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⭐︎My Story⭐︎ ~Affogato~① #テヒョンと私

affogato(イタリア語)
①バニラアイスにエスプレッソや紅茶やリキュールなどをかけて食べるドルチェの総称。
②「溺れる」の意味。

affogato

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【テヒョンside】
今日は少し早く、一番最初に自分の撮影が終わった。
あのカフェ、23時までだったから、間に合うかな。

ロングコートにマフラーをぐるぐる巻いて眼鏡を掛けると、よし、顔は殆ど見えない。
マネージャーヒョンが車で送ると言ったけれど、
寄りたいところがあるので、自分で帰ります。 
そう言うと「必要なら、いつでも電話して。」
優しいヒョンにぺこりとお辞儀をして会社を後にした。

会社から歩いて5分くらいのところに、お気に入りのカフェを見つけたのは秋になった頃。
その日たまたま個人撮影が早く終わって、少し外を散歩したかった。
カフェの前を通ると、いつも自分が家で聞いている大好きなJAZZナンバーが聴こえててきた。
吸い込まれるようにカフェに入ったものの、お店には豊かなコーヒーの香りが。コーヒーは苦手なのに。
とっさにアフォガートを注文してお店の一番奥の席に座った。

お気に入りの音楽と、美味しいデザートと、落ち着くソファ。
食べ終わるまで15分くらいだったけれど、至福だった。

それから時々、カフェの閉店23時に間に合う時は、こっそり一人で来た。
いつもセンスの良いJAZZが流れている。
これ、誰の選曲なのかなぁ。
知らない曲の時は、猛烈にスタッフの人にタイトルを聴きたくなる。
いつものスタッフの女性を驚かしたくはないし、万一、僕が来た店っていう話が流れたらもうこの店に来られなくなってしまう。
ここで過ごす15分は、僕の大切な宝物だ。

【私side】
駅にほど近いオフィス街のカフェは、仕事帰りの大人の夜を癒す場所。
マスターが厳選したコーヒーだけじゃなく、ノンカフェインの甘いアフォガートも人気。
会社勤めをしていた頃、私も何度このアフォガートに癒されたことか。
夏の終わり、疲れた心を引きずってお店に入ろうとしたとき、スタッフ募集の紙を貼ろうとしていたマスターに思わず声を掛けた。

季節は冬を迎え、すっかりカフェの仕事にも慣れた。
私は、ほぼ毎日、午後から23時のクローズまでシフトに入っている。
コーヒーの香りに包まれて、私の大好きなJAZZのBGMを選曲して。
お客様が、ここで過ごす夜が心地良いように願って。

常連のお客様は、オーダーも覚えた。
常連っていうほどではないけれど、ひそかに「モデル君」と名付けているお客様がいる。
彼はいつも、アフォガート。
コーヒーを頼んだことは、ないと思う。苦手なのかな。
アフォガートのソースもフルーツや生キャラメルだし。

秋の夜、彼は閉店時間近くに初めてやってきた。
マスクとマフラーで、顔は殆ど見えないけれど、
とびぬけたオーラがあった。
オーダーするときの声が、素晴らしく良かった。
彼はお店の奥のソファに、こちらに背を向けて座った。

その席は、マスター厳選のスピーカーでBGMを楽しめる最高の席。
この半年、彼は閉店間際に何回か、そこに座って短い時間を過ごした。

ソウルの1月の夜は月がとても綺麗。
空からいまにも雪が降りそうに空気が冷えている。
お客様が帰った静かな店内には、ジョン・コルトレーンの’Say it’。


「あの・・・」  お客様の声で我に返る

「いらっしゃいませ。すみません、気づかなくて。」

「いえ。コルトレーン、いいですよね。」 
モデル君。。オーダー以外に初めて喋った。JAZZ好きなのかな。

いつものアフォガートを片手に、空いていたお気に入りの席に座る彼。
ロングコートもマフラーも外さず座った彼の後ろ姿と、コルトレーン。
まるで一枚の絵画だわ。。今日も遅くまでお仕事お疲れ様。

