☆My Story☆~Affogato~② #テヒョンと私
【テヒョンside】
次の日、会社に行ったら、案の定、蜂の巣をつついたようにみんなが話しかけてきた。
とにかく大騒ぎにならないで良かったな (ほんとに・・・)
会社から出るとこからバレてたんだな (なんでかなぁ、もう)
変装がへたくそなんじゃないか (僕、顔殆ど隠したのに)
僕らを待って車で帰れば良かったんだ (だってカフェに行きたかったんだもん)
コーヒー嫌いなのに、なんでカフェに行くの? (アフォガートが美味しいんだよ)
みんながいっぺんに喋るから、心の声でしか返事できない。
「とにかく無事でよかった! 助けてくれたカフェに感謝しよう。」
ナムジュニヒョンが優しく言って、その場を収めてくれた。
今日の撮影が始まった。僕の順番は最後だ。
「隣、いい?」 遠くから撮影を眺めていた僕の隣に、ナムジュニヒョンが座った。
「ヒョン、昨日は心配かけてごめんなさい。」 しょんぼりしていると、
「もう謝らなくていいよ。 お前のこと、みんな心配してただけだよ。」 優しく微笑んだ。
ところでその、お前が言ってた「Studio ZERO」ってさ、と話を続けた。
ナムジュニヒョンが、事の次第をマネージャーのウノヒョンに話すと、スタジオの名前を何度か繰り返して、心当たりを探っている様子だったと。
僕は、迎えに来たウノヒョンが、マスターをヒョンって呼んで嬉しそうに話していたことを話した。知り合いかもねって。
迎えの車に乗った後は、ほっとして眠っちゃったから、詳しい話は聞いていなくて、と。
「あ、でも! マスター、僕が僕ってわかってたんだよ。」
僕はそれが不思議だった。マスターは僕の席にやってきて、
『BTSのテヒョン君だよね、外で女の子達が君を待ち伏せしてる。別の出口から帰るといいよ、迎えを呼べるかい?』
そう言って、僕をカフェの奥の通路で繋がっている「Studio ZERO」に案内してくれたんだ。
「機転をきかせてくれて、助かったな。」 ナムジュニヒョンがそう言ってくれた。
「うん。またお礼に行かなくちゃ。」 僕がそういうと、びっくりして
「また騒ぎになるぞ。もうそのカフェもSNSで広まってるんじゃない?」 と心配してる。
だから、カフェじゃなくてStudio ZEROにおいでってマスターが言ってくれたんだ、と、僕は続けた。
いつもセンスのいいJAZZが流れているそのカフェが気に入って、時々23時の閉店前に間に合う時は、ひとりで行っていたことを話した。
その癒しの時間がなくなっちゃうかもってがっかりしていたら、マスターがStudio ZEROの方に来ればいいと言ってくれたことも話した。
「ちゃんと許可をもらってからおいでって言ってくれたんだ。だからウノヒョンにちゃんと話す。」
そういって、マスターからもらったStudio ZEROのカードを見せた。
「カフェとスタジオが奥で繋がっているのか・・・。マスターは音楽関係者でもあるの?」
それはわからないけど、感じの良いスタジオだったよ、と僕が言うと
「とにかく、まずは、ウノヒョンにちゃんと話すんだぞ。」
僕がこくんと頷くと、ナムジュニヒョンは優しくポンっと僕の頭を撫でて、メンバーの方に戻っていった。
【私side】
あの夜のあと、しばらくの間、表通りに女の子達が多いような気がした。
たぶんテヒョン君がうちのお店に来た?ってSNSで拡散されたんだろうな。まぁ事実、なんだけど・・・でも、テヒョン君の癒しの時間を守るため、知らぬふりを貫くのだ。
あの後、マスターから聴いた話では、テヒョン君を迎えに来たマネージャーさんは大学時代の後輩、ウノさん。
BTSが練習生としてしのぎを削っていた頃からRMさんやSUGAさんをマネージャーとして支えてて、マスターの知り合いの若手と合同のステージに立ったこともあったそう。
そのステージを観に行ったときに、大学卒業以来、ばったり会ったんだそう。その後も、何度かそういう機会があったけど、デビュー前のRMさんもSUGAさんもその頃から、才能が別格だったんだと・・・
