退職の練習⑤花見酒
私の出身は弘前市だ。大体弘前市の人間と言うのは、やはり、桜の時期になるとはかはかして落ち着かない。(「はかはか」津軽弁かと思っていたら、東北のあちこちで使うらしい。ハラハラドキドキする、気をもむなどの意。)春が来て、桜の季節が来ると、どこかでいい桜を目撃せねばならない、と思っている。
私の住んでいる八戸市にも結構な桜の名所はあって、八戸で十分じゃん!と思っているのだが、さて、弘前にでも遊びに行ってみるかー!と、弘前公園を目指してみると、やはり、桜のヴォリュームが違う。
木の幹は太く、花芽が多く、桜はずっしりと咲いている。
おでんに入っている煮たてのまだ白っぽいゆで卵と
年季の入ったナカの黄身まで出汁の沁み込んだ卵ぐらいの
違いがある。やっぱ、こんなに違うもんかな~と不思議に思うのである。
コロナ禍が奪っていった人々の楽しみはたくさんあると思うが、中でも大きいのは「お花見」ではないかと思う。今年の4月から自由人であるから、皆が仕事に励む中、弘前公園で、飲んだくれていようと心に決めていた。
飲酒禁止でも、こっそり、ヒップフラスコに酒を忍ばせて、勝手に飲もうと思っていたが、ニュースで、飲酒も自由と聞いた時には、やはり、嬉しかった。
こそこそとしないで、何の後ろめたさも無く、
飲めるって素敵(⋈◍>◡<◍)。✧♡!
実家にすでに母は亡くなっていて、空き家状態。しかし、仲の良い姉夫婦が弘前にいる。泊めてもらうことにして、ダンナと弘前公園を目指した。
弘南電鉄で、まずは、街中の中央弘前駅に降り立つ。
片道、大人270円と、距離の割にはそんなにお得感が無いが、姉から帰りは100円で帰ってこれる「わにさぽ」というカードがあるのだと教えてもらう。鉄道と町中の店舗が協力したシステムで、レンガ倉庫美術館が100円引きになったり、中三というデパ地下で買い物すると、ハンコをついてくれて、帰りの運賃が100円になるのだという。
めんどくさそうなダンナを説き伏せ、まずは中三の地下で、ビールのつまみをゲットすることにする。鶏むね肉の唐揚げとキシリトールの飴を別々に会計して、帰りの運賃の100円が約束された。
ここでビールを買おうと思ったが、歩いているうちに泡立っても嫌なので、近くのコンビニで買おう、と歩き出した。
コンビニの場所を一つ覚えているけれど、そこは経由しない道なので、別なコンビニをあてずっぽうに求めて、いつもは行かない道を歩いた。
いつもは行かない道と行っても、弘前公園は眼の前にあり、桜の咲くお堀のまわりをぐるりと歩いているのである。いつもは追手門から入るのだが、コンビニを求めて、どんどん、いつもは行かない道を歩く。
桜祭りは妙に早い桜の開花に合わせて、急ピッチで進んでいるが、まるで追いついていない。この日は4月11日(火曜日)なのだが、天気の良さも相まって、桜はどんどん満開の様子を呈していく。
桜祭りが始まると、きっと殺人的な人ごみになる気がするが、その時には満開の桜はあるんだろうか?今はぽっかりと空いた桜祭り前の平日。
自由人の老夫婦、旅人、地元民、大学生たち、職場の同僚といった限られた人々しか歩いていないと思われるが、それでも、ひっきりなしに人々がそぞろ歩きしている。
我々は途中でつぶれて建物だけになったコンビニを一つ見かけたが、まだビールはゲットしていない。
やばい。花見酒が無いまま、歩き続けている。
ねぶたの館に到着。日本酒の絵を見つけて、きっとビールもあるはずと中に入る。よかった!あった!アサヒスーパードライを2缶、ゲット。
安心して、目的地に向かう。
いつもと全く反対側から公園に入ってきたが、いつの間にか、目的地の西濠の近くまで来ていた。やったあ!さっきの遠回りもなんのその、西濠の空いたベンチを探しながら、さらに歩いていく。
風は強いが天気はいいので、ベンチで本を読む人やお菓子を食べる人、桜を眺める人々がいる。
あそこにしよう!
スーパードライを開けて、唐揚げをつまむ。
西濠で花見酒としゃれ込んでいるのはどうやら我々だけのようだ。今は亡き母と、ここで飲んだりしたことが懐かしい。さっき歩いた45分の道のりも、ビールの味を美味しくしているに違いない。
ダンナもいつになく、いい表情をしていた笑。
日本一の桜で飲む、花見酒、最高!