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作りたい女と食べたい女(1)~(5)

■ 感想

「作りたい女と食べたい女(1)~(5)」ゆざきさかおみ(KADOKAWA)P846

小食だけれど沢山作って食べてもうのが夢だった野本さんと、見る人を魅了する食べっぷりの春日さん。同じマンションに住んでいたふたりが食を通して交流を深め、ゆっくりと心を通わせていく愛おしい世界。LGBTQや家族など様々な現代の悩みや難しさを丁寧に優しく包み込むように描いていく物語は、分かったつもりにならないことの大切さを登場人物たちの温かさで導くように教えてくれる。

好きという感情に定義や枠をつけられることの理不尽さ、好きな人と共に生きることの当たり前の権利を少数派と切り捨てる政治が悲しい。偏見を常識とすり替える人たちに誰もが傷つけられることのない世界となり、恋に異性、同性の枠がなくなり、恋をしない、結婚しない、子供を産まない、それぞれの選択も誰かに強制されたり苦悩することなく自由に選び、多数派・少数派という価値観が消えていく世紀であってほしい。

それぞれに悩みを持ちながらも野本さんと春日さんを囲む友人たちとの時間も最高に愉しく、登場するお料理もどれも美味しそうで胃袋がチョコレートに惹かれたり、お餅に惹かれたりと誘惑だらけ。そしてとにかくかわいい春日さん。「大人の遊び」が真夜中に寝間着でラーメンを食べに行くだったり、バケツプリン作るだったり平和すぎて大好き。誰も少数派にしない温かな眼差しに心癒される。

驚いたのは同性パートナーと一緒に住む物件を探すことが想像よりずっと大変で、日本の婚姻至上主義極まれり具合に驚きと失望しかなかった。当事者以外が全てを理解することは無理でも、分からないことは互いに歩み寄り、優しさで繋がり合える社会になることがなぜこんなにも難しいとされるのか。「社会が変わってしまう」などとリーダーであるべき人が言い放つ思い遣りのなさが悲しい。

子供が同性同士でなければ生まれないとなったら異性愛者だった人がそうですかと同性を愛せるとでも思うのだろうか。誰かに決められて人を愛するのではないということくらい自明の理ではないんだろうかと首をかしげたくなる。他にも会食恐怖症やアセクシャルなど知らなかったことを知り、どうすれば傷つけずに繋がり合えるのかを考えさせてくれるところも意義深く、素敵な物語だなと原作を読んでさらに「つくたべ」の世界が好きになった。

自分の思考だけで独り善がりな善かれを押し付けない為の優しい距離感や受け止め方、どちらかが少数派なのではなく、誰しもたったひとつの個性で生まれ暮らしている当たり前のことを忘れず、誰とでもそれぞれの距離感で大切に付き合っていけるよう心掛けたい。「作るひと」「食べるひと」ではなく「ふたりで作って食べて暮らす」。思い遣りを渡しあうことの尊さに胸の奥がふわっと温かくなった。

そして「つくたべ」のドラマで大好きになった、春日さん訳の西野恵未さん。音楽活動もされていて、「暁」を聞いてみたらますます恵未さんが好きに。繊細で優しくて、心地よく包み込むような恵未さんだけの音に癒される日々。つくたべのキャストさん皆すごく素敵でseason3が待ち遠しい!

■ 漂流図書

■ともさかりえの徒然note

お芝居も歌も彼女の書く文章も大好き。つくたべではyakoさんがともさかちゃんで嬉しかったし、本当に素敵なyakoさんだったなあ。

大好きなものに囲まれておしゃべりしているみたいな楽しいこの本を久しぶりに再読してみよう。

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