
野崎まど『小説』|小説を読まずにいられない人たちの内側にある螺旋階段
野崎まどさんの『小説』を読みました。『小説』というタイトルの通り、小説に魅入られた(“取り憑かれた”と言ってもいいかもしれない)少年たちの物語です。
「物語に救われ、読書に呪われた」
君はなぜ、小説を読むのか?
まず、帯のコピーがすごい。私はなぜ、小説を読むのだろう……。もちろん、楽しいから読むのですが、それだけとも言い切れない気がします。
この物語のあらすじは以下の通り。
【あらすじ】
五歳で読んだ『走れメロス』をきっかけに、内海集司の人生は小説にささげられることになった。
一二歳になると、内海集司は小説の魅力を共有できる生涯の友・外崎真と出会い、二人は小説家が住んでいるというモジャ屋敷に潜り込む。
そこでは好きなだけ本を読んでいても怒られることはなく、小説家・髭先生は二人の小説世界をさらに豊かにしていく。
しかし、その屋敷にはある秘密があった。
このあらすじだけでは、本書を手にとっていなかったかもしれません。私が『小説』を読んでみたいと思ったのは、昨年末にXでライターの鶴田 有紀さんのポストを見たから。
野﨑まどさん『小説』(講談社)、すごかった!少年の話を軸に、現実や過去、物語の世界を行ったり来たり。でも、読みにくさを全く感じない。むしろ、読めば読むほど底へ底へと導かれるようにのめり込んでいく。宇宙や哲学的な話も興味深かい。『小説』は、私の内側を増やしてくれる一冊でした。 pic.twitter.com/kaRzcPeePX
— 鶴田 有紀 (@yuki930_writer) December 29, 2024
膨大な量の本を読んでいるであろう鶴田さんをして、“読めば読むほど底へ底へと導かれるようにのめり込んでいく”と言わしめるのは、いったいどんな物語なんだろうと気になりました。
わたしのベストブック2024は
— 凪良ゆう (@nagira_yuu) December 31, 2024
野﨑まどさん著『小説』でした!
物語の魅力を毀損せず紹介できる自信がないけど、間違いなく別世界に連れていってくれる。小説って楽しいし、小説ってなんだろうと考えさせられもした。すごく良き。この気持ちを読んだ人と共有したい。 pic.twitter.com/bUm5PtZeJ0
その数日後に見た、小説家の凪良ゆうさん(『流浪の月』や『汝、星のごとく』の著者)のXポストで、さらにその気持ちは高まりました。

最後まで読み終えて、呆然とした気持ちになりました。前半は、時間軸に沿って物語が進んでいく(「これからどうなるんだろう」というわかりやすい面白さ)なのですが、後半は想像もつかない世界に連れていかれた感覚です。
時間(過去・現在・未来)の境目が溶けて、空間を超えて……。はるか遠く、宇宙や神話の世界を旅してきたようであり、一歩も動かずにひたすら自分の内側にある螺旋階段をぐるぐるまわりながら降りていったようでもありました。
ごく個人的な感想なので的外れかもしれませんが、村上春樹さんの『騎士団長殺し』に出てくる「穴」と、この『小説』に出てくるモジャ屋敷の地下の穴蔵に、相通じるものを感じます。
手塚治虫先生の作品に通底する、ミクロとマクロが繋がるような感覚もありました。
世界は集まって意味を増やしてる。
人の心も意味を増やしてる。
嘘をついたら意味を増やせる。
意味を増やすための嘘。
外に出した意味。
外に出した嘘。
それが
“小説”なんだ
本書の感想をうまく書くことは難しいですが、小説に没頭した経験のある人に読んでほしい一冊です。宇宙とか、アヴァロンとか、予想もしないところに連れて行かれ、読み終わったとき、あなたの「内側」が増えているに違いありません。
(かつて『ホビットの冒険』に夢中になった少年少女だった大人には、とくに読んでほしいです)