見出し画像

初めての………

「やだなぁ」
ゆうの口から溜め息と共にぼやきがこぼれた。
五月半ば。
六年生になって初めての精通検査が学校で行われる。
各都道府県の泌尿器科専門病院から医師と看護婦が派遣されてきて、学校の保健室で精通の有無を確かめる検査が年に二度あるのだ。検査は五年生からで、去年既に一度経験してはいたが、それは非常に痛く、恥ずかしいものだった。泣いてしまうクラスメイトも少なくない。
もっとも、泣きじゃくる事は恥でも何でもなく、クラスの女子たちは、懸命に男子を励まし、慰めてくれる。
この世の中はそういう風潮に満ちていた。
とはいえ、心の何処かのプライドがそれを許さない。認めない。
ちんちんをいじられて、泣くなどみっともないという思いがある。
そして単純に嫌だった。
裸になるのは恥ずかしいし、弄られるのは痛いし、変な気持ちにもなる。六年三組のゆうの検診は、給食の時間の後になるだろう。午後の授業は休みでそのまま下校出来るからラッキーだが、そんなものでは釣り合いが取れない。
憂鬱な1日だった。

「それでは男子は順番に二人ずつ保健室へ来て下さい」
さっぱり頭に入って来ない午前中の授業は、あっと言う間に終わり、味の分からない給食をどこか茫然と口に運び、昼休みも終わりに近付いた頃、保健の先生が六年三組に顔を出してそう告げた。
とうとうその時が来たのだ。
クラスの男子たちの間に無言の緊張と動揺が広がった。
露骨に顔をしかめたり、俯く者もいる。
「はい、みんな聞いたでしょ❗」
パンパンと手を叩くのは、クラス委員長の関口麻衣だ。
すらりと背が高く、成績も優秀。いつも男子に厳しい態度をとるが、概ね、公正でリーダーシップがある。
大抵の男子はこいつが苦手だった。
「うん、みんな準備してねー🎵」
もう1人、保健委員の斉藤ゆかりがニコニコしながら促した。彼女も麻衣と同じくらい身長がある。大抵の男子より上背があり、いつもツインテールをふりふりさせている。いつも麻衣とつるんでいて、女子の中心のようなやつだった。だが、兎に角、彼女は誰にでも優しく、甘く、男女問わず人望が篤い。麻衣とは、アメとムチと言える。
クラス替えは行われなかった為、五年生から馴染みのクラスメイトたちの事はお互いによく知っているし、仲も良い。委員などの役職も、ほぼそのまま繰り上げで決定された。つまりは、そういう人物であると。
麻衣以上に適任の委員長はいないし、ゆかりは筋金入りの保健委員だった。
二人は、いそいそと給食当番の白衣とキャップ、マスクを身に纏った。別に給食当番ではないし、給食は済んでいる。検診のお手伝いをするので、衛生的な服装に着替えているのだ。過去には、失禁した男子の排泄物を浴びてしまった保健委員もいるらしいので、その対策でもある。


「ほら、さっさとパンツになって❗️」
そう言って近くにいた男子の背中を麻衣が叩いた。叩かれた男子はしぶしぶ、衣服を脱ぎ始める。のろのろと他の男子もそれに続いた。
「寒くない?出席番号遅い子はまだ全部脱がなくても大丈夫だよ」とゆかりがフォローする。
出席番号順………恐怖のランキングだ。
あ行からだから、六年三組は足立じゅんからだ。予防接種も、歯科健診も、精通検査も、彼は貧乏くじを引きまくっている。気の毒にと、ゆうは思った。
「じゅんくんガンバ😆」
「がんばれー😆」
あちこちから声援が飛ぶ。若干、青ざめつつ、じゅんは下着姿になった。その傍ら、
「石田、早くぅ~❗️」
委員長の麻衣が急かすのは、クラスで一番小柄な石田ハルだった。華奢で、大人しいハルは、怯え、脚が震えている。
「ハル……」
じゅんがその肩に触れる。
かわいそうなくらいハルは怯えていた。
「ハルくん、わたしが一緒に行ったげる。ね?」
すかさずゆかりがその手を握った。一瞬、驚いたハルだったが、小さくこくんと頷くと、三人は教室を後にした。その背中に女子の惜しみ無い声援が飛ぶ。
「下校の準備しときなよー、男子❗️」
「あら、流石、麻衣さんね」
担任の小山先生がやって来たところでチャイムが鳴った。一応の授業が始まるが、男子は誰も聞いていないだろう。
ゆうは、
鷲井ゆうは、出席番号で最後となる自分の番を、死刑執行をまつ囚人のような気持ちで待っていた…………

