雪の降る青森に来て、観て✧♡②
大学卒業後、私は美術教師として生きていたし、奈良君は世界的アーチストとして活躍していた。
ある時、弘前市で行われるAtoZ展で、世界的アーチストと会える会が催された。八戸市の学校にいたが、仕事の休みを取り、弘前市のそのパーティに駆け付けた。美術館で絵を見てから、初めて、本人に会うのである。
皆で立食パーティーをしている会場に奈良君はいた。同級生が、
「奈良、どこにいるのよ。
おめ、もうちょっと世界的アーチストとしてのオーラだせじゃ!」
と津軽弁でけしかける程、オーラを消してTシャツとGパンで会場にいた。
昔一緒に映画を見たほど親しい仲であるのに、あまりに年月が隔たりすぎてなんと声をかけていいのかわからない。
しかも相手は突然、世界的アーチストになっている。
「奈良君、いっしょに写真撮ってくれない?」
私が何年振りかで言った言葉はそんなつまらない言葉だった。
なぜなら、今現在、美術教師だし、この世界的アーチストと撮った写真があったら、教師として、かなりオイシイからだ。
彼はなんかがっかりした表情で
「わ、写真さ撮られるのあんま、好ぎでねんだねな」
と津軽弁なまりで言った。
その正直なコメントを聞いて、私はとっても反省した。
私の言葉は久々に会った友人に言うような言葉じゃなかった。
もしかして彼は、誰からも(たとえ友達であっても)そんな、世界的アーチストとしての言葉をかけられていたのかもしれない。
でも、ただのファンには絶対言わないような嫌味を私に言ってくれたのは、ちょっと嬉しくもある。
「でもいいや!写真撮ってもいいや。」
と言ったので、私は奈良君と写真に納まった。
なんかもの凄く後悔する。
世界的アーチストは昔と変わらないTシャツとGパンで、そんな彼よりも、りっぱなスーツを着ている自分が恥ずかしい。
その後も、奈良君と個人的な会話を交わす機会は全く訪れないが、ひょんな事に、時々遭遇し続けた。
一回は生徒を高校の総合文化祭に引率していった時。
貸し切りバスで、ついでに八甲田の山の中のACACも見学コースにいれていたら、そこに歩いて向かう途中、向こうから歩いてくる奈良君に、ばったり、出会う。
私は、またしても不自然極まりない様子で、
「あれ?そこにいるのは、もしかして、
世界的に有名な奈良美智さんではありませんか?」
と芝居がかったセリフを言った。引率した生徒に教えるためであった。
(↑ 今、読んでみても、この状況、かなり滑稽である笑)
彼は私に気づいて立ち止まった。
「どう?この人、いい先生ですか?」
と反対に生徒に質問していた。
私は何度もやらかしているような気がする。
ただの知人としてあいさつすればいいのに、毎回、世界的アーチストって肩書に動揺している。
二回目は、姉と2人、青森県立美術館で開催されていた奈良美智の展示を観て、講演を泊りがけで聞きにいった時のこと。
講演の前日から、ホテルを取っていたが、姉と二人で、町のどこかで飲もうと歩いていたら、またしても、歩道で、奈良君とばったり遭遇した。
その時も奈良君は私たち姉妹よりもずっとリーズナブルなホテルに泊まっていた。なんの会話を交わしたのかも記憶にないけど、姉とは幼馴染であるし、私とは映画を共に見た仲なのに、なんとなくとても近いけど遠い。
次の日が本題で、奈良君の講義を聞いた。
それがちっとも面白くなく(←失礼だw)、二人は早々に退散することにした。
「なんかさ~、美術の中で奈良美智という作家の作品が
特別に好きなわけじゃない。」
と、私は姉に言った。
「でもさ、あれ、世界を舞台に、
奈良君が頑張って、作品を作っているかと思うと、
我々、ただ応援しているだけだよね」
ただの奈良君を応援していたということに今更ながら気が付いた。
世界的アーチストとかどうでもいい。
ただのナラ兄いを好きなだけだと、ずいぶん経ってからわかった。
姉が奈良君のメルアドを知っているというので、実家に帰って盛り上がると、美智どうしてるんだべ?という話になり、弘前に帰ってきてるんじゃない?とメールすることがある。
うっかり会えたりしたら嬉しい。
その返事は全くいつくるかわからない。
次の日のこともあれば一か月後のこともある。
カラオケでデビッド・ボウイの歌を歌った時、ふと、奈良君が自分の声質がボウイと似ているからよくライブで歌ったっていう話を思い出した。
今度カラオケでボウイの歌を歌おうと奈良君にメールして、と姉に送らせる。
ーいいや
そんなどうでもいいメールに返事は早い笑。
世界的アーチストは相変わらず、いつものナラ兄いなのだ。
今度、ばったり会ったら、ふつうの知人として話しかけようと私は決心している。
もうすぐ自分も美術教師ではなくなるし、相手がたとえどんな世界的アーチストであろうとも、そんな肩書はどうでもいい。
次に会った時は、ただの人間として話しかける。
そして、デビット・ボウイのスターマンを一緒に歌えたら嬉しい。
「一緒に歌うぞ!スターマン!」と私。
「おう!」と姉が答えた。(つづく)