秋丸康はAI以上だ。
「全く!笑いが止まらないよ」
数人の男が、高層マンションの一室でどんちゃん騒ぎに勤しんでいる。
「ああ、まさかこんなにうまく行くとは!」
ソファに座り、大理石の机に脚をのせている者もいる。
「あのAIを開発した学者さんに、いくらか包んでやってもいい位だ。」
一番下っ端風の男がそう言うと、空気は一気にぴりつく。
「おい、てきとうな事は言うな。あれを盗んだことが世に出たら、俺らは底辺プロデューサーに逆戻りだぞ。いいか、見張りの奴にもそれをよく伝えておけよ。」
男たちは、V-tuberのプロデューサーだった。多くのファンを獲得して、大勢を喜ばせる方法を常に模索していた。そしてその核となるのは、キャラクター設定だった。
ただの売れないプロデューサーが数億の資産を手にするに至ったのは、そのキャラ設定をAIに任せ出したからである。もともとは絵画や楽曲制作に使われていたものを、他事務所から盗んできたのだ。
そこではAIは、投げ銭のトータル金額と動画への好評価を最大化するようにプログラムされた。盗んだ直後に、既存のv-tuberデータを性格とビジュアルに分けてインプットし、あとは機械学習に丸投げ。それで、今では数億を稼ぐ敏腕プロデューサーだ。
PCのファンの音に包まれた部屋で、一人の若者が座っている。
巨大PCの中にいるAIが新たなキャラを作るべく、「髪型・髪色・髪質・まぶた・眉と眼の距離・鼻の高さ・口の大きさ、、、、、」と、無限大のパターンをシミュレーションしている隣で、若者は投げやりにつぶやく。
「何がAIだよ。結局は、美少女で性格が良いキャラしか作ってないじゃないか。」
彼はバカ騒ぎしている他の男たちとは違い、まだ自分のオリジナリティを捨てきれていないのだ。そして何かを決意した顔で、唾をのみ込みPCに近づく。
「おら!」
か細い脚で蹴ってみたものの、PCは動じなかった。数分間だけファンの音が変わったが、すぐに元通りになった。
「おいおい!ほんとにこれが出てきたかよ!」
見張りの若者が怒鳴られる。AIのシミュレーション結果が、これまでと違ってややブサイクなビジュアルだったのだ。
若者は、自分がPCを蹴ったせいだと直観したが、幸い他の男たちにはバレなかったようだ。。別の男がこう言ったのである。
「まあそう荒れるな。今までAIが出したキャラは、全部当たってるんだ。今回も信じてみよう。」
やや不安げに送り出されたちょいブサイクなV-tuberだったが、AIにもケガの功名というのが存在したようだ。
つまり、若者がPCを蹴ったおかげで生まれたそのキャラクターは、爆発的にヒットしたのだ。
「おいおい、世の中分からないもんだなw結局あのキャラも売れて、今となっちゃ全v-tuberの3割くらいは、平均以下のビジュアルだ。」
マンション上階で相も変わらない生活を送る男たち。
「分かってないのは世の中じゃなくて、俺らだけだ。なにせ自分のキャラじゃ全く売れなかったんだから。」
あっけらかんとそう言い放つ男には、もはやプロデューサーとしての意識はない。さも素人かのような発言をする。
「待てよ!ちょっと可愛くないキャラをAIが作ってることは、あの秋丸康も実はAIなんじゃねえかwなあ見張り!」
その前日に、「v-tuberの飽和を防ぐべき」という試行結果がAIから出たため、その日は見張りも飲み会に参加していた。
「はい、そうですね。」
ムリに話を合わせる彼は、内心ではこう思っていた。
秋丸康はAI以上だ。
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最後まで読んで頂きありがとうございます!!
ここだけの話、僕はとても恵まれているので、毎日とても不安です!
生計を立てるのにも、友達をつくるのにも、勉強するのにも、大した苦労をしてきませんでした。時間をかけずに手に入れてきたので、毎日モヤモヤとした虚しさと戦ってます!
そしてある日、もしかしたらそんな虚しさに追われてるのは僕だけではないかもしれないと思い立ちました。SNSによって、「すぐに手軽に」楽しめるよう社会になったからです。
そこで僕は、一瞬で消費できるコンテンツではなく、読み終わりに問いが生まれたり、美しい表現に思わず惚(ほう)けてしまったりといった、「余韻」が残る作品を作っています!
しかし、読み終えて下さった方がどう感じたのかを知るのは難しいので、もし余裕があればコメント等のリアクションを貰えると嬉しいです!
それでは改めて、読んで頂きありがとうございました!
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