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当時の日記より134@2010 8/16

息も絶え絶えに2Fに上がってきた姫(母)。退院中の日課はもはや所持品パトロールと食に関する文句となりつつある。

私が居る部屋にノック一つする訳でもなく入ってきて

「ここにしまっておいた旅行バッグ何処にやったのよ!」

と猛烈な剣幕だ。

「知らない」

「知らない訳ないでしょう、ずっと置いてたんだから」

「知らないものは知らないよ」

すると別の場所からセカンドバッグを取り出し

「これと同じ生地で出来ているの。すごく高いんだから」

「ふーん」

「何処にやったのよ、出しなさいよ」

「本当に知らないんだって」

「あらそう。だったら何かしら。バッグに足が生えてひとりでに歩いて消えて行ったとでも言いたいのかしら」

私を攻めたてる言葉は饒舌で淀みない。これがいわゆる典型的な『ものとられ幻想』だ。色々調べてみたら認知症の場合、もっとも近くで世話をしている身内を犯人としてしまうことが多く、たまにしか顔を出さない相手に対してはそうならないのだとか。そしてその記事にはこう締めくくられていた。「あなたより大変な思いで介護をしている人は沢山いるんです」腹が立ってパソコン投げつけそうになった。何の励ましにも慰めにもならない。

今まで通りの自分と記憶障害での忘却。そのはざまにいる姫が苛立つのは分かる。しかしそこにアスペルガー特有の一つ気になったら延々と繰り返す性質がプラスされるともう地獄だ。答えて済んだと思われる質問を翌日また尋ねられる。そのしつこさが異常。また、答えを得られて納得するわけでもなく限りなく不機嫌で常に喧嘩腰。

色んなことが出来なくなっていく自分への焦りもあるのだろう「そんなこと卯月に頼まなくたってひとりで出来るわよ!」と啖呵を切り、やってみたものの出来ないから「出来るけど卯月がやりなさいよっ!」とまた怒る。

毎日辛い。


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