見出し画像

#17 不信感のかたまり

母の言動をそっくりなぞらえていれば家庭は穏やか。でも学校ではそれが通用しないどころか批判の的になる。天秤にかけた結果、私は叩かれずに済む道を選択した。母の真似をして行動しようと。

父の職業柄、戴き物の多い家庭だった我が家。3人家族では食べきれないこともあってお裾分けと称しては知り合いに気前よく振る舞う母の姿を見てピンときた。友達と仲良くなるには物で釣ればいいんだと。

入学祝いだと沢山の方から届いた鉛筆は到底使い切れる量ではなかった。なので遊びに来た友達にプレゼントした。手ぶらでやってきた友達がビニール袋を下げて帰る姿が母の目に留まり、あれは何だったのかと尋ねられる。

「鉛筆あげたの。これで私はあの子と仲良くして貰えるよね。ママがいつもお友達にしているみたいに沢山あげたんだー」

今度こそ私は褒められると自信たっぷりに母の顔を見上げた。ところが母は激怒し

「冗談じゃないわよ。あれ、お兄さんからの入学祝いじゃないの」

「伯父さんから貰った鉛筆だけあげた訳じゃないよ。ママだっていつも何でもあげちゃうよね。私の好きなお菓子だからあげないでってお願いしても、どうしてそんな欲張りなんだって誰かにあげちゃう。ママと同じことをしてるのに怒られるのはおかしい」

「屁理屈言ってるんじゃないわよ。ママはいいの。正しい判断が出来る大人だから。卯月は駄目なのよ、何が正しいかも理解出来ない子供なんだから。いつも言ってるわよね、何をするにもママの許可が必要だって。鉛筆あげたかったら先に相談しなさいよ。どの鉛筆を何本あげるかはママが決める。卯月が一人で決めていいことなんて何もないのよ」

「どうして自分で考えて行動しちゃいけないの?何歳までママの許可が必要なの?」

「ずっとよ。ずっとに決まっているじゃないの。子供は親に従うのが絶対なの、謝りなさいよ」

「ママは今でもおばあちゃんに何をしていいか聞いてるの?」

「はぁ?聞く訳ないじゃないの。ママは大人なのよ。」

「でもおばあちゃんの子供でしょ。学校で教わったよ。自分のことは自分でしなさいって。何でもママに聞かなきゃならないのなら明日から一緒に学校に来てよ」

言葉に詰まった母はいつものように引っ叩いてこの話題は強制終了となった。叩かれないように取った行動が母を怒らせ、結局叩かれる。もう叩かれ慣れて泣かない私はさぞ憎たらしい娘と映っただろう。

母はその子の家へおもむろに電話をかけた

「卯月が勝手なことをしたので今怒ったところなの。この子は幼稚で自分のことが正しいかどうか分からないのよ。あれはとっても大切な鉛筆だから人にあげてはいけないの、ごめんね。今から卯月を行かせるので返してやってちょうだい」

唖然として聞いていた。何で私が取り戻しに行くの?返して欲しいのはママでしょう?

「ママは行かないからね。そんなみっともないこと出来ない。勝手な真似をした罰だから恥をかいても仕方ないのよ。早く行ってきなさい、暗くなるわよ」

友達は顔を出さず、その子の母親から渡された鉛筆を握りしめてとぼとぼと帰宅した。あげた本数より明らかに少ないがそこを批難する資格は私にない。そして翌日学校で

「卯月はやっぱりうそつきなんだね、もう絶交だから」

当然の報い。学校も苦痛、家庭も苦痛、居場所の見つからない私。

いいなと思ったら応援しよう!