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『ポンペイ』展

『ポンペイ』展
東京国立博物館



原田マハ先生の「いちまいの絵」という本があって、これは生きてるうちに見るべき名画をたくさん紹介してくださってる1冊なのですが、ポンペイの「ディオニュソスの秘儀」という壁画についても書かれていました。2000年前に描かれたのにこんなに色鮮やかに、しかもこれほどまでに人物表現が写実的な作品があるんや…!と驚いた記憶があります。
ポンペイレッドと呼ばれる鮮烈な赤が使用された壁画にはローマでは禁止されていたと言われる酒神ディオニュソス(バッカス)の神を信仰する人々(主に女性)による秘密の儀式の様子が描かれているそうです。
なんかもうそそられる要素しか無いやん!!!!♡って感じですが、そんな1つの作品から古代ギリシャ〜ローマ帝国についての芸術について関心を持つようになりした。



ところで、いつもいろんな芸術に相対する中で「ルネサンス(古典古代の文化復興・再生)」「古典主義」「新古典主義」「古典回帰」みたいな感じで「古典(クラシック)」っていう言葉がかなり頻繁に出てくるのですが、そもそも「古典」ってなに?
しかも古典めっちゃ崇拝されてるけど、そんなにすごいもんなん?もう美の規範!!揺らがない美の頂点!!やっぱ古典が一番やな〜!!みたいな扱いされてるし、遠藤が宇宙一愛するラファエル前派も「古典(ルネサンス以降〜)なんて!なにくそ!俺らは新しい芸術を!」みたいに反発しておきながら、結局古典にめっちゃ影響されてる作品描いてたりするし、受容と反発を繰り返しながらも今もなお影響を与え続ける古典の呪縛ってすごい。

ただ色塗っただけに見える(失礼)現代アーティストのマーク・ロスコの絵も「ディオニュソスの秘儀」インスパイアらしい。ってことは古典知らずして芸術知ることできなくね?ってことで名著中村るい先生の「ギリシャ美術史入門」1と2を改めて読んだのですが、本書では青銅器時代(紀元前3000年前)〜ヘレニズム時代(31年まで)までの変遷を本当にめちゃくちゃ面白く丁寧に書いてくださってるのですが、とにかくこの時代の豊かさが尋常じゃない。無から有を作り出す好奇心に溢れてる。美への渇望と満たされたいという欲望による貪欲な働きかけが凄まじい。とても贅沢だ。ほんまにこの時代に全てが生まれ、全ての基がそこにあったんや…!!!と知ることができました。

その中でも歴史的事実をストレートに反映した芸術はもちろん、ギリシャ神話が生まれたことによる彩りと発展が特にすごいなと思いました。信仰の対象になったのはもちろん、それを口承で伝えるだけじゃなくて陶器や壁画や建築に表現されたり、演劇や文学作品として派生していったり。“誰かに伝えたい”という動力はもちろん、美の力にとり憑かれている感じがあって、そういう時代特有の高揚感というか熱というのがこれだけの圧倒的な芸術を生み出すことができたのかもしれないなと。

それに2022年の今もギリシャ神話や古代ギリシャ演劇に遠藤はめちゃくちゃ楽しませてもらってることを思うとやっぱりこの時代に生まれたものには何か普遍的な特別な力があるような気がします。


というわけでポンペイ展、めちゃくちゃ、めちゃくちゃ楽しみにしていた展示です!!!ポンペイ特番を録画して見まくり、準備万端。「特別な力」をこの目で見て感じれるんやろうか!!♡とドッキドキうっきうきわっくわくで向かったわけですが、大興奮しすぎてくらくら。鼻血、そして心臓破裂、吐血からの失神、脳は溶けたと思います。ロマン、ロマンがもう…壮大な、ロマンが…あぁぁぁああぁあ素晴らしかった!!!!!!!!

ナポリ国立考古学博物館から、すっごいのが来てました。ばっちばちのやつ。これは現地に行かな見れへんのちゃうか?って思ってた作品たち。すごい。

79年、ヴェスヴィオ火山の噴火により、埋もれてしまった街ポンペイ。18世紀になってついに開始された発掘によってその姿が露わになってきたのですが、シリカゲルのような乾燥剤の成分が入ってる火山灰に守られてきたおかげで信じられないクオリティで2000年前のものにご対面することができます。夢みたいです。そこに確かに息づいていた豊かな生活の様子が容易に想像できます。(対して隷属的な一面があったことがわかる作品も)



まず夢中になったのが「三美神」が描かれたフレスコ画。ボッティチェリの「プリマヴェーラ」にも出てくるあのポージングの元祖作品。
ラファエロ先生もルーベンス先生もみんな描いてる人気ポーズ。私はてっきりこのポージングはボッティチェリが描いた絵から流行ったんやと思ってたけど、全然違った。そっか。ルーヴル美術館に三美神のローマンコピーの彫刻があるもんなぁ。ポンペイでもこの図像と同じものがもう1つ見つかっているってことは当時も流行ってたってことなんや…!考えたこともなかった。
ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」のヴィーナスの恥じらいのポーズはギリシャ彫刻から模倣されたものだと学んでいたけれど、三美神もそうってことに気づけて「ルネサンス(古典復興)」の意味を改めてしっかり理解することができました。もうまさに古代の模倣がベースなんや。私ちゃんとわかってなかった!!

