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初めての……… care4

去年の夏、海に行った。
二泊三日で、渋滞や混雑はイヤだからと、地方の穴場の海水浴場に行った。観光地ではなくて、地元の人しか知らないような所だった。
ローカル線とバスに揺られて、ぼくたちは大した荷物もなくて、ただの買い出しみたいで、県外から来たようには見えなかったと思う。
昼過ぎに到着した浜辺は、小さな売店があるだけで海の家と呼べるようなものは無かった。水着すら用意しない両親は、日焼けしたくないと言っては、売店のパラソルの下を動かない。ぼくは一人波打ち際で遊んでいたけど、他の海水浴客は親子連れで、しかももっと幼い子たちだし、話す言葉も耳慣れない方言で、次第に気まずくなっていった。
「ママ」
呼ぶと、ママは嫌々、パラソルの陰からやってきた。
波打ち際で不意に大きな波に襲われ、ずぶ濡れになったママは、水着でなくてもキレイだったし、子供ながらに色っぽいと思った。
濡れなさそうな岩場?磯?に行くと、ヤドカリやイソギンチャクがたくさんいた。
白っぽい塊もいる。
ウミウシってやつだと思う。
グロテスクなその姿に、ママは本気で具合が悪くなったらしく、その日はそのまま宿へと引き上げた。
旅館とかホテルとか呼ばれるような大きなものではなかった。民宿とかでもない。宿屋、って感じの、こぢんまりとした渋いところだった。夕飯は、随分凝ったもので美味しかったが、海にきて天ぷらが出てくるのはヘンテコな気がした。
お客は少なく、お風呂はほぼ貸し切りだった。
ゲンセンカケナガシ?とかではないらしいけど、一応温泉らしくて、だだっ広い。
それをいいことに、親子三人で入った。お母さんもママも、すっぽんぽんで、ぼくだけタオルで前を隠して、最初は恥ずかしかったけど、背中の洗いっこからシャンプーで泡ぶくになって、悪ふざけが始まって、それは昼間の海水浴より楽しかった。
二日目、お母さんがTシャツに短パンのまま海に入ったけど、柔道のコーチをしているお母さんは、筋肉質で、水に浮かぶのが苦手。二人で、下手くそなフォークダンスみたいに、なんだか分からない水遊びをした。
午後は、漁港の市場をうろついてお刺身とかをつっついた。
夜──────
宿の部屋、布団の中で二人はひそひそと話していた。
時々、ヒステリックな感じになったり、泣いてるような感じになった。
それも次第に、吐息と、あえぎ声に変わった。
ぼくは寝たふりをして、必死に聞こえないふりをした。
いつしか本当に眠りに落ちて、朝がやってきた。
三日目。
家に帰る日だ。
二人は寄り道をした。
「いい?」
「うん」
古いけど小綺麗なお家の前で二人は足を止めた。
ママは震える手でチャイムを鳴らす。
「はーい」
おばさんの声の返答。
お母さんとママが、ぎゅっと寄り添うのが分かった。
「どちらさま?」
玄関に出てきたおばさんは、どことなく誰かに似ていて、どこかで会ったことがあるような気がする。
「あ、あの………」
ママが言葉を募らせる。
「お母様、初めまして」
お母さんが前に出て頭を下げた。
一瞬『え?』という顔をしたおばさんは、すぐに全てを理解し、泣き崩れた。
ママにすがりついて。
「まことっ」
「お母さん……ただいま」
10数年ぶりに、ママは実家に帰ったのだった。
結婚と、出産の、随分遅い報告の為に。
そのおばさんは、ぼくのおばあさんだった。

あれから一年になる…………

「あ」
ゆうは目が覚めた。
常夜灯で薄暗い。
一瞬、ここはどこだ?と戸惑ったが、すぐに入院したのだと思い出した。
まだ夜中だろう………
消灯が早かったからか、かなり寝たような気がする。緊張した入院生活一日目だったが。かえって、よく寝れたのかもしれない。
ベッドや枕も、病院のものだが、合わないという事もなかった。案外、自分の神経は太いのか。
親元を離れて一人で寝るなんて、初めてなのに。
お母さんのおばあちゃんたちの所に泊まっても、林間学校でも、一人はなかった。
初めての一人の夜。
だからあんな夢を見たのか…………
ママが、色々大変だったのは分かる。
ママが好きだった。
なんだかんだいつも甘い。お母さんみたいに口煩くない。でも、きっぱりとダメなものはダメと言う。
ゆうは立派な人だと、思っている。
ママが恋しいのか、もうホームシックなのか。
そんなバカな、と恥ずかしくなり、ごろんと寝返りを打った。
それに気が付いた。
「へっ?」
ぐちゃっ、という感触。
なんだいまの?と、恐る恐る、おむつを引っ張り、覗いて見る。
尿とりパッドが見えた。
それがパンパンに膨らんでいる。
失禁していた。
おもらし、おねしょだ。
初めて一人で過ごす夜。
ゆうはおもらしをしていた。

“ど、どうすれば???”

