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日本画の細やかさ(日本人のオタク気質)

日本画家の主人と一緒に暮らすようになり、日本画のことを色々と知るようになったのですが、私が一番驚いたのは、その作業の細かさでした。

昔、洋画家が、日本画の技術が知りたいと主人の所に教わりに来ることがありましたが、あまりの面倒くささに、リタイアしてしまったそうです。

もともと物事を細かく掘り下げる「オタク気質」の日本人だからこそ、現代まで続いてきたような気もします。


細かい作業-その1)下準備

日本画は、基本、絹・和紙を使用します。

現在は、木製パネルに和紙を張りこんで制作するのが主流となっています。
大きい作品は和紙がもたなくて裂ける場合があるため、補強のため、和紙に裏打ち(裏に裏打ち専用の和紙を張る)をします。

絹は、木枠に張っていくのが多いです。
こちらは、作品が完成したのちに裏打ちをして補強します。

ここまでの作業で、3~6日など数日間かかってしまいます。

その後、完成した紙に下塗りをしていきます。(しない方もいます)
それからようやく、大下図を画面に写し取り、制作がはじまります。

細かい作業-その2)輪郭をとる(骨描き・骨書き)

大下図を元に、筆で輪郭を描いていきます。
これを骨描き・骨書きと呼びます。

骨描きは、筆と墨を用いて、鉄線描と言われる同じ濃さ・同じ太さの線で描くのが基本です。
墨には、ほんの少量の膠(にかわ)水を入れ、後で流れてしまわないようにします。この水と膠の割合は、気候などによって変わってくるそうです。

このとき、失敗してしまったら修正が大変なので、大変神経を使う作業です。


細かい作業-その3)絵の具の準備

日本画の絵の具は、「岩絵の具」と言われる鉱物・貝・土などの粉を使います。

実は、この粉、メーカー(作成者)・制作時期により、色が微妙に違います。自然物のため、全く同じ色を再現するのは難しいそうです。
新岩絵具と言われる人口の岩絵の具(金属酸化物とガラス原料を元に作られたもの)もありますが、こちらもメーカーによって色が違います。

粒子の大きさによっても色が変わってくるので、色の種類は、ものすごく膨大になります。
その中から、自分の使いたい色を選ぶ訳です。

この粉を、陶器製の小皿の上で膠(にかわ)で溶いていくのですが、この時に加える水の量は、その日の気候、湿気などにより変わります。
水の量を間違えると、ひび割れたり、絵の具がはがれて来たりするそうです。
主人は、指の感覚で覚えているそうですが…。
習得までは時間がかかりそうです。


細かい作業-その4)色を作る

日本画は、上記の作業で作成した色を重ねていき、色を作っていきます。
そのため、制作中は、いくつもの小皿が絵の傍に並んでいく事になります。

岩絵の具は重ね塗りすることで、下の粒子の色が上の粒子の色の隙間からうっすら見えて、色合いが出来上がっていきます。
軽い粒子は上に浮かび、重い粒子は下に残ります。
そのために、粒子の大きさや密度をコントロールしながら色を作っていきます。

岩絵の具を溶いた小皿の中から既に、粒子の密度が変わってきます。
(下に比重が重い粒子がたまり、上部に軽い粒子が来る)
それも計算しながら作業をします。

また、岩絵の具を2種類以上混ぜて、新しい色を作ることも出来ます。
この時に、やはり、比重の軽い粒子は上に浮き、重い粒子は下に残るため、その色彩の相乗効果も考えながら作品を作っていきます。


細かい作業-その5)箔を貼る

金箔や銀箔なども扱う事が多いですが、これは手作業で一枚づつ貼っていきます。

風があると上手く貼れないので、真夏でも、窓を閉め、冷房・扇風機を消します。
無風の状態で作業をするわけです。

主人は、夏は下着一枚で、汗だくになって作業してますw
作品の上に汗が垂れると台無しになるため、大変そうです。


細かい作業-その6)完成まで時間がかかる

日本画は、完全に乾かないと次の色が塗れないため、一回塗っては乾かし…を繰り返して作業をしていくのが基本です。

ドライヤーなどで急いで乾かす事も出来ますが、そうすると、絵の具に使用している膠(にかわ)が割れやすくなります。
展示中に、画面がバラバラに崩れ落ちてしまった画家もいたそうです(汗

また、昔は、小下図、大下図と何枚も描いてから、本番(本画)に取り掛かるのが一般的でした。(今は、そこを省略する作家もいらっしゃいます)
日本画の場合、間違えた時、絵の具を落とす・あるいは違う色で上書きするのがとても大変だからです。

そのため、作品が1枚完成するのに、半年以上など長期間かかる事もあります。


細かい作業-その7)習得まで時間がかかる

これは、私が感じた事ですが、まず「筆」に相当慣れないといけません。

日本画は、昔は「紙に筆で一発描き」が基本だったので、「間違えた!」と簡単に消しゴムで線を消す事ができません。

主人は、スケッチも一発描きです。
洋画でいう「アタリ」をとったり、何本も線を重ねて主線を決めていくことはなく、線一本、一発描きで写生をしています。

主人の写生。輪郭はペンで一発描き(鉛筆で下書きなどしません)

他にも、紙を貼る方法や、箔を貼る技術など、職人技を習得する必要があります。
他にも多種多様な技術・技法があります。


さいごに

日本画は本当に奥が深いなーと思います。
逆に、物事を「掘り下げる」のが好きな方には、たまらない世界かもしれません。
日本画家として活動を続けている方は、基本、そういう気質の方が多いような気がします。

また、完成した作品が、光の反射で独特の輝きを放つのは、鉱物などの粉を使う日本画ならではの魅力の一つでもあります。

最近は、日本画でも、抽象画のような表現をしている作家も多くなっています。
昔よりは色々な事が、より自由になりつつあるようです。





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