黒仏 警視庁異能処理班ミカヅチ
■ 感想
白昼の銀座で起きた無差別殺傷事件。捜査一課だけでなく『怪異は祓わず隠蔽する』が規則の警視庁異能処理班ミカヅチが動き出したとなれば、そこに怪異あり。
犯人の肩には真っ黒でちいさなモノがへばりつき、それは耳元でなにか囁いているように見え、犯人は被害者たちから切り落とした耳を口いっぱいに含んでいた。異様な事件で幕を開けた新しい怪異は、まだ手掛かりも掴めないでいる間に次々と犠牲者を出していく。共通点は全て『耳』。ある時は斬られ、ある時は耳を拳銃で撃ち抜かれた。
続く事件を調べるうちに浮かび上がってきたのは『黒仏』と呼ばれる禍々しい呪物。不気味で不出来な造形物に見えるソレは、仏像を知らない者が徒に作ったような、彫り物などの立派なものではない漆で塗り固めた張り子のようなものだった。
イザナギ、イザナミの間に生まれた最初の神であり、不具の子として葦船で流されたとされる『水蛭子(ヒルコ)』や、江戸時代の怪談集『諸国百物語』などが絡み合いながら、呪物は闇の中心で瘴気を発していく。今作も土着な怪異を中心に、呪物や百物語、古事記とも繋がり、怪異の背景を深掘りする愉しみも沢山用意されている。
本人も与り知らない主人公・怜くんの出生の謎へと続くヒントのようなものがチラホラと散見されるのも、謎解きのような愉しみ要素として胸が高鳴る。
『水蛭子』を調べていくと、葦の船で流された後は歴史から姿を消してしまうが、後の時代になり民間伝説の中で『エビス』と名を変え、福の神へと転生している。蛭子と恵比寿を同一視する説は室町時代からおこった新説で、それ以前に遡る古伝承はないようだが、芸能を通じて広く浸透していたり、「蛭子」とかいて「えびす」と読む地名や苗字もあり、ヒルコを祭神とする神社や恵比寿を祭神とする神社では、恵比寿=事代主とするところも多いという。神話と伝承の間で蛭子はどう流れ着いたのか、今こそ積んでいる場合ではなく『古事記』を読み、土着をより深く知っていきたい。
人が生み出す哀しみと怒りが怨念へと転化する、心に根差す怪異を取り扱う異能処理班ミカヅチが更に好きになった。
■ 漂流図書
■楽しい古事記 | 阿刀田高
イザナギ、イザナミの間に生まれた最初の神であり不具の子として葦船で流され、後の時代になり民間伝説の中で『エビス』と名を変え、福の神へと転生した『水蛭子(ヒルコ)』。
まずは原点の「古事記」を今こそ読みたい。