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当時の日記より165@2010 11/16

11時。ケアマネと訪看さんがほぼ同時にやって来た。看護師さんがケアして下さっているスキに台所でケアマネとひそひそ話。

「お食事どうですか?味覚がかなり敏感だと相談にいらした時お話されてましたよね」

とても優しいケアマネに通じるかどうか分からないが話してみようと思った。

「一つの食材から一つの食感しか認めないんです」

「は?」

「例えばトマト。皮と実と種とそれぞれ食感が違いますよね。それが姫(母)にとっては許しがたい。皮を剝いて種を取り除いてそれでようやく口にするんです。全ての食材に対してそうです。更に付け加えると一つの食材に一つの調理法じゃないとダメです。例えばかぼちゃなら煮物。潰して原型を変化させてしまうとダメです。かぼちゃペーストとか許せない代物になってしまう」

「卯月さんっ大丈夫ですか?今までそれに対応してきたということですよね!」

「こちらが合わせないとどうにもならないんです。我慢して食べようっていう気持ちは一切ない。異常な好き嫌いに食材への食感、調理法。更には抗がん剤の副作用で味覚障害になったと言い張り、食べられないものだらけ。それに毎食違う物を並べないと許されない。だから退院してくるとあと何日したら入院だではなく、あと何10食作れば入院だって数えてます」

「あ、あはははは」

ケアマネの乾いた笑い。驚きすぎて目が泳いでる 笑。

夕方、ヘルパーさんが登場。事前にリクエストしておいた餃子と筑前煮をあっという間の手際で完了させて少しお喋り。

「私ね、太陽教の信者なの」

え。なんかマズい方向に話行ったなと思いつつ、そんな宗教あったっけ?と聞いていた。

「何かっていうとね、太陽に感謝するのよ。朝起きたら自分が今日一日健康で過ごせますようにって感謝を告げて、今日も暖かい日の光を届けてくれてありがとうって。キリスト教は無理よ。全ての人を愛せよなんてさ、嫌いな人はどうしたって嫌いなんだもの。ただこれ以上嫌いな人を嫌いにならずに済みますようにとは思うわ」

あぁなんか分かる気がする。4年ほど前ラジオで偶然聞いた話。「人間だって宇宙の一部。精神は宇宙に連動しているんです。だから布団に入った時『今日も一日ありがとうございました。明日も幸せです』って声に出して感謝の念を呟いてください。幸せになりますようにじゃダメ。言い切ってしまう。そうすると「あぁそうかそうしてあげなきゃ」って宇宙が引っ張ってくれるから、気持ちを」そう耳にして以来、私は今でも毎晩欠かさない。

ヘルパーさんは続けて言った。

「どうしてこんな風に思うようになったかというとね、私未亡人なんですよ。3年前に夫が亡くなったの。それまで人生の全てを頼りきりだったから本当に絶望したわ。でも「なんでそんなに早く死んじゃったのよ」って恨み言を声に出したらおしまいだと思った。だってさ、死んでまで恨み言聞かされたら夫もたまんないでしょう?だったら愚痴こぼすより今日一日元気で生きられることに感謝しようと思ってね。夫婦で精肉店やってきたのよ。やっぱり客商売のストレスって相当なわけ。でね、それを発散させるのにえらい勢いで買い物しまくってきたのよ。目的もなくデパート行っちゃ、勢いでばんばん洋服買うわけ。着るわけじゃないの目に着いたから買ってるだけ。である時気づいたの。もし三越を丸ごと買えたら、次は京王を買うんだろうな。人間の欲ってそんなもん。ここで満足なんてことはない。そしてハッとしたのよ。なんて馬鹿なお金の使い方してきたんだろうって。服なんて最低限の身支度が整っていればいいのよ。こんな無駄金ないわ」

私は心の中でガッツポーズだ。姫の前でこんな話をしてくれてありがとう。あ、なんか姫がいつもより小さく見える 笑。


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