「はーい、皆、終わったよー🎵最後は、ゆうくんね🎵」
とバカにテンションの高い、ゆかりの声。彼女は勿論、将来は看護婦志望で、このイベント?に張り切っている。生の検査に立ち会えて、興奮しているのだろう。
「ほら後は鷲井だよ」
三組の男子は15人。最後のゆうは、一人余るのだ。
麻衣が急かす中、上着を脱いで上半身裸になった。
ズボンを……脱げない。
手が動かなかった。
「なーにしてんのよっ」
「うわっ!?」
麻衣がズボンに手をかけ、強引に引きずり下ろしていく。慌てて押さえるが、間に合わずにズボンを剥ぎ取られてしまった。
「ゆうくん、がんばれ😆」
「ファイトー😆」
声援の中、小刻みに体が震えていく。
いよいよ、検査されるのだ。
肌は粟立ち、膝が震えた。
「鷲井くん、大丈夫ですか?」
担任の小山先生が心配そうに伺う。
「ゆうくん、がんばろうよ。きっとそんなに痛くないよ?」
ゆかりがそう言って右腕にしがみついてくる。
「そうそう。ぱぱっとやっちゃえば、すぐ終わるって」
と、麻衣が左腕に。
委員長と保健委員、白衣の二人に両腕を取られ、言葉とは裏腹にじりじりと教室から連れ出されてゆく。
(これじゃ、石田ハル以下じゃないか❗み、みっともない❗)
泣きそうになりながらも、二人に引っ張られないと脚が思うように動かない。情けない姿だが、クラスの女子、誰一人笑う事も、蔑む事もない。心からの叱咤激励の言葉を掛けてくる。
「二人とも、鷲井くんをよろしくね」
「「はいっ」」
小さな天使二人に連行され、ゆうは教室を後にした。


「はい、こんにちわ~。キミが六年三組鷲井ゆうくんね?」
「今日はこれで最後ですねー😁」
保健室に入ると、手術着と帽子に白衣を引っ掛けた女医と、ナースキャップに予防衣姿の看護婦がいた。二人とも、ちょっとくたびれた感じなのは全三組からなる六年生男子の検査を、全てこなしたからだろう。疲れた苦笑をしつつ、二人はフレンドリーにゆうを招き入れる。
「…………」
ゆうに返事をする余裕は無かった。
怖いが全てを駆逐している。
「鷲井大丈夫ぅ~?」
「ゆうくん?」
麻衣とゆかりが、背中を押す。
普段と違う保健室の強烈な消毒液の香り、並べられた医療器具、白衣の女医と看護婦、その光景にマジでビビってしまっている。


