コーチングを依頼する前にコーチに聞くべきたった一つの質問 -良いコーチの選び方-
こんにちは。オランダ在住のパーソナルコーチの佐藤 草(さとう そう)です。私はコーチ・エィというコーチングファームに所属した後独立しました。
組織に所属するコーチや個人のコーチなど、これまで様々なコーチを見てきた経験から分かった「良いコーチ」「伸び代がありそうなコーチ」と「そうでないコーチ」の見分け方をお伝えしたいと思います。
これからコーチをつけることを検討されている方にコーチ選びの参考に、もしくは現在コーチをしているけれど成長が頭打ちになっているかもしれないと感じる方に今後の取り組みの検討材料にしていただければ嬉しいです。
1. コーチングの質を見極めるためにコーチに質問をしよう
様々なコーチのマッチングプラットフォームが登場し、コーチをつけることや自分自身の成長のためにコーチングを活用することが身近になってきました。しかしこれまでコーチをつけたことがないという方も多く、「コーチをつけてみようかな」と思って体験セッションをしても、「良かったような気はするけれど、この人に決めていいのか分からない」ということがあるかと思います。
フィーリングというのは一つ大事な要素なので、「この人だ!」と思う人に出会うまで体験セッションを受け続けてみるというのもいいでしょう。しかし、複数の人のセッションを受けると誰が良いかわかるかというと必ずしもそうとは限りません。
「コーチング」と一口に言っても、「売り上げ○○円」と言った具体的な目標を実現することを目的としたものもあれば、「コミュニケーション能力の向上」や「リーダーシップの発揮」「高いパフォーマンスを発揮できる自分でいる」「意識の枠組み自体を成長させる」といった見えないものを扱う場合もあります。
コーチを決めるにあたって、まずは自分がどういうことに取り組みたいかを明らかにすることが望ましいでしょう。(このテーマについてはまた改めて書きたいと思います。)
自分が取り組むテーマが明確になったら、そのジャンルを得意とするコーチを探し、体験セッションを受けてみましょう。その際に大事なのが、コーチに質問をするということです。
「え?コーチングって自分が質問されるんじゃないの?」と思われるかもしれません。確かにセッションにおいては、基本的にはコーチがクライアントに質問をすることになります。しかし、大切なことを話す相手が信頼に値するのか、本当により良い結果を出すことに力を尽くしてくれるのかを判断するには相手のことを知る必要があります。
基本的には人は話をするだけで「スッキリした感じ」になります。また基本的にはコーチは相手のモチベーションを上げることも上手です。そんな中、そのときの気分はモチベーションの盛り上がりだけを判断基準にするのではなく、その場では発揮されていないコーチの技量や可能性を見極めるのに有効な質問があります。
2. コーチの伸び代が分かるたった一つの質問
「相手の伸び代や可能性を見極めるための質問」と聞いてどんなものが思い浮かびますか?
