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Chakaiseki Akiyoshi 茶懐石「あきよし」@パリ15区 フランスの週刊フードニュース 2023.03.24

今週のひとこと

2ヶ月前ほどに、パリ15区に茶懐石料理店がオープンしました。名前は、ご主人である秋吉雄一朗さんがご自身の名字から取り「あきよし」に。茶懐石という世界を入り口にして、フランスの方々に日本の心を伝えたいという秋吉さんの御心から生まれたお店です。

京都・瓢亭にて10年の修行を積んだことが礎となり、パリOECD大使公邸料理長として就任。3年間のパリでの料理経験をされました。そののち、日本に戻り、日本の津々浦々でご自身の腕を試しながら、パリへの挑戦に結びついたのかなと想像しています。

瓢亭ご主人より、秋吉さんを応援してやってほしいという声が「あまから手帖」の和食のサイト「和扉wa-tobi」の編集長に伝わり、近々取材執筆させていただくことになりました。ちょうどお食事をいただいたあとに繋がった、嬉しい一報でした。

ところで、1つ心に残ることがありました。
お食事の後、最後の濃茶で出していただいた抹茶茶碗を、ご縁の再来にとのお言葉を頂いてお出しくださった茶碗です。江戸時代から続く京都東山の窯元「真葛焼」の作品でした。

「真葛焼」の当代は6代目の宮川香齋さん。窯を守っていらっしゃるのは当代ですが、その息子さんの宮川真一さんが、茶事を通し、海外の方々、フランスの方々に日本の文化に触れていただこうと、以前から心を砕いていらっしゃり、茶事をしばしばパリでも開催されていらっしゃいました。ある時に参加させていただいたことから、真葛焼のお碗、そして宮川真一さんとの出会いをいただきました。茶碗と対峙する我々へ、込められた日本の美を真一さんが伝えていらっしゃる姿に、感銘を受けたひとときでした。

こうした真一さんとの滅多にないご縁から、真夏に窯元にも立ち寄らせていただいたことがあり、その際に当代でお父様である香齋さんにもご挨拶をさせていただきましたが、作品はもちろんお父様の圧倒的な存在感は今でも忘れられません。真夏に訪れましたが、仕事場も兼ねた日本家屋の凜とした静謐さ、太陽光に翻る真っ白な麻の暖簾との対比が今でも忘れられません。なんとも言い難い凝縮された時の流れを感じました。

その真一さんのお引き合わせで、パリでの茶事にてご挨拶させていただいたのが秋吉さんご夫婦でした。本当に申し訳ないことに、私はすっかりご縁を忘却していまして、ご亭主の雄一朗さんの方から、「どこかでお見かけした方と思ったら、あの時の」と、お食事の途中で思い出してくださったのは、心からありがたいことでした。

そんなことから最後の抹茶茶碗に「真葛焼」の作品を選んで出してくださったのです。「ご縁つなぎに」と。そのお碗は瞬時に滅多にない作品だと感じました。松竹梅の山水図が幸せを呼び込んでくれるような。あとで伺うと「祥瑞腰捻茶碗」という、三代香齋氏の作品でした。明治27年に生まれ、大正3年に19歳で香齋を襲名。25歳で逝去されるという短命でしたが、窯を守られていた折に、福田大観氏(後の北大路魯山人)が出入りしており、染付煎茶碗などを絵付していたそうです。三代香齋氏よりも10ほど年上の魯山人氏が、どのような絵付をされていたのかは想像だにできません。しかしながら、今回、滅多にないご縁で手に取らせていただいた「祥瑞腰捻茶碗」の絵付は、とても自由闊達で、自然と人の活力を感じました。芸術家同士の魂の交換が、三代香齋氏による作風にエネルギーを与えていたかもしれないとも。一期一会とはよく言ったもの。1世紀の旅をさせていただけるような、ありがたいひと時を、濃茶とともにいただきました。

ところで、近年SDG'Sが叫ばれる中で、レストランのあり方にも変化が見られてきました。ミシュランもグリーンスターを設けて、環境問題への配慮、労働条件なども含めた社会的責任に関してのレストランの姿勢が求められるようになりました。

そうした姿勢は素晴らしいとも感じながらも、ご亭主と客人の心の交換というか、化学反応のような時をくださるのこそがおもてなし。先日ある北欧のレストランが、従業員に週3日の就業時間を約束し、500ユーロのメニューを提案するというニュースが入ってきて、少し疑問にも感じました。ジャーナリストの伝え方もおそらく悪い。何れにせよ、客人の心構えももちろんのこと、レストラン側もコンディションばかりに振り回されない、本質的な心をくださるような店作りをしていただけたらとも。そんなお店にこれからも多く出会えることを祈っています。
「あきよし」ご亭主雄一朗さんと女将三鈴さんのおもてなしに感謝。


今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載しています。食の現場から政治まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。【A】クリスチャン・ルブタン氏、ホテル開業。【B】カメルーンのカカオ農場事情。【C】コニャックの老舗「メゾン・マーテル」、3つ星シェフと契約。【D】レストラン管理の新アプリケーション。
今週のトピックス

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