「まずいな、子猫ちゃんたちが集まってきちゃったな。」 
表通りから入ってきたマスターが、小声で囁いた。

え?子猫?どこに? わたしがキョロキョロしていると

「あっち。」 表通りの女の子達に目線を送る。

「騒がれたら可哀想だから、逃がしてあげよう。」 
わたしはまだキョトンとしていた。

「ロールスクリーン、下げて。閉店時間だ。」 
手で合図すると、マスターが彼の後ろ姿へ近づく。

ようやく私はピンときた。
子猫ちゃん=女の子達は、モデル君のファンなのか。
マスターは、彼を逃がしてあげようとしているんだ。

私は少し緊張しつつ、通りに面したロールスクリーンを下げ始めた。
すりガラスの向こうの、子猫ちゃんたちがザワつく様子が感じられた。

マスターが彼と話している。
お店の奥のスタジオへ通じる扉を開けてあげると、
すみません、というように会釈して、ロングコートが扉の奥へ消えた。

「さてと。ミア。」 マスターが両手を腰にあてて、私を見る。

「スペシャルミッションだ。」 
いつも穏やかなマスターが引き締まった表情になった。
マスターは実はとてもイケメン、そんなに真剣に私を見つめないでほしい。

「俺は、表の子猫ちゃんたちを巻く。
彼には迎えを呼ぶよう言ってあるから、スタジオの住所を教えて、
待たせてやってくれ。」

はい、と返事をした私を残して、マスターが表通りに出る。
看板を片付けだすと、子猫ちゃんたちがマスターに駆け寄った。

なんだか、ドキドキしてきた。
モデル君、超売れっ子? スーパーモデルとか??
え・・・と、わたしは何をするんだっけ。
あ!スタジオに彼を連れて行くんだった。
深呼吸をして、彼が消えた扉をノックをした。

【テヒョンside】
会社から速足でカフェに着くと、閉店間際、もう誰も座っていない。
すぐに帰るので、お気に入りの席に座らせてください。
今夜のBGMは’Say it’、冬の夜によく合う。今夜も良いセンスだ。

いつものスタッフの女性、’Say it’に聞き入ってる。
お邪魔しちゃ悪いけど、声を掛けた。

すみません、気が付かなくて、と彼女が柔らかく詫びる。
この人も、マスターぽい男性も、いつも感じがいい。僕はつい、

「いえ。コルトレーン良いですよね。」 と答えてしまった。

しまった。僕の声、特徴的だから、話さないよう気を付けていたのに。
内心焦る僕をよそに、彼女はいつもどおりアフォガートをくれた。
僕はコートもマフラーも取らずに、お気に入りの席に座った。
バレてない、みたい。

しばらくすると、マスターらしき男性が声を掛けてきた。
「君、店の前に女の子たちが待ち伏せしてるから、裏口から脱出する?」

あぁ、しまった。とうとうこんな日が・・・
僕は、ありがとうございます助かりますとお礼を言う。

あの扉から奥に入ると、別の部屋があるから。
そこで電話して迎えを待つといい。

穏やかに、でも的確に話してくれるこの人を信用しよう。
案内された扉の向こうへ、僕は姿を消した。

【私side】
私が扉を開けると、奥のスタジオに通じる通路の途中で、
モデル君は私に静かに会釈した。
奥へどうぞ、とジェスチャーを送る。

スタジオに入ったモデル君は、安心したのか、ふぅっと一息ついた。

「お迎え、ここの住所を伝えるといいと思います。」 

スタジオのカードを差し出すと、頷いてカードを受け取るモデル君。

「どうぞ、座ってください。」 

エアコンを付けて、彼にソファを進める私。
モデル君は、ぐるぐる巻きにしたマフラーと眼鏡をとると、
深々とお辞儀をして、こう言った。

「助けてくださってありがとうございます。僕、キム・テヒョンです。」

え・・・・?  は・・・・?

あなた、いま、なんて?

わたしの耳、とうとうどうかしちゃったんだろうか?
深いお辞儀から顔を上げると、BTSのV、キム・テヒョンが立っていた。

「あ、あの・・・こ、こんばんは! 私は、スタッフのミアです。
ど、どうぞ座ってください。」

急にかしこまって、自己紹介をして、散らばった雑誌を片付けだす私。
びっくりしすぎて、心臓の音が凄い。

「マネージャーヒョンに、電話してみます。」

そういう彼の声に、わたしの片付けの手も止まった。静かにしてあげよう。

電話の向こうのマネージャーさんがなかなか出ないのか、しばらくすると彼が電話を切った。
しょうがないか、と言いながらかけ直すと、次はすぐ話し始めた。

「あ、ナムジュニヒョン? 撮影中ごめんなさい、テヒョンです。」

またわたしの心臓がびっくりする。
そうか、マネージャーさんが出てくださらないから、リーダーのRMさんに緊急事態を報告することにしたのね。
このスタジオから電話をすることになった事情を伝えている彼。

