フランスから、食関連ニュース 2020.07.01
今週のひとこと
2020年も折り返し地点となりました。パリの街中は、カフェやレストランがテラスを広げており、日常を取り戻したかのように見えます。晴れ間が広がる毎日で、夏の始まりを告げるような陽気でもあります。コロナ禍を一瞬忘れてしまいそうにもなる。友人たちの集まりで、心を奮い立たせる、というジェスチャーとして、敢えてビズを交わすという光景にも出会いましたし、カフェのテラスは、テーブルこそ1メートル間隔で配置されているものの、友人同士ではディスタンスを測っているとは思えない距離の近さを目にします。日本に住む日本人の友人たちと話をしたところ、まだレストランなどに行くことに罪悪感を覚えるとか、あるいは恐怖感が伴うであるなどの心持ちが渦巻いている、と話しており、フランスよりも日本の方がその感情が顕著であるように感じました。パリでは、テラスのないレストランの場合、本日から営業を開始する店が多いようです。
パリで25年愛され続けてきたうどん屋『国虎』の野本将文さんからも、本日7月1日の開店の電話が舞い込みました。野本さんは高知店『国虎』の2代目で、地元店名物の味噌ベース汁の国虎うどんをパリジャンからも評価を得るスペシャリテとしました。うどん店、高級和食店、バーと3店舗を手堅く経営。うどん店は毎サービスごとにフランス人たちが行列を作るほど成功しています。パリに住む日本人たちのお父さん的存在でもあり、日本から来る出張者たちの拠り所でもある。ロックダウン中は、種類も豊富、上品、上等なお弁当を出して、オペラ座界隈に勤める人々をはじめ、常連客たちに支えられてきました。本日7月1日からは、うどん店は昼のみ、高級和食店は夜のみの営業と決めたということ。そして夜は以前から値段を大幅に上げて、コースを210ユーロで提供すると、思いのうちを話してくれました。通常は60席くらいはあるだろう、その席数も大幅に減らして、しかし従業員を維持するとなると、この値段の設定は背に腹は変えられぬ決意でしょう。それでも、25年にわたる経験と、常連客の顔ぶれを信じての考えだっただろうと思います。私にも連絡を下さいましたが、色々な知り合いやお客に、野本さんは1本1本丁寧に電話を入れているのだろうなと想像しました。今はフェイスブックやら、SNSで一気に発信するのが当たり前となりましたし、それが大衆を大きく動かすには違いないでしょうが、実際にお客に足を運んでいただくためには、こうしたやはりリアルなコミュニケーションこそが力を持つのではないかと思いました。バーチャルな関係ではなく、リアルな関係の強さを、野本さんは肌を持って体感してきた人だと思います。バーチャルな関係は一瞬で人を動かすが、長期的な関係には繋がらない。遠くから足を運んでくれるお客ではなく、近所に愛される店作りをすることがいかに大切かということを、パリのレストラン経営者は、黄色いベスト運動やスト、あるいはテロなどが立て続けに起こった、ここ数年の間で学んできたはずですが、世界中から封鎖された今回のロックダウンでは、より身を持って感じたことではないかと思います。
話は飛びますが、パリ8区にあった一斉を風靡したレストラン『ステラマリス』の吉野建さんの当時の奥様が、オープン仕立てのころ、名刺をシャンゼリゼ大通りで配って客引きをしたのよ、とさらりと笑って言っていましたが、サバイバルな時を生き抜くすべは、こうした覚悟なのでしょう。
今週のトピックス【A】2つ星レストラン「クラランス」、ピクニックセットサービス始める。【B】3つ星レストラン「ミラジュール」、バイオディナミックカレンダーを取り入れたメニュー開始。【C】ガイド『ゴー・エ・ミヨ』、テイクアウト形式のサービスをするレストランガイド開始。【D】パラスホテル『ル・ブリストル』、サステナブルガーデンの試み。【E】老舗高級エピスリー『フォション』の危機。
今週のトピックス
【A】2つ星レストラン『クラランス』、ピクニックセットサービス始める。
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