混乱し、程なくナースコールの存在に気が付いたが、いや、ちょっとそれは抵抗がある。幾ら気軽に呼んでと言われようが、おねしょは………
しかし、この病院ではおむつに排泄せねばならないという。では、これから毎日こうなるのか。昨日のあやのの言葉によれば、朝おむつ交換があるという。その時には、看護婦に否が応でもおねしょがバレるし、見られるし、何ならキレイに始末してもらう羽目になる。
そうしなければならないのは解っているのだが、抵抗は大きい。
せめて、昼間ならマシだった。おねしょというのが、頂けない。この歳になって『一人で寝たらおねしょしちゃいました』は、みっともない。
まさか、と思い、シーツに触れてみるが、そちらは汚していないようだ。着けた状態だと歩きづらいくらいの分厚い尿とりパッドとテープおむつが、全てを受け止めてくれたのだろう。
ありがたいのは、ありがたい。
もし、パンツだったら、と思うとゾッとする。
取り敢えず、その最悪の事態ではなくて良かった。
「……………」
そっとおむつに触れてみる。
吸収したおしっこでパンパンに膨張している。
こんなに出ちゃったのかよ、と凹んだ。
確かにちょっと気持ち悪い。股間が濡れているのだから、当たり前だ。
早く取り換えたい、とも思うし、看護婦に見られるのは嫌だ、とも思う。汚いし、臭いだろうし。
「うわぁ…………」
汚物を処理してもらうという事が、如何いかに恥ずかしいか、ゆうは想像して赤面し、両腕で顔を覆った。

どうしよう、
どうしよう、、
どうしよう、、、
どうしよう、、、、

悶々と思考を巡らせるが、何も思い浮かばず、そうする内に新たな尿意を覚えて、ゆうは夜明けまでの数時間、尿意をこらえ続けた。
そうする内にふと気が付いた。

これってもしかして…………
先日の、夢精がきたことと関係しているのか?
もしや精通がくると、失禁してしまうようになるのでは?と。

「ゆうくん、おはよ」
おっとりとした声に、はっと目を開ける。いつの間にか眠っていたようだ。
看護婦、鈴木まどかが、マスク越しにも分かるほどニコニコとゆうを覗き込んでいた。
夜が明けている。
「あ、お、おはよう」
今はベッドサイドの時計に目をやる。7時になっていた。鈴木看護婦は朝のおむつ交換に来たのだ。 

おむつ交換─────

「あ、あの❗」
「どしたのー?あんまり眠れなかったー?」
笑い、布団がめくられる。
「いや、あの、ぐっすり寝ちゃったんだけど、その………」
おねしょを何と言えばいいのか、結局上手い言い方が思い付かず、ゆうは口ごもった。そんな患児の様子に、ベテランの看護婦はすぐに気が付き、思い当たったらしく、
「大丈夫、大丈夫❤️」
と、優しくおむつの股間を撫でた。
ぐちょっ、とした感触に、ゆうは更に冷や汗をかいた。
絶対に夜中に目覚めた時より、多い。また漏らしてしまったのだ。
「や、ヤバい」
「何が?おしっこする為のおむつなんだから、して良いんだよ?」
「そうかもしれないけど……」
「おねしょは恥ずかしいって、思ってるのかなぁ?」
「そりゃそうだよ………」
恥ずかしくて涙が滲む。
恥ずかしいに決まっている。
「でもさ、赤ちゃんとかお年寄りとか、それから病気の人は仕方ないでしょ?」
「う、うん、でも」
「ゆうくんは患者さんなのよ?」
「…………」

“ゆうくんは患者さん”

病人なのだから、仕方ない。それは間違いないのだが、その事実を受け止め切れない。齟齬そごが生じている。
「…………」
べりべりとテープが剥がされ、おむつが捲られた。
凄い事になっている。
尿の臭いが病室に溢れていく。
尿とりパッドは、黄色く膨らみ、おむつ本体も湿っている。こんなに沢山、おしっこをしたのだ。思えば、昨日はトイレに行っていない、というか、トイレは無い。おむつにするというルールに抵抗があって、一度もしていないし、不思議な事に尿意も感じなかった。
「おちんちん、痛痒くなぁい?」
鈴木まどかは手袋を嵌めると、優しくウェットティッシュ状のおしり拭きで、ゆうの陰部を清めてゆく。その陰茎が硬く膨らんでいることに、ゆうはショックを受けた。
「…………」
「あ、おちんちん?まあ、仕方ないよ。病気なんだからね」
「う、うん………」
そうか、やはり病気だからこうなるのか…………
失禁してしまうのも恐らくは、精通が始まったからなのだ。おむつが必要なわけである。
ショックではあるが、ゆうは妙に得心していた。必要だから在るのだ。おむつも当然なのだと、仕方なく思った。理性の上で、ある程度は……納得がゆく。気持ちは中々、ついて来ないが。
「ねえ、ゆうくん」
「な、なに?ぼく、自分で……」
汚い股間や、おしっこまみれのおむつの始末までしてもらい、ゆうは申し訳なく思った。やれる事があれば、自分でやろうと思い、そう答えるも看護婦は首を左右に振る。
「それは大丈夫よ。看護婦さんに任せてね」
「あ、ありがと」
「そうじゃなくてね、うんちはどう?」
「……………」
いきなりハードルが跳ね上がった。
おしっこはしても、大便は、、、、
あまりにも抵抗があるし、そもそも、寝たままどうやってするのか??
「え、いいよ、まだ出ないから」
ブンブンと首を左右に振る。
「お腹苦しいなら浣腸するよー?」
「い、いいよ」
「浣腸しといた方がいいと思うけどなぁ」
苦笑し、看護婦は汚れたおむつを少年の下腹部から引き抜いていく。
「腰あげれる?ダメなら、横向けるかな?」
「あ、うん」
大人しく少年は、看護婦の指示に従いおむつを替えられる。日中はリハビリパンツの着用となる。
「スッキリしたでしょ?新しいおむつ気持ちいいねー❤️」
「うん………」
汚れたおむつからキレイなおむつに替えてもらって、確かに間違いなく気持ちいい。爽快だった。
話が脱線するが、例えば寝たきりの高齢者ばかりの病院などでは、3時間毎に1日8回おむつ交換するケースすらある。全くコントロールが出来ず、漏らしっぱなしになってしまうから、なるべく快適にしてあげる為である。逆に、杜撰ずさんな所だと半日に一回、排泄してもそのまま放置という所もある。尿とりパッドしか交換しないパターンも存在する。
それに比べたら、恥ずかしかろうが、頻繁におむつ交換してもらえるのは間違いなくありがたい病院と言える。姫川病院は、随時。何時でも即、交換している。
「あの、ごめんね」
「だーいじょーぶ、って言ってるでしょ🎵ゆうくん、いいこね❤️」
うっすらと、ゆうはありがたい事をして貰っているのだと悟り、感謝した。
入院して初めてのおもらしだった。

