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プリニウス(1)~(12)プリニウス完全ガイド
■ 感想
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「ウェスウィウスもエトナに等しく…燃える山であった」並外れた好奇心と知識欲に突き動かされ、身に迫る危険よりも研究に胸を躍らせ、時代を駆け抜けて行ったガイウス・プリニウス・セクンドゥス。膨大に書き留められたパピルスのほとんどは失われ、天文、地理、動植物の生態、伝聞、書物の引用、絵画、彫刻など、森羅万象を網羅した百科全書「博物誌」全37巻だけが残り、プリニウス本人についての資料はほとんどないため、ヤマザキさんととりさんで想像を膨らませ、物語を紡がれた本作。
精緻でありながら迫力のあるとりさんの背景や怪物たち、おじ様たちを見事に描き分け、その魅力を余すことなく肉付けし、プリニウス一行の見聞の旅をインディージョーンズさながらの大冒険譚にまとめ上げたヤマザキマリさんのエネルギーと胆力に感動した。
”人間だけが教育に頼らなければ何一つ知ることもできない。だからこそ、私は他の動物に対して恥ずかしくないように生きようと決めたのだ。人間の特性である知識をできる限り磨こうと。自然にも他の動物と同様受け入れてもらう為に”
オカルトと科学を分け隔てなく扱った垣根のない思想と、知識に溺れ傲慢になるのではなく謙虚に更なる知識を求め、地球の仲間のひとりとして生きるプリニウスの姿勢がとても好ましい。でも幽霊は信じなかったというので、それはどんな理由の元でなのか、博物誌にそれについての言及があるのかも楽しみに読みたい。
プリニウスの人生を軸にしながら、ダブル主演のように大きな存在感を放つのは、悪名高い皇帝ネロ。自らの母、妻、有能な側近たちも多く殺害し、ジャイアンリサイタルを開き、貧困に喘ぐ市民を横目に贅沢三昧、政治はろくにせずローマを混乱させ続けたネロ。史実ではネロは子孫を残さなかった為、初代アウグストゥスから約100年続いたユリウス・クラディウス朝は途絶えた。
ユリウス・クラディウスといえば、藤本ひとみさんの小説で育った私にとって「愛してローマ夜想曲」のカミルスこと、ブリタニクス・ユリウス・クラディウスを思い出し、切ない気持ちと懐かしさで胸がいっぱいになる。ああ、ローマがテーマの物語はいい!!ローマへの愛を再認識したところで、改めてもっとしっかりローマの勉強をしようと本棚から色んな本をごそごそと取り出した。
閑話休題、プリニウスが誕生した紀元23年頃の古代ローマでは、ウェスウィウス山が火山と認識する者は少なかったという。しかし群発する地震からウェスウィウィス山は火山ではないかと疑い始めたプリニウスは「昔、火焔を放出していた」という文献を見つけ確信へと変わり始めるが、噴火の悲劇はもうそこまできていた。
最期はウェスウィウスの噴火を眼前に、恐怖に勝る観察者としての尽きることのない好奇心と共に噴火の犠牲となったプリニウス。労作「博物誌」は今の時代に於いては荒唐無稽と言われる内容が大部を占めているが、自分の足で知識を集め、現代への足掛かりとなる情報たちで長大な百科全書を編んだ功績はこの先も長く長く語り継がれていくだろう。どこを切り取っても魅力に溢れた登場人物とエピソードで魅せてくれたヤマザキマリさん、想像でしかなかった世界を色鮮やかに体験させてくれたとり・みきさんのチャレンジングな偉業に心から感謝したい。いつの日か熊楠の世界でまたお二人の物語が見れることを祈願して。
■ 漂流図書
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◽澁澤龍彦全集(21)
◽プリニウスと怪物たち | 澁澤龍彦
◽プリニウスの博物誌
◽プリニウス書簡集:ローマ帝国ー貴神の背活と信条
◽ギルガメシュ叙事詩
◽ひみつの薬箱
◽中世修道院の庭から
◽同時代史 | タキトゥス
◽ローマ帝国衰亡史
まずは本棚からこの本たちを再読・初読していきたい。勉強したいことがありすぎて、ローマ果てしない…。