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五代友厚揚げステーキ

料理や素材のことを考えていると、ふと誰かの名前や顔が浮かんでくる。これはその人物が自分のことを書けと言っているのだろうと解釈。
そうした天の聲を聞いた人物を妄想しながら、厚揚げを料理した記録。


材料

厚揚げ 1丁
片栗粉 適量
大根  3センチ位
ポン酢 100cc
醤油  大匙1
味醂  大匙1

五年前に公開された映画『天外者』(てんがらもん)

今は亡き三浦春馬が主演。
市民有志が中心となって、五代友厚を顕彰すべく製作。
毎年のように特別公開されている。三浦春馬の追悼の意味もあるのか。
三浦春馬、所属していた事務所が人〇〇買に関与していたことを告発しようとしていたので消された。というか実は生きているという都市伝説めいた話がある。
春馬のことを忘れないようにと毎年、公開されているのは素晴らしい。
このことを深掘りするとテーマから逸れてしまうので、今回はここまで。
春馬が演じた五代友厚に話を戻します。


食べやすい大きさに切った厚揚げに片栗粉を塗す。

天保六年(1836)薩摩國(鹿児島県)に生まれた德助が後の五代友厚。
五代家は結構ないい家柄で、父は儒学者。
德助は次男でしたが、兄の德男が模写した世界地図を見て、その廣さに感動。五歳時の体験がその後の人生に大きな影響。
八歳で児童院、十二歳で聖堂に入学、文武両道を學ぶ。
映画のタイトルになっている「天外者」とは薩摩言葉で飛び抜けた才能の持ち主という意味。英明な君主だった㠀津斉彬もそれを感じたようで德助に才助という名前を贈った。
以後は才助が通称となる。


両面、しっかりと焼く。

二十歳の時、郡方書役に就任。これは領内を回って年貢の納入などの実態を調査する役割で西郷隆盛もこの役職についていたことがある。
ペリー来航。黑船ショックは五代の所へも波及。
多くの薩摩隼人は無礼な異人を追い払えと尊王攘夷思想に走っていくのだが、五代は開國派。世界の廣さを感じていたからか。
面白いのは地図を模写した兄は頑迷な鎖国派。地図を見た弟の方が開國派になった。
安政四年(1857)才能を評価されていた五代は長崎遊学。海軍伝習所で勝海舟やグラバーと出會う。
恐らく、この頃に坂本龍馬とも知り合ったのではないか。
文久二年(1862)幕府は上海に千歳丸という船を派遣。乗船を認められなかった五代は水夫になって船に潜り込んだ。密航に近い。どうしても日本の外を見てみたかったのだろうというより、外から日本を見たかったのかもしれない。才能だけではなく行動力も飛び抜けていた。
上海で長州の高杉晋作と出會った。
幕末のスター達がどんどん五代と關わる。


好みに焼けたら調味料投入。

生麦事件、それに続く薩英戦争で捕虜になり、グラバーに匿われて益々、世界への思いが強くなり、薩摩藩に貿易推奨や海防の重要性を上申。
やはり才能ある者は放っておかれず英國留学。
歸國後は倒幕に加わる。明治維新後は堺事件や神戸事件等の諸外國との軋轢の調停。
同郷の大久保利通共々、五代も大坂遷都派だったが、前島密らの献策により東京奠都。
ならばと大阪に造幣局誘致。
維新に關わった者として大坂への贖罪意識。
薩摩藩は大坂商人からの借金を二百五十年払いにするという事実上の踏み倒し。
官軍を詐称した薩長は幕府寄りだった商人から御用金を巻き上げ、更に幕藩体制が崩壊したということで、大名家に貸し付けていた金はチャラ。
正に三重苦。これでは大坂は潰れる。


大根おろし投入。

五代の責任ではないものの維新に關わった者として、大阪税関長や府判事に任じられたことから大阪府政に大きく貢献。横濱転勤を命じられるが、二ヶ月で辞職、大阪に戻った。これが五代の分水嶺。
近代化には金属が不可欠ということで鉱山経営。財を成した。
大阪商人達に聲をかけて、様々な事業に携わった。
一例を挙げると
大阪証券取引所
大阪商工会議所
大阪市立大学
大阪製鋼等々。
特に商工会議所設立の際には強引な勧誘。
「後になって加盟を申し込んでも拒絶又は巨額の入會金を徴収する」
今、やらねばならないという熱い思いに應えて、六十人の同志が集まり、五代は初代會頭に就任。
大阪の経済を大きく発展させ、
「東の澁澤、西の五代」と澁澤榮一に比肩される経済人に。


溶け出した片栗粉でとろみ。

大阪経済の恩人として顕彰され、今でも大阪には五代の銅像が五体。(五代だけに)故郷の鹿児島では二体なのだが。
そんな五代友厚ですが長年、教科書では惡人扱い。
北海道開拓使の官有物払下げ事件。
同郷で北海道開拓使だった黑田清隆から北海道の工場や土地等の官有物件を不当に安い値段で譲り受けようとしていると新聞に報じられて、五代には腹黒い政商のイメージ。
実際には黑田が斡旋したのではなく、五代が名乗りを挙げたので癒着とは言い難い。最終的には払下げは中止になったので精々、疑惑止まり。それでも癒着が史実のように教科書には記されていた。それを是正するべく運動していたのが五代が設立した大坂市立大学OB。
その甲斐あって五代が癒着していたという断定から、新聞に報じられたという風に疑惑レベルに幾つかの教科書は訂正。ようやく名誉回復。


五代友厚揚げステーキ

この厚揚げはひじきとか人参とかが練り込まれているが、普通の厚揚げでも十分に美味い筈。
良質なタンパク質を存分に頂ける。ポン酢の酸味がよく合う。
大根は皮ごと摺り下ろしているので、胃腸の働きを助けるタカジアスターゼも摂取。
大根には他にも優良な消化酵素が含まれる。ビタミンCや食物繊維も豊富。

五代自身は疑惑について一切の辯明をしなかった。
そのために余計に惡いイメージが廣まった。
払下げ事件の四年後、五代友厚は四十九歳で死去。糖尿病だったという。
元々、酒好きだったが心労もあって酒量が増えた?
或いは病氣ということにされて消された?

近代國家の本質は「騙す、殺す、奪う」
民間に力が付き過ぎると政府は困る。自分達が転覆される恐れがあるから。
民は生かさず殺さず。なのに五代は政府を辞めて民間に活力を与えた。
それが誰かの逆鱗に触れた。
暗殺などしたら悲劇のヒーローとして持ち上げられるが、酒の飲み過ぎで糖尿病ということにしてしまえば、何だ、だらしないとして忘れ去られる。
更に癒着で真っ黒な政商というレッテルを貼り付けて死後まで貶めた。
五代友厚も五代を演じた三浦春馬も虎の尾を踏んで、消されてしまった?そんな妄想をしながら、五代友厚揚げステーキをご馳走様でした。

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