「おはよー😄」
担当看護婦のあやのが出勤してきたのは、おむつ交換が終わり、バイタルチェックを受けて8時の朝食が配膳された後だった。
「あ、おはよう」
少しはにかみながら、嬉しそうに少年は顔を上げた。
表情から、しぐさから、親しみ、安心、好意が感じられる。少年が心を開いてきている事に看護婦は北叟笑ほくそえむ。
「今日の朝ごはんはなーに?」
「なんか洋食」
ハムとチーズの挟まった重く固いベーグルに、クラムチャウダー、プレーンのオムレツ、オレンジが半分。そして牛乳。なかなか美味しそうではある。
あやのはその水分量と栄養価を大まかに予想し、腹の中で笑う。ここ姫川病院の栄養士や調理師は優秀だ。
「美味しそうじゃん」
「うん。うちのお母さん、コーンフレークとかお茶漬けばっかりだから斬新。ママが休みの時は、朝から色々作ってるけど」
「ゆうくんもお手伝いするの?」
「うん。ハンバーグとかこねるの楽しいよ。看護婦さんは?」
「あたしは食べる係。誰も作ってくれる人いないけど」
「ダメじゃんwww」
けらけらと笑う。
あなたを調理して食べちゃいたい、とは口が裂けても言えない看護婦は、別の意味で笑った。
「さて、ナースステーションに行くからね」
「はーい」
極端な好き嫌いもアレルギーもないので、助かる子だ。あれも食べられない、これもダメという子だと戦略、もとい、看護計画にあれこれ制約がかかり厄介だが今のところ、ゆうは理想的な患者である。美少年と言っていい容貌もあるし。
あの形のいい小さなお鼻にマーゲンチューブをぶちこんで、流動食を流しこんでやりたい、と看護婦は唇を舐めた。

「あれ?あやのさん早いのねえ」
ナースステーションにいた夜勤の看護婦数名が、随分早いあやのの出勤に驚きつつ挨拶する。
「お早うございます。ゆうくんが気になって」
そう答えると、皆、笑った。
「すごいかわいい子よね」
「でもおっきいんでしょ?手術かわいそー」
「ですよねー」
などとやっていると、夜勤の鈴木まどかがやって来た。
夜勤者は、日勤と異なり、複数の子を担当する事となる。彼女も五人受け持っている。ゆう以外の患児のところに行っていたのだろう。それでも余り疲労を感じさせないのは、夜勤専門の矜持か。
「もう❗️自制心がないんだから………」
苦笑いを浮かべ、あやのの背中を叩く。長い付き合いなので、それなりにお互いを分かっている。
あやのの歪みも。そして、まどかはまどかで、かなり歪んでもいるが。
「あないなボクちゃん前にして辛抱しきれへんわ」
「はいはい………」
昨夜の状態をあやのに引き継ぐ。
ラウンドと言われる巡回を二回。
おねしょをしているらしい事は、深夜二度目のラウンドで実は確認していた。それから、ゆうが目覚めて、失禁に困惑してる事もドアのカメラで確認し、そこからは画像による巡回しかしていない。朝までおねしょを知らんぷりする為である。
「泣いちゃったりするかな、と思ってたんだけど、根性ある子ねえ」
「そうね。賢いし、強い子だわ」
今は呑気な事も言ってられるが、手術となると夜間、苦痛に泣きじゃくる患児をなだめたり、適宜てきぎ、痛み止め等投与するのも夜勤看護婦の役目でもある。まどかは優秀だし、気が利く。
おねしょを朝まで見て見ぬふりしてくれたのも、ゆうにとっては効果的だろう。
「………かなり尿量はあったのね」
「そうね。パンパン😁あなたが意地悪したからでしょ」
「なにゆうてはるんやろ、この人」
看護記録を眺めながら惚ける。
ゆうの尿量はおむつを計りに載せて計測してある。
一般に、学童期の子どもの1日の尿量は凡そ1000mlほどだが、摂取した水分や食事、運動量、体格などにもよって個人差がある。ゆうの昨夜の尿量は、平均を大きく上回るものだった。あやのがこっそりと指示した利尿剤の影響である。排尿してまた眠ってしまったのも副作用だろう。
「便はないのね」
「そうねえ。残念ねえ」
「まあ、いいですけど💨」
それもあやのの狙いでもあった。

