【彼と海】
あの夏を私は一生忘れないだろう。
あれは私がまだ専門学生の時の話だ。
外はアスファルトがジリジリと歪んで見えたその日、
学校の教室はクーラーがガンガンかかっていて、
プールの授業後の私達には少し肌寒く感じた。
次の授業までに化粧をする者、友達と話す者、
仮眠を取る者、各自自由に過ごしていた。
そんな時、彼は突然やって来た。
教室のドア付近でお喋りをしていた女子2人が私に向かって、
「あや〜、Tっていう先輩があやの事呼んでって言ってるよ!」
私がつかさず返事する。
「ん?誰?先輩?」
部活の先輩以外で先輩に自分から絡む事が無かった私が急に知らない先輩に呼ばれるのだから、
それは普通に謎で、一瞬怖さまで感じた。
しかし、教室の隅から返事をする私の声を聞いた彼は
ドアの外からひょっこり顔を覗かせた。
その時、瞬間的に思ったのは“本当に誰やねん”
関西人でも無いのに、心の中で思ってしまったが、
口では「こんにちは!」と言っていた。
私と喋っていた子はどうやらその先輩と顔見知りらしい。
2人の女子が雰囲気を察してつかさずチャチャを入れてくる。
2人「あや早く来てあげなよ〜!」
私、「あ・・うん!」
彼の元へ小走りで駆け寄り、
廊下の隅に移動すると、
彼「あ〜なんかごめんね急に呼び出して!俺、T、よろしくね!」
と爽やかに笑顔で挨拶をしてきた。
私も挨拶を返したが、
先輩に学校で、呼び出される事など経験が無い私は恥ずかしさと不安で頭が真っ白だった。
話を聞くところによると、
どうやら私の部活の先輩方と同じクラスで、
彼らに私の連絡先を聞いていいか許可を取りに来たらしい。
ダメなんて思っては無かったけど、
ダメなんて直接先輩に言えない。
彼「お〜ありがと♪急に来ちゃって悪かったね!じゃあ○○に聞いて連絡するね!じゃ〜。」
と次の授業に間に合わなくなる事を心配したのか、
笑顔で去って行った。
廊下にもクーラーがかかっている学校にも関わらず、
ガラス張りの階段は夏の日差しが差し込み暑かった。
その時、私は体も暑いし顔も熱くなっていた事を覚えている。
これが彼との出会いだった。
後から部活の先輩に聞いた話によると、
彼は何度も学校の廊下で私とすれ違っていたらしく、
その度、「あの子可愛くない?なんて名前の子?何科?紹介して!」など言っていたらしい。
そして、先輩達は本気かつ下手に彼が良い人だとプレゼンしてくれた。
その後、彼とは毎日ケータイで連絡を取るようになった。
学校ですれ違う時には挨拶してから軽く話をして、
次の授業に間に合う様に解散する。
そんな日々が1ヵ月程続いた。
後から教えてもらったのだが、
彼は毎日遅刻をしたり、
学校を休んだりする常習犯だったらしく、
私と廊下ですれ違いたいが為にほぼ毎日ちゃんと学校に来る様になっていたらしい。
1ヶ月連絡を取り合った頃、
バイト終わりに電話もする様になった。
誰にでも気さくな彼のおかげで、
大分私も楽しんで会話を続ける事が出来ていた。
(この時期が一番楽しいが、好きかははっきりして居なかった。)
彼からも好きと言われる事は無かったので、
少し恋愛の話を振ってみた。
好きな女性のタイプや、
過去の彼女の話をした。
しかし、彼は私の恋愛についての質問を沢山し返してきた。
その際に、「告白するならどこでされたい派?」と聞かれたので、
「絶対海がいい〜!」と何も考えず私は答えた。
そして、電話が終わる直前に「じゃあ次、どこか一緒に行こう!」と彼は言った。
私は照れながら「良いですねえ!どこに行きますか?」と聞くと、
「ご飯食べてから、夜の江ノ島ドライブってどう?」と聞いてきたので、
「良いですね♪バイトのシフト確認して連絡しますね〜。」と言い、電話がおわった。
ここでお気づきでしょうか?
お気づきですよね?
私は電話を切る前に気づいてしまった。
“こりゃ次のデートで告白されるのではないか?”
