当時の日記より199@2011 1/31
傾聴さんとめんたろう、今日担当の看護師Hさんと4人でカンファレンス。
めんたろうから最初に出た言葉は
「退院も外泊ももう厳しいです」
だった。
近頃頻繁に訴える胸の苦しさは左肺に溜まる水の影響はもちろんのこと、加えて右の肺に気胸が起きているのが一因。気胸に関しては以前から指摘はされていたのだが、範囲が大きくなってきたらしい。チューブを刺して空気を抜くという治療はあるがかなりの痛みを伴う為、痛がり怖がりの姫(母)には不向きと判断された。今後苦しさを訴える場合は酸素吸入にて対応するとのこと。
水が溜まる速度も増している。ひいている時の体勢も辛いと訴え始めたので500ml程度で止めているそうだ。
姫が痛みに弱いのは周知の事実。最後に主治医と話した時もとにかく痛みは取り除いて欲しいと告げた。なので苦しさに関しては早い段階からモルヒネを使うことになっても構わないことを伝える。
最後だから外泊をなんて展開にならなくて正直ほっとしている。冷たい娘だろうか。でも責任が負えない。今日まで本当によくやってきた、一人で。いつなんどき具合が悪いと言い出すかも知れない姫。そう言ってから待ったなしでバタッと意識を失う。夜中の室内が軋む些細な音にも反応して飛び起き姫の様子を窺う生活は、精神上もう限界を超えていた。あの異常な緊張感に包まれた日々からの解放は言葉では表現し難い。
2/1
友達とお喋りしていたら胸が苦しくなったので電話を切り、ナースコール。血中酸素は95。酸素チューブを付けようかと聞かれたが断ったらしい。
発売中の週刊朝日に死が迫るとどうなるかという特集が組まれていたので購入。それによるとがん患者はむくみが起こると。そこから一気に日常こなせていた動作が出来なくなるんだとか。
昨日足の手入れをしてくれていた看護士くんが「ほんの少しだけ足がむくんでる気がする」と呟いた。その言葉をキャッチした姫は夕方ひょこっと覗きに来てくれた顔なじみの看護師hちゃんに
「ねぇ、私の顔むくんでない?なんか瞬きした時の皮膚の感覚が違うのよ」
と大騒ぎ。全く相手にされず聞き流されていた。姫はおおかみ少年だからな。
私が見たところやはりむくみは感じられず。でも本人は電話で苦しさやむくみを訴える。本当に苦しかったら電話してこないだろうからまだ余裕があるに違いない。
案の定、夜もまた電話。
「ねぇ、昨日買ってきたおかずはもう止めてよね。ああいうの食べないからっ」
食べてたじゃん。
喋れるうちはこのバトル、まだ続くのだな。聞き流せるほど私が大人だったらいいが、腹立たしくてたまらないから応戦してしまう。
ひとしきりモメた後
「なんかね、今夜は喉が苦しかったのよ。ゲップの出方がいつもと違うの。だからWさん(担当看護師)に尋ねたの。『もしかして私食道がんになったんじゃないの?』って」
この的外れな言い分に腰が砕ける。
「そしたらWさん笑うのよ。ゲップは胃から出るの。食道がんとは無関係だよ。あんまりあれこれ余計な心配しちゃダメだよーって」
ホントだよ、周りがくたびれるよ。酸素も97に回復したので本人はまたケロリとしている。
でも終わりは近い。