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『Nのために』を読んで

『Nのために』を読んだ。
湊かなえ作品を読んだのは初めてだったけど、かなり自分の好みに近い作風だった。
小説でしか味わえない体験とはまさにこのことで、視点人物と時系列の交錯が織りなす不協和に心を揺さぶられた。

感想

この作品は、愛の魔力を描いた物語だ。
「いかなる行為においても愛が理由になり得るのだと、証明してみせるのだ。」
この一節は本作を端的に言い表している。

我々は、愛の魔力に取り憑かれることがある。
恋人と大切な日を過ごす時や、親友たちと夜まで語り明かす時は、「この日のために生まれてきたのかもしれない」と思うほどに舞い上がってしまう。

大切な人との将来を夢想する時、それが世界の全てのように思えてしまう時がある。それは側から見れば滑稽に映るかもしれないが、僕たちは皆どこか愛に取り憑かれているのだ。異性でも、友達でも、家族でも。

この時この一瞬が世界の全てに思えてしまう。それが愛の魔力。本作は、そんな愛の魔力を極限まで振り切った人物たちによって織りなされる物語。

愛に狂って人を殺す文学として見るとやはりフィクションのような気がして他人事に思えるが、よく考えれば僕たちだって愛に狂う時はある。

「ファンタジーのような計画を現実世界で成功させた彼女を見ているうちに、彼女も、そして安藤も、文学の世界を超えた現実に到達することができるのではないかという気がしてきた。」

そう思うと、現実と文学の境界は意外と高い壁ではないのかもしれない。

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