「たいした奴だな、ウノは。今もずっと彼らを支えてる。根性あるなぁ。」
懐かしそうに話してくれた。
今や知らない人はいない、世界のスーパースターBTS。テレビやメディアで観ない日なんてない。
でもその反面、たとえ15分でも、好きなカフェに来る時間を持つことすら難しいっていうことを、この前のテヒョン君の一件で目の当たりにした。
テヒョン君は、また来たそうだったけど・・・ほんとに来られるのかな。
もしかしたら、もう来ることはできないのかもしれないな。
あの時、テヒョン君からBGMのリクエストを聴けば良かったなぁ。
テヒョン君が、あの夜していたマフラーの柄も忘れかけた頃、マスターの電話が鳴った。
今日、21時くらいにスタジオに行きたいというテヒョン君。
ようやくウノの許しが出たんだな、と、マスターが呟いた。ドクンと心臓が鳴った。
あと30分、いざとなると緊張するかも・・・と言う私に
「難しいかもしれないけど、できるだけリラックスさせてあげよう。彼は、そのために、このカフェに来てたんだから。店は俺に任せて、スタジオを暖めて、少し片づけてきてくれるかい?」
マスターの言葉に押されてスタジオに来ると、新しいクッションやブランケットが増えていた。さすが、センスいいなマスターも、テヒョン君が来るのを楽しみに待っていたんだって思ったら、嬉しくなってきた。
21時を少し過ぎた頃、ガレージからのインターフォンが鳴った。
「こんばんは、テヒョンです。」
インターフォンに映ったテヒョン君は、マスク姿で柔らかく笑ってる。
たぶん、このインターフォンに映った顔の中で歴代ダントツトップなイケメンだ。ロックを解除する私の胸は、また高鳴りかけたけれど、マスターの言葉を思い出して、深呼吸した。
BGMは、ソニー・クラークのCool Struttin'
以前、テヒョン君がこの曲が好きだと、放送で言っていたのを思い出したから。
「お久しぶりです。あの時は、助けてくださってありがとうございました。」
とても丁寧にお辞儀をして、お土産のフルーツケーキを手渡してくれるテヒョン君。ケーキの箱ごしの距離の近さを実感して、また緊張が高まった。
「ケーキ、切ってきますね。どうぞくつろいでいてくださいね。」
一歩離れてそう言う私に、
ありがとうございます、ソニー・クラーク、カッコいいなぁって、呟く彼。
「来れるようになって・・・良かったですね。」 少し離れたところから話しかけると
「はい、ちゃんとマネージャーのウノヒョンに許してもらって、今も送ってもらいました。」
この上なく可愛らしい笑顔で、くったくなく話してくれる。 その笑顔も・・・免疫ないです、私。
「ケーキが甘そうだから、温かいコーン茶はどうかしら?」 また少し離れて聴く私に、うんうんって頷くテヒョン君。
なんなんだろう、相手を魅了する彼の仕草。。
カフェに戻る通路にでると、全身の緊張が解けた。
私、汗びっしょり・・・だめだ・・・インパクトが凄すぎる・・・
可愛いし、カッコいいし、背が高いし、なにしろ声が良すぎる・・・もし、時々テヒョン君がここに来るようになったら・・・もう少し緊張しなくなるんだろうか。
テヒョン君の残像が目の奥に輝くなか、ケーキとコーン茶を用意すると、マスターに選手交代を要請。
私の今日のキャパは超えました・・・少しずつ慣れるようにしたいと思いますけど・・・平静を装ってたら全身汗びっしょりで・・・
アハハ、ミアって意外と乙女なんだなぁって、マスターが笑う。
「意外と?私のイメージってどんだけ!?」 思わず釣られて笑ってしまった。
おぅ良い調子だ、ミアは元気でなくちゃな、そう言ってマスターはスタジオに消えていった。
お店のBGMも、Cool Struttin'にした。
この奥で繋がるスタジオで、テヒョン君がこの曲を聴きながら寛いでくれていると思うと、この上なく幸せな気持ちでいっぱいになって、なぜだか、ちょっと切なくなった。
今夜のこの気持ち、ずっと忘れない魔法があればいいのにな。
【つづく】
※You Tubeリンク お借りしました