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野崎まど『小説』|小説を読まずにいられない人たちの内側にある螺旋階段

野崎まどさんの『小説』を読みました。『小説』というタイトルの通り、小説に魅入られた(“取り憑かれた”と言ってもいいかもしれない)少年たちの物語です。

「物語に救われ、読書に呪われた」
君はなぜ、小説を読むのか?

まず、帯のコピーがすごい。私はなぜ、小説を読むのだろう……。もちろん、楽しいから読むのですが、それだけとも言い切れない気がします。

この物語のあらすじは以下の通り。

【あらすじ】
五歳で読んだ『走れメロス』をきっかけに、内海集司の人生は小説にささげられることになった。
一二歳になると、内海集司は小説の魅力を共有できる生涯の友・外崎真と出会い、二人は小説家が住んでいるというモジャ屋敷に潜り込む。
そこでは好きなだけ本を読んでいても怒られることはなく、小説家・髭先生は二人の小説世界をさらに豊かにしていく。
しかし、その屋敷にはある秘密があった。

Amazon内容紹介より

このあらすじだけでは、本書を手にとっていなかったかもしれません。私が『小説』を読んでみたいと思ったのは、昨年末にXでライターの鶴田 有紀さんのポストを見たから。

膨大な量の本を読んでいるであろう鶴田さんをして、“読めば読むほど底へ底へと導かれるようにのめり込んでいく”と言わしめるのは、いったいどんな物語なんだろうと気になりました。

その数日後に見た、小説家の凪良ゆうさん(『流浪の月』や『汝、星のごとく』の著者)のXポストで、さらにその気持ちは高まりました。

光の加減で色が変わる表紙デザインも素敵

最後まで読み終えて、呆然とした気持ちになりました。前半は、時間軸に沿って物語が進んでいく(「これからどうなるんだろう」というわかりやすい面白さ)なのですが、後半は想像もつかない世界に連れていかれた感覚です。

時間(過去・現在・未来)の境目が溶けて、空間を超えて……。はるか遠く、宇宙や神話の世界を旅してきたようであり、一歩も動かずにひたすら自分の内側にある螺旋階段をぐるぐるまわりながら降りていったようでもありました。

ごく個人的な感想なので的外れかもしれませんが、村上春樹さんの『騎士団長殺し』に出てくる「穴」と、この『小説』に出てくるモジャ屋敷の地下の穴蔵に、相通じるものを感じます。

手塚治虫先生の作品に通底する、ミクロとマクロが繋がるような感覚もありました。

世界は集まって意味を増やしてる。
人の心も意味を増やしてる。
嘘をついたら意味を増やせる。
意味を増やすための嘘。
外に出した意味。
外に出した嘘。
それが
“小説”なんだ

『小説』p.208〜209より引用

本書の感想をうまく書くことは難しいですが、小説に没頭した経験のある人に読んでほしい一冊です。宇宙とか、アヴァロンとか、予想もしないところに連れて行かれ、読み終わったとき、あなたの「内側」が増えているに違いありません。

(かつて『ホビットの冒険』に夢中になった少年少女だった大人には、とくに読んでほしいです)

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