昼前……………
「おっはよーございまーす❗️❗️❗️」
バカでっかい声と共に1021の病室に現れたのは、女医、石黒ゆうかだった。とても小柄なので白衣がダブダブで裾を引きずりそうになっている。小学生と変わらない。
「な、なんですか、石黒先生?」
唐突な、ちびっこ女医の登場に、ゆうの体を清拭せいしきしていたあやのと小田歩美は面食らった。
「本日、如月先生の診察はありませんのでっ❗」
「ああ………昨日の羽山先生の無茶でね……」
と歩美。しない予定の診察を、昨日、羽山医師が強引に行ったので、本日は必要なし、との判断だろう。まだ特に何も処置してはいないので、不要なのは事実だ。1日で何が変わるという訳もない。
「まったく❗呆れた人ですねっ、あの羽山先生はっ❗」
プンプンと憤りながら石黒医師はベッドサイドへやって来た。
「お加減だいじょうぶですかー、ゆうくん?」
「あ、はい」
なんだか同年代の子どもみたいな医師に訊ねられ、ゆうは困惑しつつも頷いた。
背丈も変わらないだろう。
「ちんちん痛くありませんかっ?」
「い、痛くないです」
満面の笑みで凄い事を訊かれる。
「では、ちんちんをいじったりしてませんねっ?」
「は、はい……」
困って、少年はあやのを見やる。
「あの、石黒センセ、代理で問診なさりにいらしたんですか?」
助けを求められたあやのは、ちっこい女医に尋ねた。
「いえ、そうではなくてですねっ❗清拭は終わりましたかっ?」
「え、はい?もう終わりますけど」
あやのと小田歩美は、ゆうの体を拭いて、新しい寝巻きを着せているところだった。
「では、お外へ行きましょー🎵🎵🎵」

本来、それなりに広い筈の中庭は薔薇バラ百合ユリ紫陽花あじさいすみれなどの内、四季咲き、多年草の品種が植えられて、それらは予想外に逞しく『ここはあたしらの縄張りだよ』と、かなりの面積を占領してしまっている。小さな植物園となってしまったが、一つ一つは小ぶりな花たちは、可憐で、いじらしく、姫川院長他お偉い方がそのままで良いんじゃね?との判断で繁茂していた。通路や、ベンチなどは清掃、園芸の業者が手を入れているので不便はないが。
中には、患児たちが退院の時に植えたものもあるという。今ではどれがどれだか分からないが。 
床にタイルが張られ、小さなアーケードがついた渡り廊下以外は玉砂利が敷かれ、履き替え不要となっている。


