中で、藤田さんは岩倉さんの「人間性」を掴んでいると思う、と。
藤田さんからも、岩倉さんが心理職としての話しかしなかったら、繋がりづらかったかもしれないとのこと。藤田さんは、基本のつかみは自分の失敗などの自虐ネタ。保健師としてではなく、「個人」「自分」として関わっているということでした。
ここで、リスナーからコメントが入ります「私生活や個人的な意見を言わない人は、あまり周りの人から心を開いてもらえないと思います。」とスピーカーの方々と同様に感じていらっしゃるようでした。
そこで、パーソナリティの岡田さんが、自分の経験を話します。以前、病院で岡田さんが持っているケースに関して、いろんな職種と意見交換しているのを見た他の心理士に「面接室の中だけで岡田さんが引き受けることを、いろんな人に肩代わり、負担させるのは無責任だ、向き合うべきものから逃げている」というようなことを言われたそうです。
ここで、またリスナーからコメントが入ります。「一緒に連携している他職種の役割を理解していない場合は、連携できないかもしれません。そういう意味で、自分がどんなことができるかを率直に話しておくことは大事だと思っています。」との内容でした。岡田さんから、自分の役割と相手の役割を理解することはすごく必要で、でも結構難しいことだとのお話がありました。
ここは、ホットな意見が飛び交う大事なポイントのようです。「自己開示や守秘義務ということで心理士が自分の専門性の殻をかぶって、必要な対話や人間性の交流を怠ってしまっては信用されない」、「たとえ表面ではあわせてくれてもそこに信頼関係は育ってこない」、とても大切なことが話されています。
■一人で抱えない
続いて、櫛野さんに良かったこと、困ったことについて伺います。良かったことは、先ほどもお話があったとおり不安が軽減すること。また、自分が気づいていないことを気づかせてくれることも多く、間違った袋小路に入っていないかということを訂正してくれる可能性が高いのが心理職だと思っている。それも、雑談の中で、自分から聞きたいと思っている時じゃない時に言ってもらえるアドバイス、「それ先生間違ってますよ」と言われるのが良い。なので、雑談をする時間は作るようにしているとのことです。(櫛野さんは「サボっているだけです(笑)」と仰っていました。)ちなみに、聖マリアンナ医科大学病院は、医師も心理士もソーシャルワーカーも同じ医局の中に机があります。そういう環境面もありますが、櫛野さんは日頃から、「一人で抱えない」という決意をされています。また、病院の中でも多職種チームに加算がつけられるようになってきていたり、最近の医学教育でも「チーム」で取り組む流れになってきています。医師の数が少ないので、医師だけで全部やろうとするのは危険でもあると。
それを受け、岡田さんから、前回のカフェで「心理士が受けてきた教育の中で連携についての教育がなかったのでないか」という話がありました。心理士の研鑽に「連携や協働」の意識がどれだけあるのか?これからさらに求められてくることは間違いないようです。
■いつの間にかいなくなる心理職
続いて櫛野さんから心理士に対して困ったことについてです。櫛野さんから依頼をしたけど思った通りにならなかったということはそんなに問題ではなく、一番嫌なのは「心理職から頼んできたのに、いつの間にかその心理職がいなくなっている」こと。例えば、精神症状が噴出したので依頼されるのは役割の違い(「心理士は蓋を開ける、精神科医は蓋を閉める」)なので構わないと思うけど、いつの間にかフェイドアウトして、いなくなって、そのケースの話にも触れなくなっているというのは違うと思うとのことでした。
これも連携を考える上で大切ですね。誰かに任せたり、振ったりするのではなく共に「抱え続ける」ことが連携なのかもしれません。
パーソナリティとスピーカーの掛け合いに、リスナーも入ってきて盛り上がってきたところで、いったん休憩を挟みました。
後編に続きます!