「あらら……鷲井くん、怖くなっちゃったかな?」
すぐに看護婦が駆け寄り、ゆうを覗き込む。微笑み、ゆうの肩に触れてもみもみする。
「リラックス、リラックス🎵」
しゃがみ込んで、ゆうの手を握る。温かかった。
「そんなに痛くないし、怖いことにもならないよ?ねえ、センセ?」
「そうそう。今日、この学校の六年生は一人も陽性いなかったから。みんなまだまだキてないのよ」
女医が笑う。
「では、お願いします」と、保健の先生は最後の生徒が受け渡されたのを見届けて退室していった。一人で大勢の生徒の書類等管理しているのだから、忙しいのだろう。
「お疲れ様です」
と女医が見送る。看護婦は軽く会釈し、再びゆうへと向き直った。
「大丈夫だから、少しだけがんばろう?ね?」
白衣の天使──────
その微笑みに思わず、
「は、はい………」
消え入りそうな声で、ゆうも頷いた。
看護婦の名札を見ると『たむら』とある。
ゆうのみならず、看護婦に憧れるゆかりも、ぼうっと見惚れていた。
「じゃあ、パンツを下ろして、ここに座ってね❤️」
ギクシャクとゆうは指示に従った。震える手で下着を下ろす。
ふと、麻衣とゆかりの存在が気になった。じーっと見ている。
「な、なぁ、お前らさぁ」
「あたし委員長❗️」
「わたしは保健委員だもん。それに将来は看護婦さんになるんだから❗️」
二人は退室しようとしない。
「まあそうね、大丈夫でしょ。気にしないで」
女医はそう述べた。
「はあ」
真っ赤に赤面しながら、裸になった。
脱いだ下着を看護婦が畳む。
今回の検査の為に持ち込んだらしい、診察台へと腰掛ける。歯医者さんのそれのようでもあるが、脚の部分が二つに別れていた。大きく股を開かせる為だ。
「あんよはこっちねー」
看護婦が脚を開かせ、ベルトで固定する。それ程、きつい拘束ではないが、有無を言わさず、開脚した姿勢が恥ずかしくて目眩がした。
「結構、大きい子ね」
と呟きながら、女医が正面に座り、消毒液や攝子せっし(ピンセット)を準備する。看護婦と二人、マスクに手袋をはめると、ゆうの緊張がぶり返した。
「二人とも、お手伝いお願いね。お手てをよろしく」
看護婦に促され、麻衣とゆかりは嬉々としてゆうの両腕を押さえにかかる。
「おっきいから痛いかもね……」
不吉な呟きと共に、女医が陰茎に触れた。ゴム手袋越しにその指が、陰茎をまさぐってゆく。
触診される内に、ゆうのそれは熱くなった。
「勃起は有りね……」
「鷲井くん、普段からこうなるのかな?」
看護婦の問いかけに、ゆうは微かに頷く。
委員長と保健委員は驚いて目を見開いている。
先程までの男子諸君の時は、流石にここまでじっくりと性器を見つめる機会はなかったろう。それに、ゆうのは平均より大きいらしい。それは、プールの授業などでも自覚していた。みんなより大きいかも?と。
「そっかぁ……ごめんね、ちょっと痛いと思う」
女医が陰茎の先端、包皮を掴んだ。
引っ張り、
皮を剥く。
「うぁっっ!?」
鋭い痛みに、ゆうは悲鳴を上げた。
「これはキツイかなぁ……我慢してね」
女医は無理矢理に包皮をずり下げてゆく。
少し恥垢に汚れた亀頭が徐々に露出していき、外気に触れた冷たさと、裂けるような痛みに、ゆうの目に涙が滲んだ。
「滲みたらごめんね」
消毒液が染み込んだ綿が亀頭を擦ってゆく。焼けるように痛い。
「あっ、痛っ❗️痛い!?ま、まって!?」
「我慢、我慢」
身をよじるゆうの体を、看護婦が押さえつける。
麻衣とゆかりも、がっちりと両腕を押さえている。
「キレイになったからねー」
攝子を置くと、女医は金属の棒を手にした。尿道ブジーと呼ばれる器具である。
絶妙にカーブしたそれに、ゆうの体が硬直する。
去年も検査を受けた。だが、ここまで太く、長く、カーブしたものではなかった。綿棒か耳かきの親戚程度の代物だったはずだ。確かに、六年生になって体も成長したかもしれないが、この器具まで大きくなるなんて聞いてない。


「ごめんねー、我慢だよー」
女医はそう言って左手で陰茎を持ち、右手でその凶悪なブジーを尿道口へと近付けていき──────

ずっぶぅっ

「いっ!?いっ、いっ、いいだいぃぃ!!??」
信じられない激痛。
ゆうの陰茎にブジーが潜り込んでいく。
堪らず、暴れる。
「動かないで❗️」
「鷲井、がんばれっ❗️」
「ゆうくんっ❗️」
看護婦と麻衣、ゆかりが必死に押さえつけてくる。
「お腹に入るからねー」
陰茎の痛みが下腹部の痛みに変わった。
別の突き刺さるような痛みだった。
「✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕」
言葉にならない悲鳴。
股から腹に矢が刺さったらこんな感じか。
どれくらいの時間なのかも分からない。
僅か数秒のような、数十分のような気もする。
痛みが鈍くなり、幾度かブジーが出し入れされ、角度を変えて内臓を触診される事暫く…………
「はい、おしまいねー💕」
ゆっくりとブジーが引き抜かれた。
ちょろり、と尿がこぼれるが、誰も咎めたりする者はいない。診察台に取り付けられたトレイへとポタポタ滴っている。
「痛かったね、ごめんね❤️」
苦笑しながら、女医が陰茎をさすった。
「偉かったねー❤️」
看護婦がゆうの頭を撫でてくる。その心地良さに、ゆうは盛大に嘆息した目を閉じた。涙も涎も、気にならなかった。
「がんばったね、鷲井」
「ゆうくん、すごーい」
同級生たちは、心からゆうを労い、拍手する。
(お、終わった……)
放心してゆうは項垂れた。看護婦の胸に顔を預けて。優しく抱きしめられると、消毒液の香りがした。