そんな事を想像したもんだから、
そこからデートまでの期間、
廊下ですれ違うのも何だか恥ずかしかった。
(でもまだこの時の私は確実に彼が好きかは分からなかった。)
なんだかんだでデートの日になった。
彼の運転する車で江ノ島までドライブして、
海岸沿いにある焼肉屋さんでご飯を食べた。
食べ終わったので、ビーチで散歩する事に。
江ノ島水族館付近のパーキングに車を止めて、
夜のビーチへと向かった。
江ノ島水族館の裏の石段に座って話し始める2人、
たわいもない話すぎて、全然雰囲気も作れない。
(ほとんど、告白を意識しすぎて話を盛り上げ過ぎてしまう私のせい。)
2人寝転びながら、星を観る・・
彼がソワソワタイミングを伺っている・・
(正直気まずい雰囲気。)
話が途切れた・・
すると彼がこう言った。
彼「あの〜さ、いつ言おうかずっと悩んでたんだけど、元彼さんの事とか色々あると思うんだけど、俺と付き合わない?」
私「・・・。」
彼「どうかな?」
私「ん〜っと〜どうしよう。」
⦅彼はこの時に振られる覚悟をしたらしい。⦆
彼「返事を急かすつもりはないからゆっくり考えてくれたらいいよ。」
私「正直な話をすると、まだTの事をめちゃくちゃ好きになっている訳ではなくて、好きかも?の段階なの・・だから〜」
彼「うん・・・。」
私「ん〜だから、そんな中途半端な気持ちでも良ければ私と付き合ってください。」
「ダメなら、もう少し時間が欲しいです。へへ。」
彼「うん・・ん?え?つきあえるって事?」
「いや。俺振られると思ったから今びっくりしれるわ!」
「俺は全然それでも良いから、付き合って欲しいよ!」
私「であれば、お願いします。」
彼「うん!もちろんだよ!嬉しいよ!ありがとう。」
そして2人は街灯で照らされた顔を見るのが恥ずかしくて、
寝転がりながら星を観た。
彼はとても慎重に、星を観ながらそっと手を繋いできた。
緊張し過ぎて、
「星綺麗だね。」しか言えなかったのを覚えている。
無事、付き合う事が出来た私達だった。
そこからは、私の方が彼の事を好きだった自信があるくらい、
尽していたと思う。
弁当も作って彼の教室まで持って行ったり、
朝が苦手な彼を電話で起こしたり、
彼の家族にもバレンタインデーのお菓子を作ったりと、
自己満足が爆発したのか、色々な事をした。
私達は仲良しだったと思う。
この時期、彼がよく聴いていた平井大の曲は全て、
今でも私の中で好きな曲となっている。
しかし、先生達の評価は違った。
特待生で入学して来た私が、
Tと付き合い始めて学校の手伝いをしなくなった。
授業中寝ている事がある。
など影で言われる様に私はなっていた。
直接言われた時は悔しくて、
「それは、勘違いです。」
「学費が必要なのでバイトを3つ掛け持ちして遅い時間まで働いています。だからです。」
「だけど、私成績落ちましたか?」
「学校の手伝いは任意だし、全くやってない訳じゃないですよね?」
とその当時の担任の先生と喧嘩したりもしていた。
なんて幼かったのだろう。
今になって、心配して言ってくれいたのだと思い感謝しています。
付き合って1年が経とうしていた頃・・・
彼は1つ上の先輩だったので、
先に就職して何だか忙しそうだった。
私も保育士の資格を取得する為に土日に学校に行ったり、
アルバイトを3つ掛け持ちして学費を稼いだりと、
お互いにバタバタとしていて、
会えない時間が増え、連絡を返す事も疎かになって行った。
すると、とある日彼から連絡が入った。
彼「久しぶりに江ノ島のドライブにでも次の休み行こうか!」
私「え!行きたい!丁度海見たかったんだ〜♪」
久しぶりにあえる事も嬉しかったし、
2人の思い出の場所だった事もありとても嬉しかった。
デートの日、久々に彼の顔を直接見た。
少し顔がやつれた?
何だろ?雰囲気が変わった様に思えた。
でも変わらず爽やかで高身長のイケメンだった。
夜のドライブは安定の楽しさだった。
彼と付き合い始めてから、
夜のドライブの良さを知った。
海岸沿いでご飯を済ませ、
コンビニで飲み物を1つ買い、
コンビニのパーキングに車を停めてビーチまで歩いた。
風が強く、台風が近づいていたので波も荒れていた。
波がジャバーンっと強く聞こえる夜の海は少し怖かった。
怖がっている私を見て、彼はスッと手を繋いでくれた。
波が来ない所まで2人で行って立ち尽くしていると、
彼の細長い手が私の腰にすっと回り、
後ろから抱き寄せてしてこう言った。
彼「最近、連絡あまり返せなくてごめんね!」
私「お互い忙しかったし仕方ないね〜!」
この時、私は“あ〜やっぱりこの人の事すきだな”と心で思っていた。
風も強かったので、特に話も進まずさっと帰る事に。
もちろん家まで送ってくれた。
それからまた、私達の連絡の取れない日々がまたはじまった。
しばらくして、彼から電話で「別れよう。」と連絡が来た。
別れたいのかな?と思う部分が沢山あったので、
疑う事もしなかった。
ただ、はっきり理由を聴きたかったから質問した。
すると、衝撃の一言。
「あやは何も悪くない。嫌いになったとかでは無いんだ本当に。」
「ただ・・。」
彼は、言葉を詰まらせてこう言った。
「元カノと寄を戻したい。」
あーはいはい来ました。
これね。
最悪のパターンね。
そんな事を言われたら諦めざる終えなかった。
カッコ悪いのも嫌だった私は、
「分かった。今まで本当に楽しかったよ。」
「仕事頑張ってね。」
と別れを告げた。
かっこつけて引き留め無かったくせに、
その後しばらく引きずって、
お酒を飲み過ぎて酔っぱらって彼に電話してしまった事もある。
(我ながら怖いし、迷惑な女だ。)
その後は、風の噂ですぐ元カノさんとも別れた事を聞いた。
私が社会人になって彼の社会人1年目は辛かったんだな。
あの時自分のことばかりで、
力になってあげられ無かったな。と少しだけ反省した。
今では、海に行くたびあの時の江ノ島を思い出して胸が熱くなる。
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