「ごめんなさい、ヒョン。でも、カフェの人たちが助けてくれて・・・うん・・・うん。」

世界のBTSの、美しいV、テヒョン君が、リーダーのRMさんに弟のように電話で話す様子を、映画でも見ているような心地で見ていた。
スタジオの住所などを伝えて電話を切ると、彼がこちらに視線を送る。

「これからマネージャーヒョンにナムジュニヒョンが伝えてくれるので、30分くらいかかるかもしれません、すみません。」

申し訳なさそうにしながら、ポツポツと話し始めたテヒョン君。

今日は僕の撮影が一番に終わったので、ほかのメンバーを待たずに退勤してきたんです。まだここが開いていると思って。。。送ってくれるというマネージャーヒョンの言葉を断って来ました。

彼の話に頷きながら、ソファの横から身動きできずにいる私の心臓の音が、聴こえていないだろうかと心配になってきた。

「あ!僕! ずっと聞きたかったんですけど。」 
急に、彼がソファから身を乗り出す。距離が近いです、テヒョン君。
貴方のような美しいお顔に、耐性がないんです私。

「カフェのBGMって誰が選曲してるんですか?」 

宝石のような瞳を輝かせて聞く。 
え?お店のBGMのこと?
その時、マスターがスタジオに入ってきた。

「やれやれ。子猫ちゃんたちに罪のない嘘、ついちゃったよ。」

どうしてもBTSのV、テテがお店に入ったはずだと言う彼女たちに、
閉店に合わせて迎えに来た自分の弟だと説明したらしい。
もう閉店時間だから、お店閉めますよ。
こんな大通りのお店に、彼が1人で来るわけないでしょ?
そう言い聞かせて、駅の方へ歩き出す彼女たちを見送ったらしい。

大変だなぁ、君も。 マスターは本当に気の毒そうに彼をねぎらった。

「せっかく・・・」 小さな声でテヒョン君が話し始めた。

せっかくお気に入りのカフェを見つけたと思ったのに。
大好きなJAZZとアフォガートが楽しみだったのに、と小さな声でつぶやく。

テヒョン君は、世界の大スターBTSのメンバーだ。
華やかな世界で活躍する彼らをメディアやSNSで見ない日はない。
彼らの音楽は、街じゅうに流れている。
その華やかな光の分、自由とは縁遠いんだろうな・・・
彼が少し気の毒になってしまった。

「来たらいいよ。このスタジオに。」 マスターが呟く。 

え? って顔を上げるテヒョン君。

「このスタジオは、昔は仕事で使ってたけど、今はもう殆ど使ってない。
休みの時に俺が楽器で遊んだり、カフェのスタッフが昼休憩で使うけど、
夜は誰も使っていないし。」

テヒョン君の瞳が輝き始めた。

「来たい時は、そのカードの番号に電話してくれ。」

カードには、マスターの携帯電話番号が。
時折、昔の音楽仲間がスタジオを借りたいと連絡してくるので
作ったカード。

「アフォガートもここに運んであげるよ。な?ミア。」

呆然と会話を聞いていた私に、急に話が振られた。

「あ、も、もちろん。歓迎します!」・・・しないわけがない。

すごく、嬉しいです、ありがとうございます。 
迎えに来るマネージャーヒョンに話してみます。 
人懐っこい笑顔でクシャっと笑う彼。

「それがいい。俺らは絶対に他言しないよ。」

マスターにつられて、私もうなずく。

「あ!そうだ!」 また急に彼が前のめりになって、話し出す。 

「僕、どうしても聴きたくて。カフェのBGM、誰の選曲ですか?」

彼が、マスターと私の顔を交互に見ている。 

「ミアだよ。BGMは全部、彼女が選んでいるんだ。」

そうだったんですね、いつもいい曲が掛かってるので。
僕、JAZZ大好きです。半年くらい前に、気に入った曲につられて
お店に入ったんです。そう嬉しそうに話す彼。

えぇ、あなたがJAZZ好きなの、よく知っています。
サックスもトランペットも吹くのよね。
私の選曲がテヒョン君を呼び込んだとは・・・光栄過ぎる。
それにしても、モデル君が、テヒョン君だなんて。
こんなにびっくりしたの、久しぶりだなぁ。

「あ、マネージャーヒョンがついたみたいです。」

インターフォンモニターに、ヒョン僕ここです~って
手を振るテヒョン君。可愛んだが・・・

マスターがロックを解除すると、マネージャーさんが
深々とお辞儀をして、名刺を差し出した。

「君は・・・」 マスターが呟く。

「ヒョン! お久しぶりです。」 
マネージャーさんが驚きつつも嬉しそうにマスターを見つめた。

【つづく】

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