コーチに聞くべき質問はこちらです。
「コーチングの質を向上させるためにどんなことに取り組んでいますか?」
この質問に対して「特に取り組んでいることはないです」という答えだったら…論外です。その方にコーチをお願いするのはやめましょう。
コーチングというのは、目には見えませんがコーチが提供するサービスや商品そのものです。「サービスを良くすることに取り組んでいないです」という裏にはよっぽどの自信がある!?なんて期待はしないほうがいいでしょう。
例えば「コーチングスキルの向上」について聞いた場合、ベテランのコーチになるともう具体的なスキルを得ることには取り組んでいないという場合もあるかもしれません。
しかし「コーチングの質の向上」という場合、「質」に完璧はありません。例えば瞑想や呼吸法なども、心身を整えることにつながり、それはコーチングの品質にも関わってきます。「コーチングの質の向上」ということ以上にコーチにとって大切なことはないのではと思います。(新しいクライアントを獲得するにはマーケティングなども必要ですがそれはクライアントに直接提供されるものの質ではありません。)
例外があるとすると「特定の状態になることに対して確実なメソッドが確立されている」というテーマです。この場合、コーチは、クライアントに決まったことを教えるもしくはクライアントが決まったことを行うことができるように支援することができればクライアントは必ず結果を出すことになり、コーチは「今できることをそのまま確実にやればいい」ということになります。
「結果を出すために確実な方法が確立されていてコーチはすでにそのためのメソッドを完璧に体得している」というときは「品質向上のために取り組んでいることは特にない」ということもあるかもしれません。
「○○の質を上げるためにどんなことに取り組んでいますか」という質問はコーチに限らず、様々なプロフェッショナルに対して、その人がどのくらい自分自身の成長に向き合っているのかや成長の伸び代があるかを測るのに使うことができます。
では、質問に対してどのような答えが返ってきたら「良いコーチ」と言えるでしょうか。ポイントは、コーチの回答に1人称、2人称、3人称の視点が含まれているかどうかです。
3. 1人称の視点とは
まずは「毎回セッションの振り返りをしています」「新しいスキルを得るための勉強を続けています」と言った「自分の目線」を基準とした答えが返ってきた場合です。この場合、勉強熱心な人や真面目な人であればコーチングスキルや品質を向上させ、良いセッションを提供し続けてくれる可能性はあるでしょう。
しかし、1人称の視点のみの場合は「自分のやり方」に囚われている可能性があります。他者からのフィードバックや定量的な評価を受けていない場合、自分が「これが正しい」と思っていることの中で思考や行動をし続けることになります。
また、この場合、フィードバックを受けることに耐性がないという可能性もあります。コーチングセッションで何か違和感を感じて伝えたとき、もしくはリクエストがある場合などに、コーチがそれを受け止める力が低かったらどうでしょうか。現在のスキルがどんなに高くても、「自分」の視点だけで振り返りやスキル向上に取り組んでいる場合、伸び代はあまり見込めないでしょう。
4. 2人称の視点とは
「自分」の視点に加えて大切なのは「2人称」の視点、「あなた」というふうに、一対一で向き合ってくれる人の視点です。これは例えばコーチがコーチもしくはメンターをつけているということに該当します。コーチにとって「コーチングの質の向上」は、方法は様々あるにしろ最も重要なテーマであるはずです。
そのテーマに取り組むために一対一で向き合ってくれる存在、それがまさにコーチです。
コーチは自分ひとりでは気づかなかったことに気づき、新たな行動の選択肢を見つける手助けをしてくれます。オリンピック選手に必ずコーチがついているように、どんなに優秀であってもプロフェッショナルとしてさらに上を目指そうと思うのであれば自分が「自分」という視点だけで物事を考えることから、さらに違う視点を持つことを後押ししてくれる存在が必要なのです。
そもそも、コーチをしているのに自分がコーチをつけていないというのは、自分が売っている商品を自分は使っていないですと言っているのと同じではないでしょうか。この場合、そのコーチやはり「結果を出すために確実な方法が確立されていてコーチはすでにそのためのメソッドを完璧に体得している」ということも考えられます。
もしその結果が手に入れたいものと一致しているのであれば問題ないかもしれません。しかし、「一人一人に合わせた支援が必要なテーマ」「探求を続ける必要があるテーマ」であるならば、コーチをつけていないコーチにコーチングをお願いすることは避けた方がいいでしょう。
例えばICF(国際コーチング連盟)の資格でも、最上位のマスター認定コーチの資格であっても、一定時間以上のメンター・コーチングを受けていることが申請要件となっています。「コーチをつけること」はコーチにとっては当たり前のことと言っても過言ではありません。
