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卓上手記<ひかりごけ イレブン☆ナイン>

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To be or not to be, that is NOT the question.
「食うべきか、食わざるべきか それは問題ではない」

「ひかりごけ」は戦時中の真冬、陸軍の徴用船が知床で座礁し、7人の船員のうちたった一人生き残った実話をベースにした戯曲だ。サバイブした船長は生還後ヒーローとして扱われるが、証言に疑問を持った人間によりのちに「仲間を食って生き残った」という事実を暴かれ一転「罪人」として裁かれることとなった事件だ。

と、わたしの知る限りあまりにテーマが重たく今回見ようかどうしようか...悩みながら足を運んだ作品だったが、そんなモヤモヤは始まった瞬間に晴れた。
舞台の上で展開されるのは「マッカウシ洞窟で何が起こったのか」というミステリーではなく、取材で現地を訪れた売れない作家が脳内で作り上げた「脳内ひかりごけ」を地元の人間と演じて事件を追体験する、というメタフィクション、いわゆる劇中劇という手法が取られている。

ストーリの軸となるのはむろん生存者である「船長(斎藤歩)」だが、作家として芽が出ず雑誌の取材で羅臼に降り立った「作家(泉陽二)」が事件を知ったことで起きた「脳内」のクリエイティビティが裏テーマなのだと思う。平坦で平和な日常からは芸術は生まれず、悲劇を以てしか「人間の深淵」に触れることはできないということなのだろう。劇中で人を食った船長を締め上げる「検察官(納谷真大)」の一方的な批判は、綺麗事ばかり叫ぶ昨今の日本の風潮を象徴しているようにさえ感じられた。

今回注目すべきは、名優:斎藤歩さんの恐ろしいほどの力。いつものように「のらりくらり」と軽妙なお芝居のまま彼自身の立ち位置は一歩もズレてないのに、シリアスとナンセンスの境界線を軽々と乗り越え、私を現実と虚構の迷宮に誘う。
まさに「人を食ったような」役者の力を最前列で感じられたのは光栄至極でした。

今回もイレブン☆ナインは裏切らない

観るべきか、観ざるべきか、それはあなたの問題だ。(上演は日曜日まで)

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アヤコフスキー@札幌。ディレクター・デザイナー。Salon de Ayakovskyやってます。クロエとモワレの下僕。なるようになる。リトルプレス「北海道と京都とその界隈」で連載中 http://switch-off-on.co.jp