見出し画像

『てのひらにほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』言葉を削ぎ落とした後に残るもの

すくない言葉で、人に何かを伝えるのは怖い。誤解を生んだり、意図しない受け取り方をされたりするかもしれないし、不親切な気もする。ずっとそう思ってきたし、今でもその気持ちは抜けません。

だから、つい私の文章は長くなってしまいがちです。仕事で書く文章では、そんな特徴を、「丁寧でわかりやすい」「読み手が知りたいであろうことをもれなく書いている」「誤解を生まない」と褒めていただけています。

しかし、裏返せば「書きすぎる(くどい)」「冗長」ともいえるわけです。個人的には「書きすぎず、よりすくない言葉で端的に言いたいことが伝わる表現とは?」を模索し続けています。

そんな私は、昨年、短歌というものに出合いました。もちろん、小中学校の国語の教科書で短歌を習ったし、高校時代には『サラダ記念日』を何べんも読み返しましたが、それはどこか「自分とは無関係なもの」だったんです。

しかし、宿木屋という会社で一緒に仕事をしている三角園いずみさん(@izumiM1207)が短歌を詠んでおり、それをSNSで発信していたことで「自分のいる世界と地続きのもの」として、短歌に出合い直しました。

彼女の詠む短歌は、ごく当たり前の生活のワンシーンや日常の光景を切りとったものが多いです。歩んできた人生も、今のライフスタイルも違うのに、「あ、その感覚、私も知っている」と思うことが何度もありました。

短歌なので、使えるのはたった三十一文字(みそひともじ、と読むそう)。こんなにすくない言葉なのに、どうしてこんなに情景や現状が伝わってくるんだろうと不思議でした。言葉そのものよりも、言葉のまわりに漂っている余白のほうが、むしろ饒舌なのではないか、と感じるほど。

そんな三角園いずみさんと、宿木屋代表の宿木雪樹さん(@yuki_yadorigi)が、2024年12月に、短歌集(ZINE)を出しました。タイトルは『てのひらにほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』です。

(※宿木屋チームで制作していたので、私も見本誌を一冊いただきました)

タイトルそのものが一首の短歌なのですが、その中に二人の名前(「泉」と「雪」)が入っているのがすごく素敵で、てのひらで雪が解けて、その水が陽の光を受けてきらめいている……そんな情景が目に浮かびました。

短歌集の紹介画像と、紹介文を以下に貼り付けます。

『てのひらにほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』は、三角園いずみと宿木雪樹のふたりによる短歌集です。

三角園が「私の私による私のための営み」として詠んだ短歌を見て、宿木が短歌というものに興味を持ち、自分も詠んでみたいと思ったことから、この短歌集は生まれました。

本書には、三角園の短歌と、それに応える形で宿木が詠んだ短歌が一首ずつ交互に並んでいます。生きる場所、ライフスタイル、考え方、すべてが異なるふたりが、短歌を通じて見る風景や内面の違いを楽しんでいただけたら幸いです。

冊子には、タイトルとなっている歌から連想したモチーフを配し、雪が降るようすを思わせる模様が入った半透明のカバーをかけ、薄く透けて見えるようにしました。

BOOTH商品説明より

冒頭で、「すくない言葉で、人に何かを伝えるのは怖い」と書いたように、言葉は、削ぎ落とすほどに相手に委ねるものが大きくなります。

どんどんどんどん言葉を削ぎ落して、最後に残るものは、いわば凝縮されたエッセンス。とろりと濃密で粘り気のあるもののような気がするけれど、いずみさんや雪樹さんの詠む歌は、どこかカラリとしているんです。

伝えることを諦めてるわけじゃなくて、伝わりますようにと祈りながらも、どう伝わっても仕方ないと腹を括るような感じ。 

きっと短歌には正しい読み方なんてなくて、どう感じるかは詠んだ人の自由なんだと思います。時系列とか、道理とか、そういうのをすっ飛ばして、「この一瞬」を切りとって残しているから、それがどんなシチュエーションだったのかは、読み手が勝手に想像できるのもいいな、と。

私はこの短歌集を、最初は夜更けに読み、次に朝日の中で読んだのですが、受ける印象の違いに驚きました。そのときの気持ちを詠んだ歌がこちら。

夜と朝みそひともじの色かわる透けるヴェールをめくった裡(うち)に

手元に置いて何度も読み返し、時間帯やそのときの心境による味わいの違いを楽しみたい短歌集です。

『てのひらにほどけた雪の描き出すちいさな泉へ放つひかり』は、以下オンラインショップ(BOOTH)で購入できます。短歌が好きな人だけでなく、ほとんど短歌を詠んだことがない人も、ぜひ手に取ってみてください。

宿木雪樹さんと私(ayan)による旅エッセイ集『往き、綾なす』とのセット販売もあります。(別々に購入するよりすこしお得です)

私はビジネス系&トラベル系を中心に執筆するフリーライターです。このnoteでは旅の記憶と読んだ本の感想を中心に、好きなことを書いています。「ちょっと好みが近いかも?」と思ったら、ぜひフォローしてください!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集