5. 3人称の視点とは
もう一つ大切なのは「3人称の視点」です。これは「客観的な評価」とも言い換えられます。これはクライアントからの定量的な評価や、資格試験などが含まれます。定量的な評価は必ずしもコーチの力量をまんべんなく適切に評価できるものではありませんが、「コーチング」そのものに対する評価を受けることで、具体的な成長テーマを見つけやすくなる場合もあります。
また、複数のクライアントから定量評価を受けることにより「相性」などではなく、より客観的にコーチのスキルを測ることができます。
3人称の視点での取り組みに関して重要なのは、「評価の受け取り方が独りよがりになっていないか」ということです。評価を受けて「良かった」「悪かった」で終わってしまっていてはそこにコーチとしての成長はないでしょう。クライアントから定量的に、もしくは第三者から受けた評価に対して、自分自身のコーチと話すことで、コーチは自分の思い込みに止まらず、自分自身の強みや成長テーマを見つけることができるのです。
コーチングには様々な民間資格がありますが、一度取得をしたらその後、更新のためにスキルチェックがない資格などは、コーチが3人称的視点での取り組みを行わず、成長が頭打ちになっている可能性があります。
このように、コーチがコーチングの質の向上のために1人称・2人称・3人称の視点を取り入れ何らかの取り組みをしているかというのはそのコーチの現状と将来性や伸び代を測るための重要な基準となります。
たとえ現在は経験が少ないコーチであっても、1人称・2人称・3人称の視点を取り入れているのであればそのコーチはぐんぐんと成長をしていくでしょう。
6. 組織に所属しているコーチの傾向
コーチングファームなどコーチングを提供している企業の多くは社内で定期的なスキルチェックやフィードバックを行なっています。そのため、1人称・2人称・3人称の視点でまんべんなく自分自身を振り返り、コーチングの質の向上のための取り組みができる環境と言えるでしょう。
しかし、コーチが営業など他の業務も担っている場合、もしくは多くのクライアントを抱えている場合、特に自主性に委ねられている1人称での振り返りは少なくなる傾向にあります。「組織が決めた基準は満たしているけれど、自分なりのコーチングスタイルを発展させることに取り組めていない」ということが起こるかもしれません。
また、コーチのコーチをするのが社内のコーチに限定されることが多く、結果的にある特定の考え方の枠組みの中でのフィードバックに留まってしまうということも起こります。1人称とは違う視点が得られるはずの他者との関わりが、1人称とあまり変わらないものとなってしまうということになるでしょう。
組織に所属するコーチにコーチングを依頼する場合、そのコーチが組織の定めた基準を超えるための取り組みをどのように行なっているかや、組織外のコーチや学びとどのくらい接点があるかを確認するのが良いでしょう。
7. 個人のコーチの傾向
個人のコーチの多くは、勉強熱心で、1人称での振り返りや取り組みはしっかりと行っているという傾向にあります。自分でコーチを選ぶこともできるため、そのとき向き合っているテーマや自分が伸ばしていきたい領域に合わせて様々なコーチを選び、2人称の視点でのフィードバックを受けることができるでしょう。
しかし不足しがちなのが3人称の視点です。例えばクライアントからコーチングセッションについて評価をする仕組みや機会がない場合、気づけばコーチングが「自己流」になっているという場合も多々あります。「自己流」になること自体は必ずしも悪いことではありませんが、クライアントにとってより良いアプローチがあるにも関わらずコーチが自らのこだわりや経験の中に閉じこもっていては、クライアントの可能性が限定されてしまうことになりかねません。
個人のコーチの場合、セッションに対するフィードバックや第三者からの評価をどのくらい受けているかというのを確認するのが良いでしょう。
コーチを選ぶときに聞いておきたい質問とその答えをどのような検討材料とすれば良いか、組織に所属するコーチと個人のコーチ、それぞれの強みや弱みについてご紹介してきましたがいかがだったでしょうか。
もしあなたがコーチでコーチとしてもっと成長したいと思われているのであれば、1人称・2人称・3人称での振り返りが今どのようなバランスになっているかを検証し、不足しているところを補うような取り組みをされるといいのではと思います。
想いを持って何かに取り組もうとする方がその人に合った良いコーチに出会うこと、その結果、世界に喜びや笑顔が増えることを願っています。
awai 佐藤 草
illustrated by HISAKO ONO
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