「……………」
なんでこうなった。
中庭に集められた数名の患児たちとその担当看護婦。
運動という名目で、石黒医師によって外へ連れ出された面々は、全員頭の上に「?」を掲げている。
「はい、手をぶらぶら~❗️」
整列させた一同の前で、ちっこい女医はぶらぶらと手を振っている。体操のつもりらしい。それを仕方なく真似て、ぶらぶらさせる患児たち。更に仕方なく嫌々渋々むを得ず一緒にぶらぶらさせる看護婦たち。
「……なんでわたしまでぇ……」
清拭の為に一緒にいたのが運のつきだった小田歩美が、予防衣のままヘンテコな体操を強いられ、ぼやいた。
他のナースたちは白衣のみだが、あやのと歩美はその上に予防衣を着ている。暑いし運動しづらいことこの上ない。
「では片足を上げてぶらぶら~❗️❗️❗️」
「……か、片足?よっ、おっ、おわぁっ!?」
「うわっ、ちょっと!?」
運動なんて全く出来なさそうな歩美が予防衣をたくし上げて片足を上げ、バランスを崩してたたらを踏む。転びそうになり隣の看護婦に寄りかかって、しがみつき、足を踏んだ。すいません🙏と頭をブンブン下げている。
それを見て患児たちは笑った。
10名。
ゆうは間違いなく一番、幼い。
殆んどが中学生だろう。
何人かは面識もあるが、半数は知らない。別のフロアの子たちだ。
皆、おむつで運動などさせられて、赤面し、中にはヤケクソで全力になって体操している子さえいる。
看護婦たちは『私ら何してんの??』と疲れた顔をしているが。子どもたちには、いい気分転換だろう。
石黒医師は、バカっぽいが、案外、いい医者だとあやのは思う。まだまだ技量や経験は浅いが、患者に親身になっている。彼女なりに、色々考えてもいるし、よく見ている。この唐突なイベントは、ナイーブな子どもたちを励ましたかったのだ、と思われる。
「ちょっと、ストッキング伝線しちゃったじゃない💢」
「あはは……す、すいません」
歩美に足を踏まれた看護婦が憤慨している。
ストッキングは、飛沫感染防止の観点から着用が定められており、汚れが分かりやすいように白い。それが無惨に伝線していた。彼女は、一旦、履き替えなければなるまい。
余談だが、姫川病院の白衣は幾つかデザインが指定された貸与品だが、ストッキングとナースサンダル、シューズは自前で購入する。サイズが人それぞれだからである。下の売店でも販売されており、経費で落とせるのだが、めんどくさい。
予防衣、エプロンなども病院の備品ではあるが、こちらは華美なものでなければ自前でも可ではある。あやのは自前だ。
「あはは」
歩美らのやり取りを眺めていたゆうは、プンプン腹を立てている看護婦が担当しているであろう患児と目が合った。
「ハロー」
気が付いた彼女が手を振る。
そう。
男の子には見えない。
完全に女の子だった。
年齢は高校生くらいか……大分、ゆうよりお姉さんだろう。彼女は、杖をついてゆっくりとゆうに歩み寄って来た。
「わたし、忍。キミは?」
「あ、ぼくは鷲井ゆうって言います」
「ゆう?優しいのゆう?友だちのゆう?」
小首を傾げる姿が、なんともコケティッシュだった。彼女、忍は髪の毛もセミロングで、着ているものこそ同じような寝巻きのロング丈だが、容姿は完璧に女の子のそれだった。乳房も膨らんでいるし、ブラジャーのシルエットも浮かんでいる。おしりが丸く膨らんでいるのはやはり、おむつなのだろうか。
「えっと、ひらがなでゆうだよ」
突然、年上の女の子に声を掛けられて、ゆうはどぎまぎと答えた。
「へー。かわいいね」
忍はくすりと笑う。
「あの……忍……ちゃん?」
「うん、なあに?」
「忍ちゃんは、その、手術したの?」
「うん。これからまた何回かね。どうせなら、綺麗になりたいじゃない」
ふふん、と誇らしげに笑う。
実際、忍はそこらの同年代の女子高生よりも美少女だ。
ゆうはちょっと衝撃だった。
どうせなら綺麗に──────
そんな考え方もあるのか。
「ぼ、ぼく昨日入院したばっかりで」
「あ、そうなの。ルーキーじゃん」
空いてる方の手で、ゆうの手を取り握手する。その爪にはお花のネイル。とことん女の子だ。
「ヨロシク🎵ゆうは何歳?中学生じゃないよね?」
「今、六年生。夏には12歳になるよ」
「うわー、早かったんだね」
「………うん」
他の子たちも、明らかにゆうより歳上だろう。この年代の子の1、2才の差はとてつもなく大きい。
「がんばってね」
頭を撫でられた。
「治療は辛いと思うけど、いい事もたくさん必ずあるから」
「うん」
いい事。
思えば、ママ………鷲井まことも。彼女と同じ年頃で入院し、長期治療を受けたという。それは間違いなく辛い出来事だろうが、結果としては鷲井翠と結婚して今に至るわけだ。その事実と忍の言葉は、何か希望というか、空を見上げさせるようなものだった。
「何階の子?」
「ぼくは10階。1021号室」
「私はその上。11階の1138。今度遊びに来なよ」
「え、でも勝手には………」
「ちゃんと言えば、へーきよ?ねえ、ゆうくんの看護婦さん?いいですよね?」
黙ってゆうと忍のやり取り&小田歩美と忍の看護婦の口論を眺めていたあやのに話を振る。
「まあ、いいけど。長時間はダメよ?」
ちら、と見てあやのはそう答えた。忍は術後、一週間ほどだろうか。何度目の手術かは分からないが、杖の存在と歩き方、石黒医師の呼び出しに乗っかったのはリハビリだろう、との分析からそう判断した。
まだまだしんどいだろうに。
ゆうに声を掛けたのは、歩美が揉めているのもあるが、その切っ掛けがなくとも、そうしていただろうと思う。
この中で一番、幼いゆうに対して母性を抱いているに相違ない。
「よっしゃ。私たち友だちね」
「う、うん」
高校生に友だちと言われ、流石にゆうは戸惑ってもいたが、嬉しげに笑みも湛えている。ああ、この笑顔にあなたもやられたのね、と忍を眺めてあやのは苦笑する。
「ねえ、坂口さん❗️その辺にしときなよ。それに私もそろそろしんどいから、帰ろ」
忍はそう言って、ナースサンダルも弁償しろと小田にブチギレていた担当の看護婦に声を掛けた。
「えっ、あ、ああ、そうなの?仕方ない、戻りましょうか」
すぐに忍へ駆け寄り、肩を支える辺りは流石だ。彼女もまた、優秀な白衣の天使なのだろう。通り過ぎ様、歩美に、い゛ーっ💢と威嚇していたが、錯覚に違いない。「またね、ゆうくん」
「う、うん、忍ちゃんバイバイ」
と少年は手を振る。
気付けば、テキトー体操は各々自由になっており、立ち話や、知り合いどうしでグループになっていたり、石黒医師など患者の理学療法?を始めていた。
「あやのさぁぁぁぁん😭」
小田歩美が泣きついてくる。
「あの人、超こわいんです😭どーして助けてくれないんですかぁぁぁ😭」
「だってあなたが悪いもの」
「こんな格好で体操なんかさせられたら、そりゃこけますよ😭」
「やらへんかったらええやん」
実際、あやのは体操などしていない。ずっと眺めていた。主にはゆうと、他の患児たちを。何かあった時の為に、観察していた。
看という字は、手をかざしてよく見る姿から成り立っているらしい。
看て、護るから看護という。
「そんなぁぁぁ😨」
ぬいぐるみにすがり付くように、歩美はゆうを抱き締めた。このフレンドリーさ、お人好しさが彼女の取り柄だとあやのは思っている。夏美と共に、最も有能な部類の若手だった。
「石黒先生❗️そろそろお昼です❗️」
呼び掛けると、
「えっ?あ、そうですね❗では今日はこれまで❗️みなさん、とっても良い子ですね❗」
ちびっこ先生はお開きを宣言し、ぞろぞろと病棟へ戻ってゆく。
気晴らしにはなったろう。
多少の交流も。
病棟で、ぼーっとテレビを観たり、何度も読んだ漫画を眺めたりするよりは、有意義だった。患児にもその担当看護婦たちにも。
「あのぉ、歩美さん、、、、」
「おっがねーどごづら😭わだず、あんな女さいる病院さはだらげね😭」
地元のズーズー弁丸出しで、ひしとゆうを抱っこしながら、タイル張りのアーケードを戻ってゆく歩美。
「あたし先に行くから。ゆうくんお願いね」
「んだ、わだずにまがぜでくんろ😭こんだばめんごいごさ、はなじだぐねーずら😭」
「あんた何人やねん」
半泣きで首をブンブン縦に振る歩美にゆうを頼み、その肩を叩いた。
「友だち出来て良かったね」
「………うん」
少年の笑顔。
あやのは、この世で一番美しいものを見た。


お昼ごはんも、ゆうは完食、全量摂取した。
姫川病院は、基本、昼食に力を入れている。寝る前より昼間の方か消化するだろ?というのがその根拠となっており、今日のお昼もがつんとしたメニューだった。ごはんも多い。
基本的に、好き嫌いがなく、食事療法を伴わない患者は共通の献立となる。事前に訊いておいた苦手な食べ物がある場合、別のメニューと差し替えられる。
本日は、五目ごはんともつ煮、春雨サラダにわかめスープと、ごつかった。ゆうは、美味しい、美味しい、と全てをキレイに平らげた。
小さく、いただきます、ごちそうさま、をするのが微笑ましい。
そうして、バンバン消化器を稼働させた結果、来るものが来るのだ。大量に、、、、、