というわけでこのフレスコ画についてですが、どこか厳かな雰囲気を醸しながらもコントラポストによる重心の分散による安定感がこれ以上無いというくらいの黄金バランスで、且つ豊満な身体付きなのに重さよりも伸びやかさがあり、交わらない視線の中にそれぞれの意志と女神である崇高さも感じられる。このポーズ考えた人天才では?繊細な花冠と花束もかわいい。アグライア(輝き)、エウフロシュネ(喜び)、タレイア(繁栄)の名の下にまさに美の象徴や。たまらん。素晴らしい。盛大な拍手や。カーテンコール3回や。



次にとても興味深かったのがポンペイで「女性」がどういう地位だったのかが垣間見れたことです。ローマはばりばりの家父長制だったので、ポンペイでも女性の地位は高くはないし選挙権もなかったそうです。ですが、なんと能力のある女性は商売や政治活動においてバリバリ活躍していたという例がいくつかの作品を通じて知ることができます。全くこの時代の女性について知らなかったのでめっちゃびっくりしました。


その中でナポリ国立考古学博物館の至宝、フレスコ画「書字版と尖筆を持つ女性」(50〜79年)が来ているのですが、遠藤はこの女性に、もう、ど〜〜〜〜〜うしても逢いたかったのでその聡明さ感じる瞳の輝きを見れて胸いっぱいになりました!!あぁ美しかった!!
テトラプティコンというノート(本)みたいなものとペンを持ってる円形の作品なのですが、家の所有者の証として夫の円形図と一緒に玄関に飾られていたのではと言われています。

さて、女性がペンとノートを持ってる肖像画=「学ぶ」ことを許されているという背景が窺えるのですが、私は最初、「すごい!読み書きを女性が許されてる。なんて自由な時代なんやろ」と感激しました。
興味がわいたのでその点について詳しく調べていくと「哲学を学ぶような訓練を行うことでより良い(賢く、より従順な)主婦になる」という哲学者のムソニウスの言葉にぶつかりました。
この言葉こから、古代ローマの女性(妻)は品行方正で夫に対して従順であるという根強い性差別の意識が根底にあるということがわかってきます。
「完璧さ」を妻に求めるがゆえのやつか〜とがっかり。

ちなみに帝政期に入ると富裕化と共に女性たちが「あたしやったるで〜〜!」と解放されていく流れがあることを知り、そこで権力を求めて帝国を大混乱に陥れるつよつよ女性、リウィア、メッサリナ、アグリッピナ、ポッパエアといったキャラ濃いめの人たちがいることを知ったのでその女性たちについても調べてみよ〜っと思いました。



それから、本展では素晴らしいフレスコ画はもちろん、信じられへんほど美しいクオリティのモザイク画の数々がやってきています。


最近ギリシャ神話の中で唯一の両性具有キャラのヘルマフロディトスという存在を知りました。
その蠱惑的な魅力により古代ギリシャ・ローマ時代はもちろん、18世紀以降の遺跡発掘の際に見つかったヘルマフロディトス像により\再ブレイク/みたいな感じで時を経て人を魅了したすごく人気のキャラだったということを知ったのですが、本展に出展されてるフレスコ画にはホメロスの叙事詩「オデュッセイア」「イーリアス」を基にしたものが多かった中で、オウィディウスの「変身物語」に登場するヘルマフロディトスを描いてる作品を見つけて、あ、やっぱ特別人気やったんやと嬉しくなりました。



また、モザイク画の中では「メメント・モリ」を描いた作品がやっぱり忘れられない!
メメント・モリと言えば14世紀頃のペスト蔓延による死の恐怖からキリスト教的な教えとして「死を恐れるな」という意味合いでの活用や、16世紀頃の静物画「ヴァニタス」など\中世/に流行ったイメージが強いですが、これも既に古代ローマに生まれてる考え方なんや…!ってことに気付かされて、もうまじで全部この時代に出来上がってるやつやんと古典の凄さに唸りました。
髑髏の下に蝶々が描かれてるんやけど、その蝶々は「魂」「儚い命」の暗喩として描かれてるそうで、ていうかそもそももうこの時代に「寓意」の表現があったことにも驚き。すごくない?日本まだ縄文弥生時代なんやけど。


あと猛犬注意の役割で玄関に飾られてたいっぬのモザイク画も超かわいかったです。(文字数過多により雑な感想)



そして最後の展示室に「キケロ荘」の饗宴用の部屋の壁2面を実寸で復元したエリアがあるのですが、一目見た瞬間、遠藤きゅーーーーん!!!!♡
もうめちゃくちゃ可愛い、好き、綺麗、超好み、最高。(語彙力)

黒をベースにした壁面に、サテュロスの綱渡りやクピド、男女のケンタウロス、ヒョウなどポンペイの壁画では良く描かれるモチーフが装飾的に描かれているのですが、誰これ描いたの?!????!!!!天才????!!!!うちの壁もこれにしてぇえぇえ~!!!!!とIKKOばりに叫んでしまいそうなほど圧倒的な美がそこにありました。

実際に2000年前に生活していた家庭の壁面を彩っていたという事実、ロマンに完全にやられたし、ポンペイの芸術の圧倒的豊かさ、想像を超えるレベルの贅の沢を最後の最後まで見せつけられて、
「まじで!!まじで!!!ここに全てがありました!!!!ありがとう古代ギリシャ・ローマ!!!!!」とグッと感激の涙をこらえました。

というわけで「古典」というものについての理解を大いに深めることができた大満足の展示でした。


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