教員免許をもつ言語聴覚士が思う「教育現場で必要な支援」【Vol.7】STほんゆみさん
言語聴覚士。ことばによるコミュニケーションに難がある方に専門的なサービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職である。
小さな子どもをもつ親は「子どもがなかなか言葉を話さない」「特定の発音が難しい」など、言語発達に課題や不安を感じたとき、彼らの支援を受けたくなるだろう。
しかし残念ながら、生活圏内でアクセスできる小児分野の言語聴覚士は非常に少ない。
そこでこの連載では、小児分野の言語聴覚士やその育成に関わる方に話を伺い、子どもの言語発達に関するトピックや、言語聴覚士としての活動内容などを紹介する。
子どもの言語発達に悩むすべての人に、この記事が届きますように。
今回お話を伺ったのは、教員免許と言語聴覚士という2つの資格をもち、児童発達支援センターや放課後等デイサービスで働くほんゆみさんです。就学前〜就学後に受けられる支援や、教育現場での課題について教えていただきました!
子どもの教育に携わりたい、専門性を高めたいという思いから言語聴覚士に
——はじめに、ほんゆみさんが言語聴覚士になった経緯や、小児分野で働こうと思った理由を教えてください。
ほんゆみさん(以下略):私は幼い頃から「人」そのものが好きで、将来は人に関わる仕事をしたいなと思っていました。
教育に携わりたいと思ったのは、映画「子どもの情景」を観たときです。この映画は、アフガニスタンの少女が学校に行くために努力する姿を描いています。これを観て「教育は人生に大きな影響を与えるんだな…」と痛感し、教育現場で子どもに関わりたいと強く思うようになりました。
大学で教育やマイノリティについて学び、中学・高校の教員免許を取得。新卒入社した企業では、就労移行支援の営業や教育施設の運営などを担当しました。その中で医学的根拠に基づいた療育の必要性を強く感じて「もっと知識や経験をつけたい」と思うようになり、養成校に通って言語聴覚士の資格を取ったんです。
卒業後から現在まで、病院に附属した児童発達支援センターと放課後等デイサービスのリハビリスタッフ、ろう学校の支援員として勤務しています。
教育現場と福祉施設の「壁」
——就学前に児童発達支援センターなどで療育を受けていた子どもの多くは、小学校と放課後等デイサービスに通うと思います。小学校とはどのように連携を取っているのでしょうか?
私が小学校に連絡するタイミングは、これから就学するお子さんや、通学しているお子さんの発達検査結果を書面で送るときが多いです。できればその内容を学校の先生と直接共有したいのですが、書面を送って終わり、というパターンが多いかもしれません。たまに子どもの様子を見るために訪問することもありますが、極めて稀ですね。特別支援学校へ進学する場合は、事前に学校の先生がお子さんの様子を見にいらしてくださる場合もあります。
そもそも小学校との連携の質や頻度は、その施設や小学校によって異なると思います。小学校の先生はとにかく忙しいですし、人手も足りていないと聞きます。「保育所等訪問支援」といって、専門の支援員が学校などを訪問して直接支援する事業もありますが、療育現場でのリハビリと学校の時間割との兼ね合いなどもあり、こちらとしても学校に訪問しにくい状態なんです。
——小学校以降の教育現場での言語発達支援について、どのような課題感を持っていますか?
さまざまな課題がありますが、学校現場に言語聴覚士が入りにくい状況は、解決すべき課題だと思います。
小学校になると、前述の通り小学校との間に「壁」を感じます。それでも、小学校の中に「ことばの教室」や特別支援学級(以下、支援学級)がある学校が多いので、子どもとしては何らかの支援を得やすい状態ではあります。通学している学校にこうした仕組みがない場合には、近隣の学校に週一度行く、という子もいます。
さらに問題なのは、中学校や高校での支援です。中学校では「ことばの教室」や支援学級が充分ではないケースがあり、高校ではまずほとんどの学校で設けられません。そのため子どもたちは十分な支援を受けられず、就職にも困ってしまう、という流れになりがちなのです。
——この課題を解決することはできるのでしょうか……。
今すぐこの課題を解決するのは、残念ながら難しいと思います。「外部専門員」として学校と協働する取り組みも増えてきていますが、小学校では子どもに求めることの多さや先生の人手不足などの課題が山積みですし、そもそも小児を担当できる言語聴覚士は多くありません。
しかしその一方で、小学校で学習障害(LD)だとわかったり、吃音などに悩まされたりする子どもが年々顕在化しているのも事実です。言語聴覚士を教育現場に送り込む必要性は十分にあると思います。
小学校や放課後等デイサービスの見学は「子どもとともに」
——就学後に十分な支援を受けるためには、どうしたらよいのでしょうか?
