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【名画をプロップスタイリングしてみる Vol.16】ピーテル・パウル・ルーベンス「サムソンとデリラ」

今日の1枚はピーテル・パウル・ルーベンス「サムソンとデリラ」
ロンドンのナショナルギャラリーにあります。



ルーベンスは17世紀バロック期を代表するフランドル画家です。主に宮廷画家として活躍しました。「王の画家にして画家の王」と呼ばれるほどの成功を収めています。

ヨーロッパ中の王侯貴族や教会や偉い人たちはルーベンスにメロメロで、常に依頼が殺到。立派な工房でたくさんのお弟子さんたちが作品を仕上げていきました。

美術史上最も成功した画家では?と言われています。

なんと語学も堪能で(7ヶ国語話せた)、高い教養もあったことから外交官としても政治に関わりバリバリ働き、その功績が認められてイギリスとスペイン両方からナイトの爵位まで得てます。おいおい有能かよ。

しかし最初の妻イザベラをペストで亡くしています。きっと成功の裏には大変なこともいっぱいあったと思う。




ちなみにバロックとはルネサンスの後、16世紀末~18世紀にかけてヨーロッパで広まった美術様式のことで、

調和や均整のとれた格式高い美を目指したルネサンスに対して、バランスを崩した躍動感、極端な明暗(コントラスト)やダイナミックさ、劇的な感情表現を特徴としています。ルーベンスの絵を見れば一目瞭然ですね。


では早速絵を見ていきましょう。



美しい女性の膝元で男性がすやすや寝ています。側にはろうそくの灯をともす老婆が立ち、ハサミを持った男性が寝ている男性の髪の毛を切っているようです…。

扉の隙間からは甲冑を着た兵士たちが心配げにこの様子を見つめていますね…。



さて、この絵「サムソンとデリラ」は旧約聖書を題材にしたものです。

怪力男サムソンは、イスラエルの民を救うために敵のペリシテ人が集まる館に向かい、めちゃくちゃたくさんの人を殺しちゃいます(サイコパスみ)

ペリシテ人はもちろんサムソンを憎み、どうにかして報復しようと策を練ります。こんな時にはファムファタルの存在が欠かせませんね。ここで登場するのがペリシテ人の美女、娼婦デリラ。彼女はスパイとして送り込まれます。

サムソンの「強さの秘密」を聞き出そうと美しい衣裳を着飾りサムソンのもとを何度も訪問し誘惑しますが、サムソンはなかなかその秘密を教えてくれません。しかしついにサムソンは欲望に負けてしまい、デリラに教えてしまったのです。それは「髪の毛を切られると力が無くなる」でした。アンパンマンですね(違う)


この絵はデリラがお酒でサムソンを酔わせ、はじめて夜を共に過ごし、彼が眠ったタイミングで仲間たちが訪れ、こっそりと慎重に髪にハサミを入れようとしているシーンなんです。
まさにクライマックス!サムソンざまあみやがれ!


しかし、よくご覧ください。デリラの表情、なんだかとっても複雑な心持ちを表していると思いませんか?

そう、サムソンと会話をし、一緒にごはんを食べ、愛しているふりをしているうちにいつの間にか本当に好きになっちゃってたのです。デリラ…!!(涙)



ルーベンスはとっても心理描写を描くのが得意な画家です。
重厚な紫のカーテンによって閉ざされた空間。デリラの緋色のドレスと金のマント。いろんなところから灯される劇的な光。これにより重苦しさが増し、いまから何が起こるのか心臓がばくばくしてきます。



デリラの顔は優しくサムソンに傾いていますが、体は大きく反らしています。そして左手は優しく背中に添えていますが、右手はぐっと強ばった状態で彼から遠ざけています。

デリラはわかっているのです、自分のこの決断が直接彼の死につながることを。

デリラはサムソンを裏切ることに相当な苦痛を伴っているはずですが、逆に「これに背けば国を裏切ることになってしまう…わたしはお国のために仕事をしただけ…。」とそんな葛藤がこの絵には描かれているのです。

もう、デリラの複雑な心境が伝わり過ぎて胸が痛い…!!!!!!




さて、視点を変えてみましょう。

この絵は、ルーベンスの友達でもある市長の依頼で描かれました。
市長のおうちの暖炉の上に見上げるような形で堂々と飾られています。
みなさん、この絵を市長と一緒に見ている気持ちになってみてください。



「どんな犠牲を払ってでも市のためにがんばります!涙」と言わざるを得ないのでは…!?な、なんという圧だ。



ちなみにこの絵は市長さんのおうちで、まさに飾られるその場所で描いたので、今明るい美術館で飾られている写真で見ると全体のコントラストが強すぎて目がちかちかしちゃうし、ちょっと明るすぎる気がするのですが、市長さんのおうちに行って当時とおなじ左からの自然光と蝋燭の灯りだけで見たら、ぐっと表情が変わって深みが増して見れるそうです。

絵がどのような環境で飾られていたかを知ることも絵の本質を知るためには必要なポイントですね。

 


ルーベンスの描く絵って、ふくよかな女のひとたちがかわいい絵~ドラマチックな絵~フランダースのいっぬ~♡なんて甘い見方をしていましたが、わたしがドはまりにドはまりを重ねた「パリスの審判」をはじめ、宗教画から神話画、肖像画にまでどの作品も知れば知るほどまじで全部超ド級のインテリ知識が詰め込まれているのと、その絵が飾られること(場所や用途)によってどういう効果が生まれるのかという政治的戦略としての絵の在り方を考えられているほんと有能な画家で、本当にめちゃくちゃやばい画家だと思うし、とにかくおもしろい。






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