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先生、私を卒業させます(創作)
1話 先生、漫画の読みすぎです
私、青柳 陶子。椿山中学校の3年生。
身長155センチ。体重は言うわけない。
部活は水泳部。生徒会の役員をしている。
今、私の目の前にいるこの人。
近田 武志、28歳。椿山中学校の理科教師。
身長175センチ。体重なんかしらないが痩せ型。
部活は囲碁将棋部顧問。生徒会の担当教師。
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今、ここは生徒会室。
私は来月の学年行事の栞を下書きしていて、
近田は、隣で理科のテストを採点している。
青柳、もう終わりそうか?
近田は自分の仕事が終わったようで、紙をトントンさせている。
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先生、配慮。人が書いている時に、机でトントンは失礼です。
ああ、青柳すまん。俺はやっぱり東大なんか出て
世間知らずなんだよ。人の気持ちより数式を勉強したつけだな。悪い。
頭を下げているが、謝罪にちらつく自慢が解せない。
近田はのび太に似ていた。のび太が大人になったら近田になるが、脳だけ出来杉君でハイブリッドだ。
のび太の可愛げがなく、出来杉君の爽やかさがない、絶妙なハイブリッドだ。
私もだいたい書き終わったところで、今日の作業を終えることにした。
先生、私も今日は終わりにします。
そうか、青柳さん、雑談してもいいですか?
きた。青柳さん。近田がさん付けで呼ぶ時、それは交渉だ。
私はやはり、青柳さんのことが好きです。どうか、望月とは仲良くしないでいただきたい。
先生、それは無理です。私は望月のことが好きで
あわよくば付き合いたいと思っています。
望月とは。生徒会長で野球部の主将である
望月 創のことだ。気さくで優しい人柄であり、
男女問わず敵を作らぬ博愛主義者だ。
清潔感と正義感のある15歳を15歳の異性が好きになるのは自然である。
そこをなんとか。近田は、この交渉を粘り強く続けている。
青柳さん。俺は28です。15歳で、生徒であるがゆえ、私は青柳さんに指一本触れることもなりませんし、好意を明らかにすることもできません。
望月を好きとか勘弁してください、本当に。
顔に出ちゃうんですよ、エコ贔屓の反対のやつしちゃうから、望月に。だからさお願いします。
泣き落としで軽い脅迫。
先生、お言葉を返すようですが。
まず、先生が私を好きだということをクラスのみんなが知っています。 それはもちろん、これほどまでに執着心のある愛かはいざ知らず、
エコ贔屓が過ぎます。
まさか…。近田は口を抑えている。知ってるじゃないか、どっから漏れ出ているか。
授業中、寝ていればジャージを背中にかけ、
起きていれば私を指名しすぎる。
青柳と呼ぶ時、声のトーンあげすぎ。
テストに三角が多すぎる。どうにか点をくれようとする。
クラスメート達は口々に言う。
陶子は、ちかっちょに好かれてるからね。
そうだね。と私は答えていた。
否定して恥ずかしがることが、つけいれられる隙になる。
堂々と困っていると言うと、最初はからかってきたみんなの反応が変わった。
みんなに羨ましがられず、逆に気の毒に思われているのが救いだ。
近田は、冴えない。恋愛の影もなく、大人の色気もなく、エピソードトークがつまらない。
自慢は東大の学歴で、勉強が友達だったのだろう。
近田はダサいし、髪型も昭和だ。
しかし。
私は、近田のことが嫌いになれなかった。
近田は最初から、私への好意を伝える時に、
敬意を払ってくれた。
例えば、立場を使い圧力をかけたり、男性としての力を使ったり、そういうことを1ミリも抱いていなかった。
好きだと言うだけだ。できるなら、私の恋の成就を妨げたいというのは都合が良いが、まあわからなくはない。
しかし、私が言うのもなんだがこのシチュエーションはかなり誤解を生みやすく、近田はヘタをするといろんなものを失うだろう。
私は近田のことを嫌いではないが好きではない。
この先も近田を好きになる未来はない。
私はあわよくば望月とほにゃららするのだ。
この決意は揺るがない。
私は、私のことを好きな近田を全うな恋愛に向かえるようアシストしたいと考えていた。
私を卒業させねばならない。
私が中学を卒業するまでに。
私がそんな夢想をして押し黙っているところを
少し離れたところから、近田は黙ってみていた。
少し腕を開いている。
青柳さん、あれか胸に飛び込むやつか?その助走の心の独り言か?
先生、漫画の読みすぎです。
私はそう言って、カバンを肩にかけて、さようならを言い廊下に出た。
あれか、そういうの参考書あるか?と、背中に声が追いかけてきた。
あれば、買うわ。私は振り向かず呟いた。
私と近田の卒業までの物語。よろしかったら
お付き合いを。
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