当時の日記より170@2010 11/22
家にいた間、何も起きず心底ほっとした。私は毎日胃のムカムカが治まらず、胃薬と友達。これはきっと今日治まる。
朝食後にりんごを出したら残した。
「調子悪い?」
と尋ねると姫(母)は
「昨夜のデザートもリンゴだったじゃないのっ同じ物は続けて食べたくないって何度言ったら分かるのよっ」
自分で決めたルールには徹底的に従わなくてはならないアスペルガー。考えを変えられない思考は生きていくのに辛いだろう。それは見ていて分かる。でも振り回される側の辛さも分かってもらいたい。相手の気持ちを推し量る余裕はなんて今の私にはない。
昨夜もネットスーパーはいつ来るのかと聞かれ
「来ないよ、姫は明日から入院でしょ。何か欲しい物でもある?」
と返事をすると
「防虫剤。私の洋服がしまってある全ての場所に入れたいから」
いや、この家のどこもかしこもほぼ全てあなたの服なんで、とんでもない量が必要になりますけど。っていうか何故ネットスーパー?
「ドラッグストアじゃダメなの?」
と答えるとものすごく驚いた顔をした。姫の中で買い物はネットスーパーでなくてはならないルールが出来上がっていたようだ。
そしてこれを機に防虫剤スイッチがオン。やめてくれ、気が狂う。
入院。小芝居の必要もなく15Fの個室病棟へ。すると偶然イケメンが居て、ついでだからと診察になった。そこで夫が必死に笑いを堪えているので廊下に出て二人でひそひそ話。夫曰くイケメンの姫に対する接し方がまるで幼児扱いだと。その言葉に私は点と線が繋がった。
訪問医はとても優しく、見ていると姫は完全に甘えきった幼児みたいだ。以前発達障害の精神年齢が実年齢の3分の2だという記事を見て多いに納得した私だが、それはつまり自身に対する接し方も、子供のような扱われ方でないと不満なんだろう。決して一人の成人としての扱いは望んでいないに違いない。だから好きなのだ、訪問医もイケメンも。
私は姫の兄、つまり伯父が子供の頃から苦手だった。小さい頃は姫に連れられ強制的に帰省に付き合わされてきたが、私が何歳になっても幼児にしか見えていない伯父だった。周囲はそれを可愛い妹の子供なんだから可愛くて仕方ないんだよと言うが、度を越していた。一つ例を挙げれば「転んだら大変。迷ったら困る」とトイレまで毎回ついてくることだ。廊下の突き当りである。迷うわけがない。断っても心配だとついてくる。私が中学生になっても。そういう伯父だった。
姫についてこないように言って欲しいと頼んでも「どうしてお兄さんの優しさが分からないのか」と私が怒られる始末。
姫はきっと心地良かったのだ。そして誰しもが自分をそう扱うことがスタンダードだと認識したのではないか。一人の自立した大人として扱う父や私をよく「意地が悪い」とか「冷たい」と非難したのはこれが要因だったんだろう。
病室で荷解きをしている最中、ゴングが鳴る。
「食べる物何も入ってないじゃない。しかも私が食べ飽きて家に置いておこうと思ってたものだけ入ってる。嫌がらせ?」
「言われてもいないのに姫の食べ飽きたお菓子かどうか、何故私が分かるの?姫から手渡された物を詰めたんだよ」
「じゃぁその時、私が食べ飽きたお菓子と食べたいお菓子を卯月がすり替えたんでしょうっ」
「ねぇ、この袋を私に手渡したこと覚えてる?スーツケースに入れろって」
「覚えてるわよっ」
「だったら姫じゃん。お菓子選んだの。どうして私のせいにするのよ」
「私はね、お金が心配だから食べたい物も食べずに我慢してるのよっ」
「は?何言っちゃってんの?何を我慢しているの?あれもイヤこれもイヤ。何県のなんとか柿しか食べませんとかいちいち細かく指定されてそれを揃える私の気持ちになったことある?お金が心配だから食べたい物我慢してる?聞いて呆れるわ」
この後バトルは延々と続いた。
夜、姫から電話。元担当医が挨拶に来たのだと言う。心は痛まないのか?
居ない間に勝手に担当医変更して。それなのに姫を心配してわざわざ来てくれた女医さんに。
「アリムタはね、入院期間が一番短くて済むんですって。それをわざわざ知らせに来てくれたのよ」
姫、あなたアリムタ何回やってるの。そんなこと知ってるでしょうよ。まるで初めて投与されるかのように私へ説明する。認知症はここまで進んできたんだな。