好きな音楽 〜Mr.Childrenと蘞み〜
1.出会い
1994年12月金曜夜8時、テレビの前を陣取り、テレビ朝日をつける。タモリさんが挨拶をする。音楽番組『ミュージックステーション』が始まる。
今夜はMr.Childrenが登場し、どうやら新曲を披露するとのこと。「Innocent World」も「Tomorrow never knows」も爽やかな曲だったなーって記憶だけど、新曲はどんななのかな。楽しみだな。
画面に映るボーカルの桜井さんは、スーツ姿に黒縁メガネの出立ち。そして曲が始まった途端、私は画面に釘付けになる。それまでのシングル曲とは明らかに違う激しい衝動のような、内側から何かを解き放ちたいともがくような音が響き渡る。後半、たくさんのお姉さんたちが周囲を踊り絡みつきキスをしまくる中、振り解くこともなく受け身の表情を見せるも、掻き鳴らす音は感情剥き出しで、自分たちの爽やかなイメージもお茶の間の凍りついた空気もこのバブリーな演出さえも、全てを押し退けようとする図太さを感じた。
正直凄いものを見た、と思った。平成初期の音楽番組は不思議な演出が多かった印象で、これも賛否両論あるとは思う。だが私としては、この一夜を見て、Mr.Childrenの、櫻井和寿の底知れなさを感じ、一気に惹き込まれてしまった。
たしか翌週には学校帰りに『Atomic Heart』を買い、これが初めて自分の意思で買ったアルバムとなる。「Dance Dance Dance」のBメロからサビへの展開、「雨のち晴れ」の間奏〜3番の展開が特に好きだった。
過去のアルバムも遡って聴いてみる。爽やかさ満点の「Children's World」や「虹の彼方へ」「星になれたら」「メインストリートに行こう」「LOVE」等もお気に入りだったが、「All by myself」「Distance」「Another Mind」等の少し憂愁を感じる曲も好きだった。
2.深みに嵌る
1996年6月発売の『深海』で、どっぷり引き摺り込まれる。とても深くて果てしない闇の中へ一緒に落ちて行くような、それでも海は包み込んでくれていて、よくよく見渡せば個性豊かな深海魚が悠々と泳ぎまわる神秘的な世界、そんなアルバムだった。同年に実施されたTOUR "REGRESS OR PROGRESS" が初めて行ったライブだったのだが、このアルバムを丸々演奏するパートは圧巻だった。なんと言えばいいか分からないけど、意識がぐわーっと持ってかれるような、心地良い危うさを感じた。
更に9ヶ月後に発売される『BOLERO』というアルバムも、セットで聴くとなお素晴らしい。『深海』が海の底なら、こちらは沼の底だろうか。
器用に取り繕うのも不器用に曝け出すのも、どちらも自分自身であり、ぐちゃぐちゃになりながら生きていくのが人生なんだな…と感じた。この2つのアルバムで構成された1997年3月末の東京ドームは狂気と解放感に満ちていた。
以降、彼らの音楽は私の人生と共にあり、あれから四半世紀以上、聴き続けることとなる。彼らの織り成す生々しい人間味のある音と詞は、全細胞へ滲み渡り、おそらく私の人生観や死生観にも影響しているだろう。特に中学生という多感な時期に、『深海』『BOLERO』を聴けた偶然にはとても感謝している。
3.オススメ曲
Mr.Childrenは、時期によって作風が異なる。夢や希望に満ち溢れた曲もあれば、逆にそんなものは無いと言い放つ曲もある。先日行われたライブでも「永遠が聞いて呆れる」と言った次の曲で永遠の愛を歌っていて、思わず笑ってしまった。このコロコロと変わっていくところが、とても人間臭くてとても大好きだ。(多面性があるからこそ、多くの人の様々な人生に寄り添えるのだろう)
というわけで、オススメの曲をピックアップするにあたり、爽やかな恋の歌や感動の名曲たちは、きっと誰かがオススメしているだろうから、ここでは、鬱々とした絶望とかドロドロの欲望とか悪夢とか現実逃避とか、そういう蘞み全開のMr.Childrenを中心に挙げていこうかなと思う。
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◆深海/『深海』
沈んだ気持ちに寄り添いながら、一緒に底まで連れてってくれる曲。後半の展開がとにかく素晴らしい。
◆ALIVE/『BOLERO』
絶望の先にある景色を見せてくれる曲。無くした感情をそっと蘇らせてくれる曲。最後のサビからのアウトロがとても心地良く、ライブアレンジは尚素晴らしいので必聴。
◆ボレロ/『BOLERO』
欲望や衝動の先にある、重く歪んだ真摯な愛情をストレートにぶつけられゾクゾクする傑作。
◆光の射す方へ/『DISCOVERY』
光に誘われ電球にぶつかってしまう虫のように、無意識の欲望と残念な現実を彷徨う感じが最高。Cメロ前のギターが好き過ぎて、そこだけ抜き出してMDに録音して聴いてた(笑) このPV、久しぶりに見たけど死ぬほどかっこいいな。
◆CENTER OF UNIVERSE/『Q』
全ては僕の捉え方次第だ、僕こそが中心、と言い切るこの身勝手さが痛快で大好き。
◆跳べ/『I ♥︎ U』
個人的には「一緒に現実から逃げちゃおうぜ」って曲だと思ってる。イントロや間奏で流れてるメロディがお気に入り。
◆REM/『REFLECTION』
この狂った世界観が最高。アップダウンの激しいAメロが本当に素晴らしい。
◆DANCING SHOES/『SOUNDTRACKS』
周りに合わせて器用に取り繕うのが良いと分かっていながら、無様であっても剥き出しで生きる覚悟を感じる曲。不穏なイントロと、サビのメロディ&ストリングスが大好き。
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きっと誰もが自分自身の奥深くに、様々な形態のひりひりとした蘞みを持ち合わせていて、それを直視するかしないかは自由だし、見て見ぬふりをするのも大切だ。
ただもし万が一、蘞みに触れてしまって、どうしたら良いか分からなくなった時は、これらの曲を聴いて泣いて叫んで髪を掻き乱して溶けきってハイになって高笑いして無になって静かに涙を流して不思議な眠気に包まれたところで、そっと停止ボタンを押すのが良い。