いろんな色彩に満ちた世界 - 『PERFECT DAYS』
東京のトイレの清掃員として働く1人の男性の日常。
映画の説明を読んで、私は彼に興味を持ち、彼の見ている世界を知りたいと思った。
平山さんの見ている世界は美しかった。彼は無口で、人と積極的に関わろうとはしていないように見える。それでも、世界と関わる中で彼の心はいろんな色彩に満ちて、揺れ動き、たくさんの物を捉えて、受け取っている。彼の心はいろんな色で満ちていて、とても豊かだ。
彼の世界が心から美しいと思ったのは、彼が日常の中で出会う、些細な、それでいて美しい瞬間をたくさん見つけることができるからだ。木々が風に揺れる姿。その音。木漏れ日。日々の様々な人との関わり。触れ合い。笑顔。日々を忙しく生きていると、ただ通り過ぎてしまって気づくことのできないもの、こぼれ落ちてしまいそうなもの。それを捉えて、見つめている。
社会の中で周りの評価を得たり、何者かになることに必死な毎日。その中で、日常を生きていくこと、一瞬が持つ美しさを知ること。この映画がこんなにも人気で、いろんな人の心に届くのは、きっとそういう風に世界を捉えて生きていきたい、そこに心地よさを感じることに気付き始めている人が多いからではないかとも思う。
彼は自分の人生を自分の方に手繰り寄せて、自分の足で確かに歩いていて、日々を生きているように見える。社会に飲み込まれてしまわずに、自分の足で立って、自分の日常を生きていきたい。それは私にそう感じさせるものだった。
そして私は安心してもいた。何者かにならなくても、何かを成し遂げなくても、この社会でいわゆる成功者にならなくても。私の日々や物語は、とても大切で、美しいものであると。今を生きている人々の日常、一瞬一瞬がかけがえのない大切なものであること。世界は暴力や痛みと同じくらい、美しいものや色とりどりのもので満ちていて、見つけようと思えば、きっと見つけることができる。
社会で生きていく中で、日常の一瞬を捉えて生きていくことは本当に難しいことだ。彼のように生きている人は本当に存在しているのかとも思う。それでも、彼の生き方や日常を見たことで、そうやって生きていくことを選択したり、希望を持つことができるような気がした。
そして、この映画の本質は、彼が自分にとって何が大切か分かっていて、彼の生活や日常は、全て彼の選択の上に成り立っているということ。彼が自分にとって大切なものをしっかりと理解していて、その瞬間と共に生きることを日々選択していることが、彼のとらえる世界を形作っている。
それでも、彼の世界はたくさん揺れ動く。異なる世界に住んでいる、大切に思っていけるけれど一緒に生きていくことはできない家族のことを思い、涙を流す。彼の過去や物語は全ては語られない。それでも、彼がたくさんの葛藤と共に生きていて、それでも自分の道を自分で選択して、葛藤や苦しさもひっくるめて日々を生きていることを、最後には知ることができる。答えが分からなくても、何も確かなことがなくても、日々を懸命に生きていく。何も意味がないことはないんだ。そんなメッセージを、彼は最後に橋で初めて出会った男性に影踏みをしながら伝える。