
【SF短編】有機的波紐生々流転
彼女は右腕が丸ごと狐になっているため
自分のご飯は左手で口に運び
右手の狐には何らかの雛の肉を
勝手に食べさせていた
彼女の子供は鼻から上が
鴉の頭部になっており
いつもキョロキョロしながら
白目のない目をぱちくりさせている
子鴉が「人の心を齧りたい」と鳴いた
どんな味がするのかは分からない
「もう崩れてもいいよね」
彼女が子鴉に応える風でも
訊ねる風もなく呟いた
子鴉は黒目だけの目を濡らし
ただひと声「くあ…」と鳴いた
親子のエントロピーが発生し
彼女達は形を崩しながら宙に解けた
ある者は欠損し
またある者は五体過剰な世界で
(それぞれに得手不得手はあれど)
素粒子の瞳から眺める限り
彼らは虚空に各々の因果を乗せて受肉した
有機的な色味の強弱(波紐)でしかなく
彼らの振動は一様に生死を謳歌していた
かくも豊かな未来を告げて
宇宙は平等に微笑み
崩れながらも蘇生し続けた
次なる因果を編むために
【続く】
~「太陽が膨れ地球が焼け落ちても全ては続く」より抜粋~
いいなと思ったら応援しよう!