夕刻──────

ナースコールがあった。ナースステーションにいたあやのは、ゆうである事に気付きモニターに目をやる。不安げにしているが、どこかが痛いとかではなさそうだ。
「ゆうくん?今行くね」
ここで通話するよりも訪室する方が早い。
あやのはすぐにナースステーションを飛び出した。


「あのね、どうしたらいいか分かんなくて」
「何が?」
「………おしっこ」
患児の言葉に看護婦は破顔する。
昨夜は睡眠中のおねしょだった。
自分の意志でおむつに排泄したわけではない。いざ、おしっこ❗️となって、どうしたらいいのか分からなくなったようだ。微笑ましい。
「そのまましていいのよ」
「そんな事言われても💦ど、どうしたら??」
「そのまましーって」
「…………」
分厚いリハビリパンツだが、パンツはパンツと脳が譲らないらしく、ゆうは困惑していた。昨夜、排尿できたのはテープおむつなのもあるだろう。それほどに人のトイレへの忌避感は大きく、強い。
「寝てるのがダメなのかな?座ったら?」
「…………」
促され、ゆうは起き上がって足を下ろし、ベッドに腰掛けた。寝ていると、確かに重力の助けを借りられないので、排泄は難しくなる。特に便。尿の場合は、普段、重力で尿意が強まるので、膀胱がいっぱいになる前におしっこするものだが、寝てばかりいるとその限界を超えてしまう。おねしょが大量なのはここに理由があったりする。
逆さまのペットボトルと、寝かせたペットボトル、どちらが飲み口に圧力が掛かるだろうか?そういう訳である。しかもこのペットボトルは無限に水が入ってくるのだ。いつかは溢れる。
「こ、この状態でおしっこを??」
「そうだよ?フツーでしょ?」
男子トイレなどというものは、この世界に無い。
トイレはトイレ。全て個室で、おしっこは座ってするものである。体勢的には、ベッドに腰掛けた状態も洋式トイレと代わりないが、やはりトイレ以外でしかもおむつに、というのはシビアだった。
「しゃがんでみる?」
「……………」
スリッパを履いて、少年はしゃがみこんだ。和式トイレも、衛生的には優れているので少数だが存在する。
「出来ない?」
「……………」
少年が、いきんでいるのが分かる。しかし、したい筈のおしっこは出ない。失禁のタブー意識は、それほど強い。
「うーん、それじゃあ…………」
看護婦は、折り畳みの椅子を出した。
開いて、そこに腰掛ける。


「ここにおいで🎵」
「はっ?」
何を言ってるのか分からず、少年はポカンと口を開けた。
「マッサージしてあげるから、ここに座ってごらん❤️」
と白衣をたくしあげ、脚を開く看護婦。背後から、抱き抱えられる体勢になるという事か。
「……………」
おずおずと、ゆうはあやのの脚の間に腰掛けた。
「もっと寄りかかっていいよ?」
ぐいと抱え込まれる。
看護婦の手が、ゆうのおむつに触れた。
すりすり、もみもみと、おむつ越しに陰部をまさぐる。
その手つきに、少年の陰茎は硬さを増した。
「あ、ちょ!?」
「いいから。これは、したい時におしっこ出来ない原因でもあるんだよ」
「うん………」
もみもみと股関をマッサージされる。
看護婦の指先が、硬くなった陰茎をおむつ越しにつまむまで、長くは掛からなかった。
膨らんだおむつの頂点を、看護婦がつまみ、こすり、揉みしだく……………


「あ、ちょ、ダメだよ❗」
「しーっ、いい子、いい子❤️」
やんわりと手を退けられ、少年はされるがままに陰部を刺激された。
ぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅ……………
荒い吐息だけが病室に響き……………
1、2分の事だった。
「あっ、ひっ」
少年は大きく痙攣し、おむつに熱いものが溢れた。
生地越しに看護婦の手に飛び散る粘液の感触が伝わる。
「ああぁぁ…………」
「大丈夫よー🎵」
震え、体をよじる患児に脚を絡め、両腕を回して抑え込む。少年は、おむつに精液を放ってぐちゃぐちゃにし、更に緩んだペニスからは尿が漏れ出した。

じゅじゅっ❗じょろろろろろ❗️

「………あ………ふぁ………」
おむつの吸水ポリマーがおしっこを受け止めていく。
熱い。
「上手ねー🎵」
看護婦の手はおむつの股関に添えられたまま…………
ぐったりと脱力した少年は、されるがままに放尿し続けた。
これまでの人生で一番、心地好いおしっこだったかもしれない。
「で、でちゃった…………」
呆然と少年は呟く。
「しちゃっていいのよ🎵たくさん出来てえらいえらい❤️」
看護婦に頭を撫でられ、少年はうっとりと目を瞑る。 
精液と尿で汚れたおむつは、ずっしりと重く、何かの扉が叩かれた気がした。