その時。

「えっ?」
女医の驚いた声。
見れば、ゆうの陰茎が更に屹立し、尿道からダラダラと透明な液体を溢していた。
糸を引いている。
「ちょ、大変❗️」
はっきり言って、先程より大きい。素人目でも分かるはどに。
「陰茎肥大症ですか………」
「そうよM型❗️」
女医と看護婦の緊張したやり取り。
「な、なんですか?」
ただならぬ雰囲気にゆうは困惑した。
「あのね、これはちょっと厄介な病気かもしれなくて、その上……精通がきてるかもしれないの」
「❗️❗️❗️❗️❗️」
「今の検査では分からなかったけど、もしかしたらもう精巣が機能してる可能性があるわ」
「そ、そうなったら……」
「手術、ね」
女医の言葉に気が遠くなった。
麻衣とゆかりも言葉を失い、ゆかりは涙ぐんでいる。
「みんな陰性だったのに、最後の最後に陽性とはね……さて、病院に連絡入れて……このまま入院して内視鏡で検査手術かなぁ……」
と嘆息する。困った笑みを張り付かせ、手慰みに、ゆうの亀頭を摘まんで転がしていると、
「先生、まだ陽性とは決まってないですよ」
看護婦が遮った。
「そうだけど、どうする?注射器シリンジ💉で精液採取してみましょうか?」
「…………」
注射器………
精巣に針を刺すと言われ、ゆうは更に震え上がった。
「一回で採れるかしら……三回くらい、ゆうくんには頑張ってもらう事になるけど……」
うーん、と女医は考えこむ。
「先生、わたし、ちょっと刺激してみましょうか?」
そう言って看護婦がゆうの陰部側へと回り込む。
「どうかしら……今、尿道刺激したばかりよ?」
「M型肥大症ならいけるかもしれないです」
「そうね、痛いでしょうけど、ありだわ」
うんうん、と頷き、女医は立ち上がってゆうの正面から退いた。代わりに看護婦が真ん前に腰を下ろす。


「鷲井くん、いえ、ゆうくん……ちょっとだけ痛いと思うけど、変な気持ちにもなるからね。落ち着いて、我慢だよ」
そういって手袋の指にワセリンを塗り込み、陰茎を掴む。
「ゆうくんは、お家でおちんちん弄ったりしてる?怒らないから、言ってごらん?」
「あ、あの……その……ベッドにこすったり……」
「そっか。多分、それが原因かなあ……あんまりしたらダメよ?」
「は、はい………」
にっこり微笑むと、看護婦はゆうの陰茎をゆっくりと擦り始めた。ぐっちゃぐっちゃという官能的な音と、ゆうの押し殺した荒い息が響く。
「あっ、あっ、あっ、、、、」
「変なキモチだねー❤️でも、出る時は痛いと思うから……頑張ろうねー❤️」
かなり強く握りつつ、ゆっくりと看護婦の手は動き、ゆうの陰茎がしごかれてゆく……………

「ごめんねー💕」
看護婦の左手が陰嚢に伸びた。そのまま薄い肉の袋がまさぐられ、揉みしだかれる。鈍い痛みと共に、精巣が肉袋越しに圧迫されていく。
痛い。
痛いが、ヘンな気持ちが沸き上がってくる。

ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ、と陰嚢が揉まれ、
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅと陰茎がしごかれる。

痛くて気持ちいい──────

「や、やだ、怖いよ~」
とうとう、何かが決壊した。
ゆうは泣き出してしまった。
「鷲井っっ」
「か゛ん゛は゛っ゛て゛ぇ」
麻衣もゆかりも泣きながら励ましつつ、力いっぱい押さえつけている。
「そろそろかしら………」
女医が尿器を差し出し、程なく、

