見出し画像

『森崎書店の日々』

出演:菊池亜希子/ 内藤剛志 監督:日向朝子

カールさんが薦めてたやつで、ずいぶん前に観たんだけど、
くっそ、なんだよ、この死ぬほど愛しい映画は!?ともんどり打って悶えました(笑) 渇いた都会に一滴、したたり落ちた透明な滴、そんな映画。

ていうか――
やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!
やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!
やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!
やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!
やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!
やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!
やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!
やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!
やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!やさしい!
ってくらいやさしい手触りがする映画だったなあ。


いや、序盤から泣けて泣けて仕方がなかった。

※あ。感動して泣けるっていうんじゃなくて、優しい手触りに包まれて、自然に涙がじわあっとこぼれてくるような方の、あれです(~_~;)いや、ある意味、それも感動ではあるんだけども。

第一線でバリバリ働いて戦って、
しんどい思いしてた時期だったから、
沁みて沁みてなおさらやばい映画になったのかな。
お話自体は単純なんだけど。

いきなり彼氏に別の女と結婚するって告げられて、ふられて、目の前の人生がふいにすっからかんになって、虚無的になっちゃった女の子が主人公で、彼女が親戚のおじさんに誘われて古本屋でバイトすることになるんだけども、やがてその古本屋に集う人々や本の世界に癒されて立ち上がっていく……っていうピュアなお話。

あのう、僕も経験あるんだけど、あったかい親戚って、本当にまるごと、受け止めて、無条件で愛してくれて、包んでくれるよね。あれ、理屈じゃない。その理屈抜きの優しさが脈打ってる愛しい映画だったなあ。

昔、社会的にも個人的にも挫折してたとき、元妻の親戚の結婚式に呼ばれていったことがあるんだけど、あのときの、僕の諸事情なんかいっさい関係なく、ただもう自然に、やあ、よくきたねえっていう、当たり前のような、とにかく手放しで存在そのものをふっと受け止めてもらえた感じ? 田舎の、純朴で素朴な人々の純粋なぬくもり? あれで癒されて立ち上がれたことがあるんだけど、あの感覚にかなり似てる。

今、何ができて、何ができなくても、そこに、自分の居場所がある感じ。

この映画のヘソは二つあって、一つは主軸となる主人公と古本屋のおじさんの距離感だね。オジとメイっていう関係の距離。近すぎず、遠すぎず。親子ではないから多少遠慮があって、暑苦しくもなく、でも何がどうなろうと小さい頃と変わらず、存在ごと愛されて、包まれて、見守られてる。

贅沢だなあ。と思った。人生で、こんなに立ち止まれる時間と空間を与えてもらえる人生って。そんな家族、親戚がいるって、すごい贅沢。若いときはそれがどれほど贅沢なことか、目には映らないだろうけど、振り返るとそれがわかっていくだろうなあ。

二つ目のヘソは、本を読むこと自体の至福の味わい、それがすこぶる上手に、実感として伝わってくるところ。人間はおいしいものを食べると本当に幸せな気持ちになるけど、やっぱり、心だっておいしいものを食べたいし、食べたら幸せになるのじゃないかしらん。その心が豊かになって耕されていくところが実に丁寧に、しみじみ描いてあって、たたずまいは小粒だけど、実に瑞々しい、いい映画になってると思う。

あのう、本読みの人には当たり前のことだと思うんだけど、本っていうのは、作家あるいは詩人自身が、その人独自の感性でつかまえた言葉にできない何かとか、自分だけのフェチズムとかが、その人独自の角度で言葉として落とし込んであるしろものなのね。自分でしか掴まえられない“風”といってもいいかもだけど、それを骨身で、あるいは芯で掴まえられた人が、人にも伝わるように噛み砕いたり、物語にしたり、研ぎ澄ましたりして書いて残してくれたしろものなわけ。

読書って、ある意味、それを読ませてもらって、追体験的に少しだけ自分のものできるってことだからね。心に栄養をやらない人が多くなって久しい昨今、ぜひこの映画はたくさんの方々にみてほしいなあ。

本は遅効性のおいしい料理、みたいなもの。普通の料理は、食べた瞬間栄養になっていくけど、本はじわじわ栄養になっていて、その人の人生に奥行きを与えたり、支えてくれる。本当にいろんな人が、いろんなことを考えて、悩んで、骨身けずりながら書いて、その本、その世界を作ってるわけで。その人生のエッセンス、骨髄を自分の血にできるんだから、ほんまにありがたい話ですわなあ。

いつも背表紙みるたび、それがこんなに広がっているんだなあって思うし、実際この映画のヒロインの子も本の宇宙を見つけた人の顔をちゃんとしてる。僕なんか、うちの本棚に並んでる背表紙みてるだけで、おしっこ漏れそうなほどワクワクくしちゃうもんね(笑)

まあ、小説や詩とか文芸作品と呼ばれるものって、基本的には自費出版でもない限り、ただ好き勝手にバカスカ書いて出してあるものじゃないわけで、編集者なりなんなり必ず誰か第三者の目にさらされて、出す意味がある、あるいは商品価値があるとみなされて出されているわけで、なにがしかの読む価値があって当たり前なんだけども。


<閑話休題>

このナチュラリズムの女優、菊池亜希子さん? 自然体でいい演技してるし、瞳がきれい。この女優さんの身体がもっている瑞々しい宇宙。いいんですよ。それを日向朝子監督?がよく撮ってるのねえ。内藤剛志のにじみだす包容力がまたよくて、それがすべてといっても過言ではない。

とにもかくにも、全部受け入れてくれる親戚のあの感じ。今がどうであれ、何ができて何ができなくても、よくても、悪くても、そのまんま、ありのまんま、「大きくなったねえ!」いう、前述したアレね(笑) とにかく存在を愛してくれてること、受け止めてくれてること、その声とその表情からたちのぼる安心感。ああいうところなら、人は、吸えなくなってた空気がたっぷり吸えて、生まれ直すことができるんだよね。蘇生ってやつ。

まあ、実生活でも、さもしい人間性の人はたくさんいて、いやけがするときもあるんだけど、このおじさんみたいな人は本当に豊かだなとしみじみ思う。滋味のある映画って、こういうことだろうね。本当においしいビール飲んだときに似てる感覚。おっさんじゃない人に向けていうなら……あまい、良質な、人工甘味料を含んでない、自然な甘さがじわ~と広がってくる飴玉のような、そんな映画っす(笑)

本好きなら必見だけど、本が好きじゃなくても、こういう、人生をいろいろ、ゆっくり思い出させてくれる映画って本当に豊かなので、お薦めっす。あと、心が荒んでる方にも(笑)とにかくやさしいー映画なので (´ー`)

映画の舞台は神保町で、僕は一回くらいしか買ったことないけど(笑)中央線では、むかし毎日古本屋巡りして漁っていた時代もあって、古本屋自体、ブックオフにはない個性があって大好きだから、本当に観てよかった。

魂削った匂いがあからさまに漂ってくる本と、それを感じさせないだけで実は削ってるスマートな本と、両方あって、両方いいけど。ともあれ、人生は短いから、自分がつかまえた何かを、ぎゅっと凝縮してみせてくれるのは本当にありがたい。

ちなみに、これは僕にはサプライズだったんだけど、僕が数年いた、「浜田山」っていう地名が出てきて、驚いたし懐かしかった。

最後に映画の中のセリフで印象的だったものをば。


「価値のあるものを買うのではなく
価値あるものを自分で作れるものは強い」

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。