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綺麗な黒髪の女の子は私の憧れだった

小学生の頃、窓際でいつも本を読んでいる女の子がいた。とっても静かな子で、遊び時間も食事の時間も、誰かと話す姿を見たことがなかった。

話しかけても目すら会わせない彼女に、もう話しかける人はいなかったけれど、その子はいつもひそかに人目を引いていた。端正な顔立ちも理由の一つだったが、彼女の腰の高さまである、真っ黒の髪の毛が一際彼女を引き立て、多くの人の目を奪った。

太陽の光に照らされた髪の毛を見ると、そのあまりの漆黒の深みに吸い込まれてしまいそうだった。

無口で誰とも関わりを持とうとしない彼女が、私は少し苦手だった。でも、見れば見るほど彼女の髪にはたいそう魅了されていってしまった。

私はいつも男の子に間違えられるほど短髪で活発だった。髪の毛は短いほうが洗うのも乾くのもラクだし、なんてったって動きやすい、そう思うタイプだった。見た目も中身も対照的な私たちだったから、そんな彼女が羨ましく見えてたのかもしれない。

どうしてもその綺麗な髪の毛をもっと近くで見てみたい。そう思った私は勇気を出して、彼女に話しかけに行ったことがあった。

放課後、もはやお決まりのように彼女が一人で本を読んでいた。

「あの…」

おそるおそる話しかけると、無言のままこちらを向く。

「どうしてあなたの髪はこんなに綺麗なの?」

と尋ねると、彼女は静かに微笑んだ。

「髪の毛を大切にしているの。丁寧に伸ばしてヘアードネーションするの」

それから、彼女は昔の友達が病気で髪の毛を無くして、とても悲しんでいたこと、私が何か力になってあげたいと思って、ヘアードネーションを始めたこと、どれだけ一生懸命手入れをしているかなど、まるで親が子供に話すように静かに教えてくれた。

「31㎝を越えて髪の毛を寄付できたら、私が丁寧に伸ばしてきた髪の毛が誰かの役に立てるの」

そう話す彼女は、いつもの無口な女の子ではなかった。こんなにも自分の意志を持って、その子の力になりたいと思って自分にできることを探したのだ。苦手だと思っていた感情がスルスルと溶けていき、新しく憧れの気持ちが生まれた。

そんな夢のような出来事があったものの、その後仲良くなる、なんてこともなく、私は彼女を尊敬やら憧れやらの思いを込めたまなざしで遠くから見つめることしかできなかった。

ある日、登校した彼女の髪は肩より少し短くなっていた。

クラスメイトはざわざわしていたけれど、本人は机に着くなり、いつもどおり淡々と本を読み始める。

誰かが「どうして髪切っちゃったの?もったいな~~い!」なんて話しかけても、相変わらず顔も上げなければ答えもしない。

そんな出来事も卒業を迎え、彼女とは別の学校に行ってしまったのでそれから会っていない。あのとき、なんで私にはヘアードネーションの話をしてくれたのかは今でもわからない。

でも、話をしたときの彼女の髪の毛と微笑みは、忘れられないくらい輝いていた。

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