青木理『日本会議の正体』
「日本会議」というものをご存知だろうか。
不勉強にして、私はそれをほとんど知らなかった。
この本を読んで、なんだか気が滅入るばかりだった。
いや、本そのものに対してではなく、日本会議に対して、である。
著者の結論
いきなり著者の結論からで申し訳ない。だが、かなり強いインパクトを持って迫ってこないだろうか。
民主主義体制を死滅に追い込みかねない
本書を読みながら私も同じような危惧を抱いた。もちろん、それを結論に持つ著者が書いた文章なのだから、そのように先導されている可能性はある。だが、それは著者の思い過ごしだろうか。考えすぎだろうか。
その不安を抱くための言葉はそれほど多くない。
日本会議
「日本会議」と書いて「にっぽんかいぎ」と読む。
右派、時には極右とも称される団体である。
HPには次のようにある。
この団体が目指すところというものもHPに詳しいが、その項目だけを抜粋してみる。
ここには「美しい伝統」「新しい時代」「名誉」「命」「感性」など耳に触りのよい言葉が並んでいるが、問題はどういう風にそれを実現しようとしているか、である。団体は民間であって政治団体ではなく表現はいたって自由ではあるが、きれいな言葉ばかりが前面に出るとき、それはもしかしたら飾りがすぎるのではないかと疑ってかかるくらいがいい。
私自身はこの団体に与することはできない。
憲法改正
日本会議がめざすものの一つが憲法改正である。
一言で憲法改正と言っても、大きく三種類がある。
改憲
自主憲法制定
無効復元
「1.改憲」は最も知るところかも知れない。今の日本国憲法の一部を改定するということである。主には第九条 第二項であるが、但し、人によってはこれ以外の条項に改定を求める者もある。「改憲」という言葉には、概ね今の日本国憲法を踏襲するという印象があるかもしれないが、いざ改憲となった時にはどこまで手を加えられるのかは甚だ懸念される。
「2.自主憲法制定」は今の日本国憲法を一旦白紙に戻し、改めて憲法を制定するというものである。「今の憲法は押し付けられたものである」という言葉をしばしば耳にするが(私はそうは思っていないが)、押し付けられ論を支持する者にとっては至極当たり前のことかもしれない。
「3.無効復元」。この言葉を知る人はいるだろうか。私は本書で初めて知ったのであって、「無効復元」と聞いても意味がわからなかった。「今の日本国憲法を無効とし明治憲法を復元し、その上で改定する」というものである。明治憲法を復元するとは言えそれを改定するのだから昔に戻るわけではない、と言ったとしても、今の憲法をわざわざ旧憲法に戻す理由は何か。「復古調」ということにしか理由が見当たらない。
では、日本会議の目指す「新憲法」とは何か。
HPには現行の憲法について次のように記載されている。
これが、「現憲法がもたらす弊害」として記されているものである。
『自国の防衛』は憲法第九条第二項であろうが(あるいは第一項にも触れるのか)、『権利と義務のアンバランス』『家族制度の軽視』『国家と宗教の分離』とは、いったい何なのだろうと驚愕さえ覚える。現憲法には権利の主張が多い。これも書きたいことは多々あるものの別に譲るとして、『義務のアンバランス』ということは『義務』に関する規定がすくないということだろうか。何を義務としたいのか、具体的な内容はわかなかった(国歌国旗に関するものか)。『家族制度の軽視』については時代がかっているとしか思えず、『国家と宗教の分離』に至っては政教分離を見直せというような俄には信じがたいものでさえある。
『新憲法を』という表現からしても、「改憲」のみならず「自主憲法制定」を想起させるものであり、一部には「無効復元」を訴える者も少なからずいるのではないかという懸念は難しくはない。
政権との距離
日本には、信条の自由が保障されている。だから、いろいろな考え方があっていい。私と意見が違うとしても、それは自由が保証されている左証であるとも言える。だが、政治政権に近いとなると様相は異なる。
日本会議国会議員懇談会というものがある。これは日本会議のHPにも明記されている。ただし、所属している国会議員の名簿が公開されているわけではない。本書によると今は日本会議から名簿は公開していないという。従って、本書に記載されている2015年時点での状況を記してみる。
2015年時点では、懇談会の加盟議員は衆参両院で281名。当時の議員数717名の39.2%、4割になんなんとしている。内、自民党が185名。これは281名のうちの65.8%に達する。アベノミクスで自民党が291名の当選者を出して圧勝したのが2014年である。
以上は国会議員についての数値であるが、閣僚に至っては20人中13人(65%)、官邸枢要スタッフとなると5人中4人(80%)となる。閣僚官邸となると人数は限られるが極めて政権に近い所でこれだけの割合を占める。参考までに、本書では閣僚、及び官邸スタッフのすべての氏名と、懇談会加盟、非加盟を記している。
この記事の冒頭に記載した「美しい日本」という言葉。この言葉に覚えのある人も少なくないかもしれない。かつて、安倍元首相が何度も発した言葉である。当時も訝しく思ってはいたが、なるほど日本会議から出た言葉であったのかと、ようやく溜飲が下がった思いである。
このように、日本会議は知らずのうちに大きく政権に食い込んできている。憲法改定は団体の悲願でもあり、本書にもあるが彼ら彼女らの信条に発するものであるから決して諦めることなく執拗に熱心に求めてくる。その粘り強さは軽視できない。
日本会議がこれまでしてきたこと
日本会議がこれまでしてきたことを挙げてみる。
元号の法制化
建国記念日の祝日化
歴史教科書の編纂
国旗国歌法の制定
皇室尊崇意識の涵養
教育基本法改正
元号、建国記念日は、今この国では当たり前のようであるが、戦後しばらくはただ慣習に従っていたに過ぎず法的に明確にされていたわけではない。それを法制化したのが「元号の法制化」である。
歴史教科書も編纂しているようであるが、私自身、その内容には詳しくはない(いろいろと想像するが)。
「教育基本法改正」は、憲法改正の前哨戦と言われている。改定内容については文部科学省が新旧の比較文書をHPで公開してくれている。
改正前後の教育基本法の比較
https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/06121913/002.pdf
これまでのことを見てみれば、これからのことも想像できる。美しいとか誇りとか、そういった感情的なことを上から押し付けないでいただきたい。それがどれだけ人によって多様であるのか、今一度反芻してほしいとただ願う。
今の憲法と、そして今の生活
改めて憲法を読むと、今の生活がこの憲法の上に成り立っていると痛感する。とは言うものの、憲法の理想とするところにまだ至っていないものもある。
この言葉はこちらの記事の引用である。