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朝の断片

いつも通り朝食を食べようとキッチンの机を見上げると、友人たちが来るからとイザベルが作っていたリンゴのお菓子が一切れ、お皿に盛られている。
リンゴのコンポートの上にクランブルと砕いたナッツをまぶして焼いたそのお菓子は、マリーさんが来たときに一度食べさせてもらったことがあったが、その時はナッツはなかった。
口の中で粗めに砕かれたナッツと、シャクっとしたクランブルが、ジューシーなリンゴと合わさる。クランブルの甘さとリンゴの甘さそれぞれを楽しむ。食べ終えたあとにはバターとナッツの香りが残っていた。

家からバス停までの道、おばさまの後ろを歩いているとネコの声に呼び止められる。ネコはおばさまの前から飛び出して、まっすぐこちらに来てくれた。

いままでで一番よく撮れた

昨日の帰り道ではマダラ模様のネコに久しぶりに会ったが、それほどかわいいとは思わなかった。やはり私は、駆け寄ってきてくれるこのネコが好きなのであって、他のネコは好きと言うほどではない。

マダラ模様のネコ


今日のバスはこれまでで最も混んでいる。「詰めてください、ほら、乗って!」という運転手さんに日本の満員電車を思い出した。私が乗ったバス停の二つ先のバス停で乗り込もうとした女性がいたが、いっぱいで「次のバスまで待ってください」と運転手さんに言われていた。でもそのとき、バスに乗っていたおばさまが「私はもう直ぐ降りるから」と代わりに降り、その女性は無事に乗車することができた。

どこからともなくDavid Bowieの「Let’s dance」が流れてくる中でそのままバスに揺られていると、近くにいたお姉さんが席を立ち「座りたかったらどうぞ」と声をかけてくれた。「ありがとうございます、大丈夫です、日本ではこれは普通なんですよ」と言うと「大変ね」という顔をして「Ah」と言われる。私はそんなに座りたそうに見えたのだろうか。お姉さんはその二つ先のバス停で降りていった。

ヴィクトワール広場では大勢の人が下車する。スマホをいじっていた若い黒人のお兄さんが立ち上がり、少し離れた席に忘れられていたマフラーをスッと取って持ち主に届けていた。持ち主の黒人の紳士は「merci」と言って笑顔を向けたが、お兄さんは表情も変えず、何でもなさそうにまたもとの席に座ってスマホをいじりはじめた。スマホに夢中なのかと思ったが、周囲をよく見ていることに少し驚き、ぶっきらぼうだが親切なお兄さんだ。

バスの中央あたりには優先スペースがあり、そこで立っていると「マダム、すみません」と声をかけられる。顔を上げると松葉杖のようなものをついて立っている女性が。慌てて場所を空けたが、声をかけられるまで気づかなかったことを恥ずかしく思う。さっきのお兄さんのようにスマートにはいかなかった。

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