その晩も、ゆうは夕食を完食し、夜間には一度、排尿したが、今度はナースコール出来たらしい。夜勤の鈴木まどかが嬉しげに報告してきた。
翌日も朝食を平らげ、昼前には如月医師の診察。
特に問題はなく、お昼ごはんもきっちり食べれた。
そうして、
お腹が限界を迎えた。
入院3日目。
「……………」
病室で一緒にテレビを眺めていたあやのは、口数の少ない少年の違和感に気が付いた。
「ゆうくんさぁ、もしかしてお腹痛い?」
「……………」
少年は、こくりと頷く。
3日間、お通じがないのだ。お腹はパンパンだろう。
尿は出ているので、その分、便は硬くなっている筈だ。便秘が慢性化するとどんどん出なくなる理由はここにある。水分を吸収する器官である大腸に長時間留まれば留まるほど、便は硬くなり、最終的にはコンクリと化す。
「ねえ、じゃあおトイレしちゃおっか💕」
「で、でも」
「お腹苦しいでしょー?」
ナースコールを押す。すぐに、どうしました?との応答がある。
「ごめんなさい、早川……は、今日夜勤か。三谷さんか小田さんいます?排泄セット一式ください」
「はーい。了解でーす」
数分で、三谷看護婦がワゴンを押してやって来た。
「ゆうくん、こんにちわ」
一般に、おむつ交換車とかおむつワゴン、カート等と呼ばれる台車である。おむつやおしり拭き、ゴミ箱などが備えられているが、姫川病院で『排泄セット』と呼ばれるこれはそれだけではない、、、、


「ゆうくん、浣腸ですか?」
と尋ねる三谷杏。あやのは苦笑いと共に小さく首を振った。
「取り敢えずはね」
「浣腸…………」
不安げに、ゆうはあやのに目をやる。
「した事ないんだよね。そんなに思ってるほどは、辛くないよ?」
「あら、初めてなんだ?嬉しいな、ゆうくんの初めて浣腸できるなんて❤️」
あはは、と笑い、あやのと三谷杏はやんわりとゆうを仰向けにさせた。テープ式のおむつを広げ、おしりの下に敷く。
「うんちが出ないと、手術になっちゃうよ?」
「そ、それはやだよ❗」
「浣腸いやがる悪い子は、看護婦さんが先生にチクっちゃうからね?あー、これはもう手術かなー?」
「や、やだよ❗まってよ❗」
慌てるゆう。三谷は患児の扱いが上手い。操縦するすべをよく心得ている。
「冗談よ」
苦笑し、看護婦たちはマスクをして手袋を嵌めた。リハビリパンツを引きずり下ろして、肛門を出させる。おしっこも出てしまう事があるので、陰茎を保護するように完全には脱がせない。
「あら、キレイねー🎵」
ゆうの肛門は、感動的に綺麗だった。
うんちをする穴とは思えない。
これからここを─────
「どうします?チューブで?」
三谷が細長いチューブ式の浣腸を示す。
「便意はあるから、イチジクでいいかなあ」
家庭でも用いられるイチジク浣腸である。
グリセリンにより急速に水分を分泌させ、便を柔らかくし、同時に腸の蠕動を促し、排便させる。最もありふれた一般的な浣腸である。


「ゆうくん、なるべくおしりの力を抜いてね」
長身の三谷が、ゆうの両足首をそれぞれ掴み、赤ちゃんのように挙上させる。まん◯り返しならぬ、ちん◯り返しだった。
「ここだよー」
「ひゃっ!?」
あやのの指が肛門に触れた。
「ここラクにしててね。ちょっとほぐすから」
ワセリンを塗り、ぐにぐにと肛門をほぐす。暫くして、ゆっくりと人差し指の先端が肛門に入った。


「うっ、い、痛ぁ………」
ひくひくと収縮する肛門に、あやのは素早く浣腸のノズルを差し込んだ。細く短いので簡単に入る。
「お薬入るよー❤️」
「………………」
肛門に異物という生まれて初めて前代未聞の事態に、ゆうは不安げにしている。
その直腸へ、グリセリンがゆっくりと注ぎ込まれた。
「な、なんか冷たいよ」
「うんちが溶けていってるからね」
浣腸を抜き、リハビリパンツを元通りに穿かせ、ゆうを横向きにさせる。左半身、下行結腸に薬液が浸透しやすくする為である。
「あ、なんかお腹痛くなったきた」
「うん、ちょっと我慢しよう。3分くらいかな」
「ええ~💦」
あやのがすぐに排泄しないようにおむつのおしりを抑え、三谷がお腹をゆっくりとさすっている。
「ゆうくん、学校でうんちできる子?」
「え?あ、うん……恥ずかしいから、誰もいない時なら」
「勇気いるよねー、学校のトイレは」
「うん………」
話し掛けて気を紛らわせる事暫く……………
「あ、痛いぃ………」
「もういいでしょ。ゆうくんうんちしちゃお❤️」
再び、ゆうは仰向けにされ、少し膝を曲げて足を立たされた。
「えっ?あっ………」
ぶちゃっ、と音がした。
それに続いて、びちゃっ、びちゃっ、と破裂音が続く。
びーっ、びーっ、と液化した便が排泄されていく。
「あっ、あっ、あっ、、、」
ゆうの顔が排便の苦痛と、恥ずかしさに歪む。
おもらししている。
看護婦たちに見守られながら、しかも、うんちを漏らしている。おしっこの比ではなかった。
冗談抜きに顔が真っ赤になっていく。
「大丈夫だって❗恥ずかしい事ないから🎵」
「あのね、おむつにするのはおもらしじゃないの」
看護学的には、おむつへの排泄は失禁ではない。排泄する為のものなのだから、当たり前の事として捉える。
シーツや衣類を汚して、初めて、失禁となる。
「そんなこと言われても………」
破裂音は一分ほど続いた。
「もう出なさそう?」
「た、たぶん」
テープおむつの上で、リハビリパンツの左右を破ってゆく。ビリビリと裂かれるにつれ、便の臭いが溢れてくる。
ぺろん、とリハビリパンツを広げると、おしり側にべっとりと水様便がたまっていた。
「うわぁ…………」
羞恥に耐えきれず、少年は手で顔を覆う。
一方、看護婦二人は何事か思案していた。
「あらま。ちょっと、あんまり出なかったね」
「もう一度します?チューブで」
どうやら、便が予想以上に少なかったらしい。三日間、排便していないのだ。その間、ゆうは残さず三食食べている。
何も食べなくとも、便は出る。
便は8割が水分、残り2割のうち食べ物のかすは1/3で、腸内細菌が1/3、消化器から剥がれた細胞、要するに内臓の垢が1/3となる。飲み食いすると消化器が活性化する為に便が出やすいのであって、食べるから便になるわけでもないのだ。ただ、便が出なければ、当然溜まっていく。食べれば食べるほどに。
「わたし、摘便てきべんしましょうか?」
三谷杏はそう提案した。患者の肛門に指を入れて、便を掻き出す処置を摘便という。
「んー、そうしてみよっか」
あやのに了承を得て、三谷看護婦は手袋を二重に嵌める。
背の高い彼女は指も長く細い。
それを、、、、、
「ねえ、ゆうくん、これから三谷さんがおしりに指を入れて、うんちをほじくってみるからね」
「えっ?えっ?」
おしりに指を入れる??
この人は何を言っているのか??
理解が追い付かないまま、今度はあやのに両足を掴まれ、抱え上げられた。
三谷の指が、便にまみれた肛門に触れる。
「ごめんね、我慢してね❤️」


