拗らせ喫茶
「こちらのタブレット、ご自由にどうぞ」
左斜め後ろに立つ美容師さんが、てるてる坊主のような私にそう案内してくれる。
もともとあまり雑誌を読む方ではない私は、少し前まで、雑誌より雑談に夢中になっていた。
そのうえ、20代女性故にファッション雑誌が目の前に並ぶことが多かったにも関わらず、思春期の頃からファッショントレンドへの興味が薄い私は、どちらかというと「片付け術」「お金の管理術」「作り置き〇〇品!」のような、隣に座る母のために置かれる雑誌の言葉に好奇心を静かに昂らせていた。
つまり美容院で目の前に置かれる雑誌は、縁遠いもの、というのが個人的な長年の定石。しかし昨今、感染予防のためにタブレット端末で好きに雑誌を選べるようになったことは、私の中で大革命だった。
おかげさまで、カラーの待ち時間になった途端、数年前までは考えられないほどの食いつきぶりで、今回も目の前の液晶へ指を滑らせた。そして目当ての雑誌に辿り着くや否や、ページを意気揚々とスライドさせる。そうすると、大きく「喫茶店特集」という文字が目に飛び込んできた。
その途端、先ほどまでの勢いは急減し、思わず目を背けたくなってしまった。
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