就学前にできることは、小学校の「ことばの教室」や支援学級、放課後等デイサービスなどをお子さんと一緒に見学しておくことです。子ども自身「ここに通いたい」「ここはいや」という気持ちが生まれる年齢なので、ぜひお子さんにも見ていただけたらと思います。早い方だと年中さんで見学に来られる方もいますよ。
放課後等デイサービスは就学直前だとすでに満員になっていることも多いので、就学前健診の時期から探しておくと安心です。
——小学校の通常学級と支援学級のどちらに通おうか悩んでいる場合、どう判断したらよいのでしょうか?
まずは、発達検査や知能検査などをきちんと受けて、専門家にしっかりと評価をしてもらうことが大切です。まだ検査を受けていないなら、その段取りから始めてみてください。
それからこの場合も、小学校の見学がおすすめです。というのも、その小学校によって通常学級の規模や支援学級の特徴などが異なるからです。
マンモス校の場合、通常学級の中でお子さんが埋もれやすいかもしれません。また支援学級の生徒の特徴とお子さんとの相性が悪い場合は、その支援学級には入れないほうがよいこともあります。お子さんが通える範囲内で、複数の選択肢からよりよいものを選ぶとよいでしょう。
もし就学してからその学級が合わないとわかったら、支援学級から通常学級に、通常学級から支援学級に移るなどの対策も取れますよ。
教育現場や他業界の人に言語聴覚士を知ってほしい
——ほんゆみさんが今、言語聴覚士を続けている理由は何ですか?
よく支援の現場でも言うのですが、言語聴覚士は「首から上を全部見られる仕事」です。そのために学ぶ範囲も広く、心理や発達、摂食嚥下、聴覚など、挙げたらキリがないほど。さまざまな知識を得てそれを現場で実践していくことや、現場の仲間とともに研究し論文を作成することがとても楽しいです。
また、今の職場は複数の言語聴覚士と、保育士、作業療法士などと協働しているので、周囲からの学びも多いです。働きやすい職場でよかったと思います。
——ほんゆみさんの今後の展望をお聞かせください。
私の体が動く限りは現場第一で続けたいと思います。病院や福祉だけでなく、独立・開業する言語聴覚士も増えていて、一口に「現場」といっても様々な選択肢があります。今の職場ではたくさんの子どもの成長に長く関わることができています。今後もご家族やお子さんの成長に寄り添いながら、教育の場でのより良い支援が広がっていくように働きたいです。
また同時に、教育現場や他業界の人にも言語聴覚士を知ってもらいたいと思っています。今後も個人のnoteなどで発信を続け、進路を決める前の学生さんにも言語聴覚士という職業を知ってほしいと思います。
——最後に、子どもの言語発達に悩む親御さんへ向けて、メッセージをお願いします。
SNSや周囲からの情報には差があるので、自分の目で見たものや経験したことを大切にして、選択をしてほしいです。わからないことがあれば、療育の担当者や地域の相談員など、就学前や就学後に詳しい人に繋がってはどうでしょうか。
そして、就学前のお子さんは体験や経験から言葉を覚えていくので、その子が満たされるような経験をさせてあげるとよいかもしれません。とはいっても特別なことをする必要はなく、親御さんが子どもと触れ合う、一緒に遊ぶなどでいいんです。親御さんとお子さんが安心した時間を過ごせる機会を作ってみてください。