「ひっ」

ずっ

ぶっ

看護婦の指が入った。
ゆっくり、ずぶずぶと侵入してくる。
異様な感覚に、恐怖が押し寄せてくる。
「ま、まって、やめて」
「痛くないでしょ?」
「う、うん、そんなには」
細い三谷杏の指は、少年の肛門でもすんなりと挿入できた。人差し指だけだが、何なら、中指も入るかもしれない。
「動かすよー」
「!?!?!?」
体内で看護婦の指が曲げられて、ねじり、掻き回されている。
身体中があつい。
陰茎が燃えている。
「一旦、抜いてみるねー💕」
ずっ、と指が抜かれる。
便にまみれた指先が抜かれると、肛門から、どろどろと便が溢れ出た。すっかり痺れたように緩んだ肛門は自由が利かず、止めようにも止まらない。
やがて、どろどろの便は、ぶりぶりと硬いものに変わった。
「うわぁ、な、なにこれ、ちょっと、やだよ😭」
「大丈夫、大丈夫❗️」
「もう一度ねー❤️」
再び、三谷看護婦が指を入れる。
ぐりん、ぐりん、と回転し、固まっている便をほじくっていく。一度、排便が始まると、圧力でどんどん押し出されて、直腸が熱くなり、マグマとなる。
「あー、奥の取れたっぽい🎵」
「ま、待ってよ、や、やだ、ダメだって😭」
三谷看護婦が指を抜いていく。
もりもりと肛門が引っ張られ、指先と同時にありったけの便が溢れだした。
ぶりっぶりっ…………
硬くなった石ころ状の便が破裂音と共に排出されたのは一瞬で、無音のまま、ひねり出されるソフトクリームのように、ペースト状の便が次から次へと開いたおむつにひねり出されていく…………
「…………………」
ゆうは呆然としていた。
こんな盛大なおもらしをするなんて………
学校のトイレでうんちをしているのを見られるよりも遥かに恥ずかしい。
「全部出たかなー?」
「いいお通じだねー💕」
ゆうの大腸は貯金を出すだけ出したらしく、漸く排泄が止まった時には、おむつにはこんもりとうんちの山が築かれ、ゆうの時間も止まっていた。
看護婦たちは素早く汚物を始末し、ゆうの尻や陰部を清め、新しいおむつを穿かせた。
天井の換気扇のスイッチを押すと、充満した便臭か
忽ち薄らいでいく。
「片付けてきちゃいますね」
「よろしくー」
三谷が、汚物を満載したワゴンを押して退室して行った。
「……………」
信じられない。
“看護婦さんにおしりをほじられ、大量のうんちをもらした”
衝撃に、少年には世界が止まって見えた。
肛門が燃えている。
「ゆうくん?」
あやのが髪を撫でる。
「びっくりしちゃった?ごめんね、夜勤の鈴木さんに浣腸してもらった方が良かったかなあ?」
「あ、いや………うん、大丈夫」
ぐったりとしたゆうに、看護婦は布団を掛けた。
それに曖昧に頷く。
「疲れちゃったなら、ちょっと休もうか。お夕飯になったら起こすからね」
「うん…………」
確かにお腹はすっきりしたが、おしりは燃えている。
まさか、これからずっとされるの──────
いや、普通に排泄できれば問題ないはずだ。
あんな事されるなんて、、、、、、

混乱しつつ、ちょっと寝ようと目を閉じると、程なく、微睡まどろみがやって来た。
寝よう。
寝て忘れよう。


──────あの夏。
おばあさんに会いに行った前の晩。
宿の布団の中で、弱音や不安を吐露していたママをお母さんは励まし、それはやがて喘ぎ声に変わった。
「やだ、ゆうが起きちゃう」
「大丈夫よ、ぐっすり寝てるって」
仰向けになったママのおしりにお母さんは指を突っ込んでいた。
「あっ……あっ……あっ……」
「まことっ……愛してるわ」
「ぁあん………翠っ………」
あの時、きっとママのおしりも燃えていたのだろう。
ゆうの恥じらいはやわらぎ、焼けるような肛門の痛みは、疼きに変わっていった………………

少年は悟る。
これはうんちをする為だけの器官ではなかったのだと。
アイとかよばれるものが、この穴のどこかに隠れているのかもしれない。
少年は眠りに落ちた。


(了)

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