☆My Story☆ Who? ② #彼女とユンギ
3月9日。
明日は、2年半ぶりのオリンピックスタジアムのコンサートだ。
俺たちは、震えるほどこの日を待っていた。
Permission to Dance on Stage-SEOUL
スタジアムの座席の制限が続いているから、3daysのコンサートで4万5千人しか入れられない。オリンピックスタジアムでも。
チケッティングは壮絶だったらしい。
映画館のライビュビューイングでさえ、高い倍率だったと聞いた。
ずっと待っていてくれたウリアミ達、ごめん。
今は出来ることを出来る範囲で、全力でやるしかない。
でも俺たちは、年取って歩けなくなるまでコンサートやってるから。
必ず、会える。世界中どこへでも行く。
だから、待ってて。
そして今日は、俺の誕生日。満29歳。数え年で30歳。
30歳か・・・アイドルにはアレだけど、社会人ならまだヒヨッコだ。
最高に面白いぞって先輩達が言う、30代の入口にようやく立ったんだ。
昨日の誕生日Vライブで一口だけ味見した可愛い猫のケーキは、
メンバーたちの胃袋に、またたく間に消えた。
最終の通しリハーサル、そろそろだな。
ソファから立ち上がると、
「ヒョン! センイルチュッカ~ハムニダ~🎶」
可愛く歌って着信ランプのついたスマホを渡してくれるジミン。
明日のために仕上げた最高のビジュアルに汗だくのTシャツ・・・
アミがみたら、ぶったおれるぞ。
サンキュ、と受け取るとカトクメッセージだった。
有難いことに、今日はセンイルのメッセージをたくさんもらっている。
申し訳ないが、明日の初日が終わるまでは誰にも返信できない。しない。
友達はともかく、先輩達には甚だ失礼だけど気持ちの余裕がない。
今日はメッセージに目を通すだけ。
着信したのは、先月スタジオを訪ねたヒョンからのメッセージだった。
例の編集作業の進捗について、簡潔に用件が並んでいる。
あの日、途中になってしまった作業の工程が終わりに近づいていること。
オリンピックスタジアムが終わって時間ができたら、添付のMP3データをチェックしてほしいこと。
グラミー賞のために渡米する前に、スタジオに来れるか?と。。
メッセージを目で追いながら、ヒョンのスタジオの空気とコーヒーの香りが蘇ってきた。
最近ほとんど飲んでいなかったけど、あの日のコーヒーは特別だった。
スタジオにいた彼女が淹れてくれたコーヒー、すごくうまかったな。
あの日、誕生日だって言っていたな。
センイルチュッカへの歌、すごく良かった。なんていうか、声がいい。
俺が名乗ったとき、幽霊に会ったみたいに驚愕していたなぁ。
思い出したらおかしくて、フッと口元が緩んだ。
ヒョンからのメッセージの最後には、こうあった。
ユンギ、誕生日おめでとう。
コンサートは必ず成功する、大丈夫だ。
セナとシウと一緒にオンライン配信を観るよ。
ではまた。
ん?「セナ」と「シウ」? 名前、か? あ、もしかして??
あぁヒョン(泣)
俺、今日まじで他のこと考えないって決めてたんですが。。
ひとまず、作業のお礼だけは手短に返信しなければ。
仕事の信頼関係に関わることだから、他のメッセージとは違うんだ。
ふぅっと大きな息を吐きだすと、背中に熱い視線を感じた。
振り向くと、ソファのジミンが嬉しそうに俺を眺めてる。
「ヒョン~、誰からなんですかぁ。思い出し笑いにため息まで。ふふふ。」
え? 俺、思い出し笑い、してたのか?
「誰でもないよ。」 休憩室から出ようとすると
「テヒョンァ!」 大きな声でフロアの向こうのテヒョンを呼ぶジミン。
こいつめ! ソファのジミンの横に座りなおすと
「騒ぐなよ。明日、本番だぞ。」 耳元に囁いた。
わぁゾクゾクするじゃないですか、ヒョンの声セクシーすぎ、ってわざと震え上がるジミン。
向こうからテヒョンが、「ん?」 ってこっちを見てる。。
「お前、ケーキ食べたか?」 とっさに俺が聞く。
はぁい、美味しかったです~とテヒョンのキラキラ笑顔・・・胸が痛い。
「じゃ、片付けるよ。」 ジミンが返事をする。
テーブルの上のケーキの残骸を2人で片付け始めると、
「ヒョン、一杯奢ってくださいよ。」 ジミンの眼の奥が光ってる。
「クリームついてるからシンクのゴミ箱に捨てろよ。」 とだけ答えた。
りょーかい、とウィンクをして、ジミンはリハーサル室へ消えてった。
ひらひらと美しい蝶のように、軽やかに。
さて。ヒョンに返信しておこう。 そしたら俺も、集中モードだ。
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作業を進めてくださり、心から感謝しています。
多忙にかまけて心苦しいですが、mp3データの拝聴は
オリンピックスタジアムが終わるまでお時間ください。
明日、全身全霊で舞台に立ちます。
渡米前に必ず、最終作業をご一緒したいです。
必ずまた、ご連絡します。取り急ぎ。
PS セナとシウって、どなたですか?
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送信ボタンを押すと、スマホの電源を切った。
【つづく】