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心理臨床学会自主シンポジウム 「精神分析的臨床のフロントライン(3)-面接室を出て、現場へと歩き出すこと(アウトリーチ臨床)―」2023年10月 7 日(土)19:15~21:15

司 会 者:重宗祥子(さちクリニック)
話題提供者:岩倉拓(あざみ野心理オフィス)、木下直紀(聖マリアンナ医科大学病院精神療法・ストレスケアセンター)
指定討論者:木村宏之(名古屋大学)・白波瀬丈一郎(済生会病院)

企 画 者:森一也(南青山心理相談室/京都大学大学院)、小牧右京(メルクマールせたがや)、日置千佳(東京都公立学校スクールカウンセラー/あざみ野心理オフィス)、坂口正浩(川崎市中部児童相談所) 

   心理臨床の仕事が広く知られるようになって、従来の個人臨床モデルに収まらない領域や現場に臨床の裾野が広がり、さまざまな現場やクライエントに相見えるようになった。「臨床現場の前線」はニーズも未分化で、周囲からの期待や要求が渦巻き、個人療法や内省とは遠い荒野である。 
 一方、精神分析を取り巻く状況もかつてフロイトが述べた「運命的な不幸をありきたりな不幸に変える」ことにとどまらない。「精神分析の前線」では「不幸」を前向きに受け止めるだけでなく、「不幸」を生み出さない未来をどうすれば創っていけるのかという能動性が問われている。「臨床現場の前線」と「精神分析の前線」が交差する場に、現代の「精神分析的臨床のフロントライン」がある。2021年は「刑務所」、「ひきこもり支援」、「精神科病棟」、2022年は「スクールカウンセラー」、「福祉領域」における精神分析的臨床を取り上げた。
 今回はアウトリーチでの実践を取り上げる。アウトリーチはいつもの持ち場からコミュニティの現場に心理専門職として出向き、そこで行う臨床実践である。話題提供は東日本大震災の被災地に足かけ10年の支援を継続している「被災地支援」、2020年のCOVID-19パンデミックの際の「職員メンタルケア」である。専門職としてコミュニティに出向く実践はクライエントの来訪を待たない。「不幸」を生み出さない未来を創るためのアクションは普段の持ち場から「外」に出ていくことで始まる。物理的には面接室を離れ、心理的には私たちの中のオーソドックスから外れる。オーソドックスな個人心理療法との異同はどこにあるのか。何が活かされ、何は改める必要があるのか。それを考えていく中で、社会における精神分析的臨床の位置が浮き彫りになるだろう。心理臨床を取り巻く社会の大きな流れはコミュニティでの支援に向かっている。
 冒頭に述べた心理臨床の裾野の広がりは、そうした社会の変化に連動している。それは心理士養成課程の直面している現実にも繋がっている。アウトリーチまでいかなくとも、養成課程や研修で学ぶオーソドックスな実践と、現場における実践(エッジ)との乖離に悩んでいる人たちは多いだろう。その悩みは、型を重視する精神分析に必ずついて回るものでもある。本シンポジウムでは、それぞれのフロントラインにおける実践について語り合い、一緒に考え、大切なことを活かしつつ、現場で思う存分力を奮える一助になればと思う。


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