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フランスから、食関連ニュース 2021.04.21

今週のひとこと

今年1月に発表されたミシュランガイド仏版で、唯一、新しく3つ星に輝いたマルセイユの「AM」。オーナーシェフは1976年生まれのアレクサンドル・マッジア。2014年にこの店をオープンして以来、着実にその評判を高めてきました。オープン当初から様々なガイドから絶賛され、注目すべきシェフとして評されてきました。2018年にはゴー・エ・ミヨガイドで、最高料理人賞にも輝き、2019年にはミシュランガイドは「AM」を2つ星に。そしてあっという間に3つ星に駆け上りました。

10年以上前、「AM」をオープンする前、マッジアはマルセイユにあるル・コルビュジエの作品である集合住宅「La cité radieuse(光輝く都市)」の海を見渡せるレストラン「le Ventre de l'architecte(建築家の腹の中)」でシェフを務めていましたが、そこで初めてマッジアの料理を経験しました。コンプレックスなく香りを自在に組み合わせる手腕は、すでに才気走っていたことを覚えています。その頃は無名でしたが、ピエール・ガニエールに似た、作家性があると感じたのを、強く覚えています。今は、より一層、ガニエールに近づいた感がありましたが。

そのマッジアが取り組むフードトラックの取材に行ってきました。5月30日の日経新聞日曜朝刊「NIKKEI The STYLE」に掲載となります。コロナ禍下、レストランのオーナーシェフとして、フランスのガストロノミーの行く末を見つめ、取り組む姿について執筆いたします。

オープンキッチンで20人もの料理人とホール係のスタッフが、フードトラックでサービスする料理とガストロノミーのデリバリーを作成するのに、チームワークよく熱心に働いていたのが、心に残りました。料理人の一人、20代の女性料理人と話をしたのですが、「AM」に来る前は、アルザスの2つ星「Le Chambard」で働いていたとのこと。こちらも3つ星候補、オリヴィエ・ナスティがオーナーシェフで、実のところ、私としては今年の3つ星はナスティになるのではないかと予測していました。ロックダウン中はマッジアと同様、いち早く賢くデリバリーに取り組んで、注目を浴びていました。 ナスティのMOF(フランス最高職人章)の称号を持つ、正確かつ重厚な料理から、マッジアの自由で独創的な料理へという、真反対の体験で、両者から素晴らしい学びを得ていると、その女性料理人。将来は地元アルザス地方で自身の店を持ちたいと、意欲を見せてくれました。

コロナ禍の厳しい時期でも、こうして諦めることなく、自分の夢を料理に託している若者たちの姿を見て、フランスのガストロノミーは将来も健在だと思いました。そして、どんなに困難な時期にあっても、こうして生き生きとした職場を提供し、20人の料理人から、一人として失業者を出すことなく、地元の生産者も支えている。料理人であるという以前に、一人のオーナーシェフとしての信念を見たような気がしました。3つ星を獲得した夜は、近くを通る車、駆けつけた車のクラクションが鳴り止まなかったということ。まるでサッカーで優勝をしたかような歓喜に包まれたことでしょう。

今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。【A】クリストフ・ミシャラク、「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のスペシャルガトーを創作。【B】使用済みの食用油から製造されるバイオ燃料が航空機用に。【C】隈研吾建築のホテルが、パリ13区に来年オープン予定。【D】青果搭載の自動販売機が駅に登場。【E】フォロワーは31万人、パティスリー&靴がテーマのインスタグラマー、「ダロワイヨ」とコラボ。

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