彼がこんな風に、マチ針が刺さりまくった布切れみたいになって、陰口叩かれる理由は嫉妬じゃない。
「あいつマジでノリ悪いよな」
分かる~w。
同期のタクミくんは、新卒の中で一番学歴が良くて、一番仕事がデキて、正直一番イケメン。そんな彼がこんな風に、マチ針が刺さりまくった布切れみたいになって、陰口叩かれる理由は嫉妬じゃない。
「私達のこと見下してるのかな?飲み会とか全然来てくれないよね。」
業務のやり取りは普通にしてくれるし、コーヒーメーカーの前では好感度No.1俳優かっていうくらい愛想よく雑談だってしてくれる。それなのに、なんで飲みの誘いとかは断られちゃうんだろう。
「あんた今日酷い顔してるよww」
やっぱりバレちゃったか。目線をPCから同期のリョウコに移す。
「あんまり大きな声で言わないでよ。カラコン買い足すの忘れちゃってたのw。」
そういえば、初めてカラコン付けて鏡見た時、すっごく救われた気がしたなぁ。自分を悩ませてた欠点が、瞬きする間に消えちゃったんだもん。
「あんた、実は目ちっちゃいもんねw。」
意地の悪い笑顔を頑張って作るリョウコは、やっぱり憎めない。
「悪かったわね笑。まあそういうことだから、今日の飲み会は不参加でお願いします。」
「え~、ノリ悪いな~」
社会人になってもこんな風にふざけ合える友達ができて、本当に幸せだ。できるなら過去に戻って、就活してた時の憂鬱を手持ち扇風機で吹き飛ばしてやりたい。
「私はあなたと違って、自分の素顔に自信が無いのです~笑。」
「タクトとは正反対だねw」
おや?
ノリ悪い?
自信ない?
タクト君?
もしかして、タクト君が誘いを断ってばかりなのは、そういうこと?いやでも、あんなにスペック高いんだよ?
仕事そっちのけで、そんなモヤモヤが頭をぐるぐる巡りだした。私は不真面目な山手線かっつってね。
ふざけたひとり言で遊んでいると、人事部の人間のこんなひそひそ声が聞こえてきた。
「今年の新卒は大当たりだったな。」
「そうすね。特にタクト君が良かったですよ。」
「ああ。面接のときに、『僕は自己愛性なんちゃら障害です』って言われたときは、どうしようかと思ったけどな。」
「部長、なんちゃら、じゃなくてパーソナリティ障害ですよ笑。」
「あ、それだ。まあとにかく彼は良いよな。高すぎる理想とコンプレックスをバネに、人一倍努力してるよ。」
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最後まで読んで頂きありがとうございます!!
ここだけの話、僕はとても恵まれているので、毎日とても不安です!
生計を立てるのにも、友達をつくるのにも、勉強するのにも、大した苦労をしてきませんでした。時間をかけずに手に入れてきたので、毎日モヤモヤとした虚しさと戦ってます!
そしてある日、もしかしたらそんな虚しさに追われてるのは僕だけではないかもしれないと思い立ちました。SNSによって、「すぐに手軽に」楽しめるよう社会になったからです。
そこで僕は、一瞬で消費できるコンテンツではなく、読み終わりに問いが生まれたり、美しい表現に思わず惚(ほう)けてしまったりといった、「余韻」が残る作品を作っています!
しかし、読み終えて下さった方がどう感じたのかを知るのは難しいので、もし余裕があればコメント等のリアクションを貰えると嬉しいです!
それでは改めて、読んで頂きありがとうございました!
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