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006 ものともののあいだ - 隙間植物採集 -

数日前から、隙間植物採集を始めた。

採集と言っても、隙間に生えている植物を写真に収めるだけなのだが。


見返してみると、5年前くらいから私は散歩に出るたび小さな隙間に生える植物の写真を撮っていた。

ちょうど会社員を辞めた頃だ。

道に生えている植物に目がいくほどに、心と時間に余裕ができたのかもしれない。

そして、コンクリートの割れ目から伸びる植物に、組織を離れて生きようとする自分の姿を重ねていたのかもしれない。


「草ちゃんはよく、隙間植物の写真を送ってきていたよねえ」と日本にいるパートナーは電話越しに笑った。


極度の寒がりの私にとって、最高気温が10度を下回ることの多い現在のオランダは、もう秋ではなく冬の始まりで、それに、雨もよく降るものだからここのところ近くのスーパーに買い物に行くのさえかなり億劫だった。

それが「隙間植物採集をする」と思うと、外出が楽しくなった。

日本よりも「隙間」がたくさんあるせいか、道端は隙間植物だらけでなかなかスーパーに辿り着かない。

人の家の玄関先の階段の隙間に生える植物を見つけて、しゃがみ込み写真を撮っていたら、通りかかったおばちゃんが「何があるの?」と不思議そうに訪ねてきた。

「隙間にある小さな植物を探しているんです」と言うと、彼女は笑って「ハッピーハンティング!」という言葉を残していった。

そんな風に、自分の興味があるものに自分で近づいて行き機嫌良く言葉を交わすオランダの人たちが大好きだ。


スーパーに着く頃には、何をしにスーパーに来たのかもはや分からなくなっていた。最初から特に買うものなどなかったのかもしれない。

そうだ、と、昨晩、キッチンで小さなネズミを見かけたことを思い出した。
ガサゴソと音がするなあと思って音のしているラックをクイックルワイパーをつけるような掃除用の棒でつつくと、ピンポン球くらいの大きさのネズミが洗濯機置き場の方に逃げ込んで行った。

見ると、ラックの中に置いていた、日本から持ってきた蕎麦の袋がところどころ破れていた。どうやらここにネズミは時折、蕎麦をかじりに来ていたようだ。すでにかじられているのだし、そのままネズミにあげてもいいかとも思ったが、衛生面を考えるとキッチンにネズミが出てこない方がいいだろう。

これまでに我が家で一度だけ、夜中に書斎に入っていくネズミの姿を見たことがあった。姿を見たのは一度だけだったが、お客さんが来て、寝室を貸し、自分は書斎の机の上に据え付けられたベッドに寝たときに、ガサゴソと屋根裏を走り回っている何ががいる音を聞いたことは何度かあった。

古い家なのでネズミがいることは仕方ない。
せめて、キッチンの食べ物には手をつけないで欲しい。

ネズミ取りのようなものを使った方がいいのだろうか。
しかし、別に、殺したいわけではない。
生け捕りにして外に逃すのであれば、またきっとすぐに家の中に戻ってくるだろう。

そんなことを考えながらオーガニックスーパーの奥の洗剤などが置いてあるコーナーに向かった。

いつも行くスーパーで、スタッフのほとんどは挨拶を交わしたことがあるが、今日ははじめて見る男性のスタッフがいた。

「ネズミを捕まえるか殺すことができるものはないですか」と聞くと、「分からないから、他のスタッフに聞いてみるね」とすぐに他のスタッフを連れてきてくれた。他のスタッフがパソコンで調べてくれたものの、やはりここにはネズミ対策になるようなものはないということだった。


「オランダにはネズミがたくさんいるよね」

「殺さなくてもいいのだけど、見ないでいられるといいなと思ってる。オランダの人はネズミがいても気にしないのですか」

「僕もネズミがいるのは嫌だよ。ガーデニングショップになら、何かあるかもしれない」

そんな会話を交わし、「グッドラック」という言葉をもらって店を出た。


あれ、何をしにスーパーまで来たんだっけ。

そうだ、スーパーに行く途中に隙間植物を見つけようと思ったんだった。

それで、道端でおばちゃんに「ハッピーハンティング!」をもらい

スーパーでお兄さんに「グッドラック」をもらった。


帰ってきてしばらくして晴れ間が見えてきた。

そういえば私が外に出たときは今にも雨が降り出しそうな曇り空だった。
それでも心はどんどんと晴れていく。そんな昼下がりだった。

2019.10.24 Thu 13:54 Den Haag 


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illustrated by HISAKO ONO


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awai Sou / 佐藤 草 自然(わたし)にかえろう🌿ともにいのちを生きる
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