当時の日記より156@2010 10/28
日に三度違う果物を用意するのは並大抵ではない。出したところで有難く食べる姫(母)じゃない。極早生のみかんを出したら
「ねぇ、私は美味しいみかんしか食べないのよ。こんな不味いもの買わないでくれる?」
と怒り、代わりにバナナを差し出すとただ眺めているだけ。『バナナで済ませようとか思ってんの? 』という態度である。先日キウイを出したとき
「ちょっと!もうキウイ買わないでね。病院でもしょっちゅう出てくるのよ、飽きたわよ」
キレた。
「毎食違う果物を用意することがどれほど大変か想像出来る?私の立場になって考えてみてよ。ここまで気を遣って文句言われるなんてたまんないよ」
「あら三度変える必要なんてないわよ。私は柿とリンゴさえあれば満足なんですもの」
騙されない。そんな思いつきで出た言葉を鵜呑みにしたら痛い目見るのは私だから。
昼食後、今シーズンもそろそろ終わりの梨「南水」を出した。開口一番
「これ柿?」
「そんな色した柿はない」
「なぁーんだ柿じゃないんだ、がっかり。そうそう来月になったら干し柿が売られる頃ね」「柿と梨、どっちが高いかしら」「あぁ柿が待ち遠しいわ」
気が狂いそう。
「ねぇ、要するに梨はもう出すなって言ってるんだよね」
「そういうことね」
殺意。
それから恒例の家探しが始まった。
「ちょっと!!私の肌着を何処に隠したのよっ!一枚も無いじゃないのっ」
「私はいつも二番目の引き出しに入れてるよね。この前姫がこの場所は気に食わないって別の所に変えたじゃない。そこにあるんでしょうよ。私は何処か分からないよ」
「そこに無いから聞いてるんじゃないのっ!私が変えた場所から卯月が何処かに持っていったから無くなった以外に考えられないじゃない!早く出しなさいよっ病院に持って行くのよっ一枚も無かったら困るじゃないのっ買いなさいよっ」
待て待て、沢山の要望を思いつくままに言うな。
「分かりました。一緒に探しましょう」
適当に引き出しを開けるとこの前『キレイな腹巻は使ったら勿体ないからしまったわ。場所は忘れたけど』と言ってた腹巻が出てきた。
「ほら、腹巻出てきたよ。使おうね。使わなきゃ買った意味がないでしょ」
有無を言わさず袋をびりびりと破いて商品を取り出す私。文句は言わせない。姫が呆気に取られているスキに畳みかけた。
「大体さ、移し替えた場所を知らない私がどうやってそこから抜き出したと思うのよ」
無視。得意だな、無視。
押し入れに顔を突っ込んで覗いたら奥の奥に一夜にして消えたヒルドイドを発見。そしてその脇に持ち手をぎゅっと結んだスーパーの袋が。なんだかイヤな予感がして開けてみると、先日売るほどあると先生や看護師さんにさしあげた外用薬の倍はあろうかと思われるほどの手つかずの塗り薬。数えるのもイヤで、そのまま2Fに持ってきた。
認知が入っているとはいえ、あまりにも目に余る行動の幼さ。ネットに答えを求めるべく調べていると面白い記事を見つけた。
「発達障害がある人の精神年齢はそうではない人の3/2であるらしい。21歳で14歳。30歳で20歳。人への愛着の持ち方、愛着心の強さと幼さ。思い込みの激しさ。ある時点まではほぼ同等の同級生や同期から少しずつ引き離されていく。対等な人間関係がじわじわ崩れてゆく。発達障害の誰しもがあてはまるとは言いませんが、世間の常識が分からない場合があると考えられます。つまり常識の獲得が遅れる。同時に成長発達が遅れる。結果、どうしても幼くなってしまうのです」
姫だ..これ、姫のことだ。
夕食後、秋姫を出した。
「わぁ♪美味しい。これなあに?」
「えっ知らないの?秋姫だよ。多分プラムの中で一番遅い時期に収穫されるんじゃないかな」
「食べたことなかったわ」
「うそっ姫プラム大好きじゃん」
「これね、なんかプルーンみたいな味がするのよ」
もしかして姫はプルーンとプラムって呼び方の違いだけだと知らないのではは?
「大石もソルダムも、サンタローザ、太陽、秋姫。みんなすもも、プラムの仲間だよ。全く違う食べ物だと思ってた?プルーンとプラムって同じことだよ」
鳩が豆鉄砲顔。そうか、知らなかったのか。そりゃプルーンみたいな味がするだろうよ。