「うっあぁぁ」

ぶるん、びくん、とゆうの体が痙攣した。
陰茎の先からは…………
ほとばしるものが、
ない。

ダラダラと透明な液体が流れてゆく。

「良かった🎵精通、きてません❗️」
看護婦が安堵の声を上げる。
精液は出ず、カウパー氏腺液(尿道球腺液)のみだったのだ。精液の精子をつつむ液体を精漿と呼ぶが、その占める割合は、前立腺液30%、精嚢分泌液70%、そしてカウパー氏腺液が1%とされる。この中で、精子が活動出来るのは白色の前立腺液と黄色の精嚢分泌液であり、つまりは透明な汁しか出ないのは、精通が来ていないという事になる。
ほぼ間違いなく、陰性の証拠といえる。
「良かったぁ」
「良かったねえ」
泣きながら麻衣とゆかりが抱きついてきた。
入院、手術となると、同級生とは離ればなれになるのだ。将来的には仕方ないとはいえ、それは、今は歓迎できない。まだ、先の話でいたかった。
たが、当のゆうにそれを喜ぶ余裕はない。陰茎が痛くてたまらない。内と外から刺激され真っ赤に腫れ上がっている。ドライオーガズムの悦びなど一瞬で吹き飛んでしまった。とても動けない。
「良かったねー🎵」
「キレイにしようね❤️」
看護婦が陰部を清めてゆく。
ゆうは怯えた。
優しい。
とっても優しいが、
怖い。
この白衣の天使は、
何かとても怖いものを、はらんでいる。
…………ような気がする。
得体の知れない何か“こわいもの”がある。
「ゆうくんは、手術の必要なし、と❗️これで六年生全員陰性ね🎵」
女医が書類に記入し、笑った。
「流石、あやのさんね。強引だけど」
「あはは……」
苦笑いを浮かべ看護婦が汚物・廃棄物をゴミ入れに処理していると、
「わ、わたしも看護婦さんみたいになりたいですっ❗️」
ゆかりが挙手した。
「えー?大変だよー?」
「それでも看護婦さんになりたいっ❗️」
すると、
「あ、あたしも看護婦さん、目指そうかなあ……」
麻衣までそんな事を言い、皆して笑った。
陰部丸出しのゆうは、股関を清められながらどこか遠くでその会話を聞いていた。これは現実か??
「ゆうくん、おむつするよ?はい、あんよ頂戴ね❤️」
診察台のベルトが外され、看護婦が脚におむつを通してゆく。リハビリパンツと言われるタイプのものだ。


「二人とも養護教諭に連絡してくれる?職員室で事務処理してるだろうから。全員終わりましたって。それと、ゆうくんの親御さんに迎えに来てくれるよう連絡してもらって」
女医に命じられ、将来の白衣の天使二人は元気よく返答すると、保健室を出て行った。
………ゆうの股関は未だ燃えている。


その晩。
ゆうは陰茎の痛みに寝苦しい夜を過ごしていた。
ズキズキと脈打つように熱い。
兎も角ともかく、まだ手術は受けなくていいのだ。
ちんちんを取られる心配が先延ばしになった事だけでも、安堵できた。痛いが、あの看護婦……田村あやのさんには感謝しなくてはならない。
輾転反側てんてんはんそくし続け、漸く眠りに落ちたのは何時頃だろうか。
夢の中で消毒液の香りを嗅いだ気がした。

翌朝。
「ゆう、朝よー❗️」
母親の声。
ゆうを産んだ方のお母さんだ。
もう一人のお母さんは仕事だろう。
誰もが、産んだお母さんと育んだお母さんがいる。
この世界の当たり前だ。
「う、ん…………」
目覚め、まだ痛む陰部に顔をしかめた。
階段を登ってくる母親の足音がする。
「ゆうー?まだ痛いの?今日は学校休もうか?」
母親がありがたい提案をしてくる。確かにその方が良さそうだ。第一、まだおむつをしたままだし。
尿道を拡張した事と、痛みから、数日はトイレが困難であろうとの話だった。このまま登校し授業を受けるのは厳しい。
「んー……」
休もう。
それに、麻衣とゆかりに会うのも何だか恥ずかしいし。照れ臭いし。
あんなに親身になってくれるのは、逆にちょっと居心地が悪かった。
「そうするー」
答え、ベッドから身を起こした。布団をよけて、パジャマの下を確認する。妙な感触、違和感があった。おむつが少し汚れているようだ。
あちゃー、と思いつつ、引っ張ってどうなっているか中を確認してみた。

濡れている。
おしっこではない。
ぬめる粘液。
それも……………
白い。

白く臭う粘液でおむつは汚れていた。

「ゆうー?学校は休みでいいけど、ご飯は食べられる?どう?」
母親がゆうの部屋に入ってきた。
おむつを覗いて茫然自失の少年がそこにいた。

精通がきたのだ。

入院─────

手術─────

少年は、
夢精していた。
初めての夢精。
そして、
最後の夢精。

「ゆう?」
母親の声が遠くなってゆく。
無言の中、精液の臭いがおむつから漂っていった。


(了)

いいなと思ったら応援しよう!