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レバレッジ型商品の性質:レバナスの資産推移の現状、コストとリスク

レバナスの流行

レバナスという投資信託が、
少し前の金融緩和市場において流行した時期がありました。
「レバナス」とは、
「楽天レバレッジNASDAQ-100」投資信託、
あるいは「iFreeレバレッジNASDAQ100」投信を指し、
成長企業が多く含まれる株価指数である「NASDAQ100指数」の
2倍の値動きを目指すレバレッジ型の投資信託
です。
また、NASDAQに連動するレバレッジ型のETFについても、
広い意味でレバナスと呼ばれていました。

レバナスに投資する投資家は、
「長期的に見て右肩上がりであるナスダック100指数に対して、
レバレッジをかけて積み立て投資を行えば、
多少の困難な時期があったとしても、
最終的には通常の投資より大きな利益を得ることができる」と
信じていました。

それに警鐘を鳴らす人も多くいました。
レバナスが長期投資に向かないという警告の根拠は多く提示されましたが、
「その理由が複合的である」という指摘はあまり見受けられませんでした。

今回の記事では、現在のレバナス投資信託の現状を再確認します。
そして、レバナスをはじめとするレバレッジ商品の
隠れたコストとリスクを列挙し、
本当に適する状況でレバレッジ商品を有効活用するための条件を
整理します。

レバナスとNASDAQ100のパフォーマンス比較

画像を見比べてください。
それぞれのレバナス投信の資産曲線、レバナスETF、
その指標となるNASDAQ100です。
(2024年7月現在)


楽天レバレッジNASDAQ-100(楽天証券のホームページより)


iFreeレバレッジNASDAQ100(大和アセットマネジメントのホームページより)


[QLD]ProShares Ultra QQQ (Tradingviewより)
ナスダック指数(Tradingviewより)

2022年から2023年までの弱気相場で株価は下げました。
しかし、現在NASDAQはすでに株価を戻して、
それ以上に高くなったのに対し、
レバナス投信やレバナスetfはやっと元に戻った程度です。

つまり、一括投資で長期投資していたとしたら、
成功とは言えない結果となりました。
しかし、積み立て投資の場合は、含み益になっています。

これはなぜ起こったのでしょうか。その原因を紐解きたいと思います。

以下ではレバナスを例に説明しますが、
レバレッジ型商品全般に言える
ことです。
計算式に抵抗がある場合は、
読み飛ばして結論だけ読まれても構いません。

複利による減価

まず、レバナスのデメリットとしてよく言われる減価について言及します。

レバナスの元となるNASDAQ100指数の価格が100であったとします。
これが翌日1%上がり、101になったとしましょう。
この時レバレッジ型商品は2倍の2%上がり、102となります。

さらに翌日、元の資産が100に戻ったとします。
この変化率は1 - 100 / 101 ≒ 約0.99%の下落です。
すると、レバレッジ型商品は0.99 * 2 = 1.98%下落するので、
その価格は102 * (1 - 0.0198) = 99.98となります。

NASDAQ100の価格は元の価格に戻っただけなのに、
レバナスは100よりも価格が小さくなっています。
つまり、資産が目減りしています。
2日でレバナスは0.02%の減価をしたことになります。

これが約1年の364日繰り返されると、
364 / 2 = 182回行ったり来たりしますので、
レバナスは100 * (1 - 0.02%)^182 ≒ 96.425となり、
約3.57%の減価となります。

レバナス長期投資に警鐘を鳴らす理由として、
この減価を根拠とする主張が多いのですが、減価はそれほど大きくなく

「3.5%減価しても、200%の利益を長期で出せれば良い」という主張を
覆すのは難しいかもしれません。
しかし、コストは無視できない大きさではあります。

複利による連騰の大きなリターン

また、減価の反対の面にレバナスの強みがあります。

NASDAQ100が価格100で始まり翌日に1%上がり101、
さらに翌日に1%上がり102.01となったとします。
レバナスは100で始まり翌日に2%上がり102、
さらに翌日に2%上がり104.04となります。
結果として初日から4.04%上昇したことになります。

これは、NASDAQ100の2日間のトータルの上昇率2.01%の2倍である4.02%
よりも0.02%大きくなっています。
つまり、連騰した場合は、レバナスはより多くの利益を享受できるのです。

続落の場合、複利効果で元の価格に戻りにくい

反対に続落した場合はどうでしょうか。

NASDAQ100が価格100から始まり1%下げ、翌日に1%下げる。
すると、価格は100 * 0.99 * 0.99 = 98.01となり、1.99%下落しています。
レバナスは2%ずつ下げ、100 * 0.98 * 0.98 = 96.04となり、
3.96%下落しています。

すると、NASDAQ100の下落率の2倍3.98%よりも、
0.02%小さい下落であることが分かります。
この結果からは、続落してもレバナスは2倍下げることがなく、
下落耐性があるように「見えます」。

しかし、NASDAQ100はこの下落から元の価格に戻るのに、
100 / 98.01 - 1 ≒ 0.0203 つまり、2.03%の上昇があれば済みますが、
レバナスは100 / 96.04 - 1 ≒ 0.0412、4.12%の上昇が必要です。
これは2.03%の2倍以上となるため、
連騰しない限りレバナスは元のNASDAQよりも価格が戻りにくくなります。
(難しい話になりますが、
レバナスの性質というよりは複利のデメリットが出ていることになります)

信託報酬・経費率は小さくないが大きくもない

楽天レバレッジNASDAQ-100の信託報酬は年0.77%です。
iFreeレバレッジNASDAQ100の信託報酬は年0.99%です。
QLDのNet Expense Ratio(ネット経費率)は年0.95%です。

これは決して高いとは言えませんが、
インデックス投資と比較すると安いとも言えません。

200%のリターンを目指しているならば、
安いコストだと思われるかもしれません。

ただ、投資において、コストを軽視することは、
想定外のコストやリスクを負いやすい考え方であることに注意が必要です。

大きな資産減少(ドローダウン)と回復の難しさ

これは先ほどの続落したとき、
元に戻りにくいという「複利の性質」を広げたものです。
レバレッジ型商品の長期投資に向かない理由の最も大きな理由の一つです。

ドローダウンとは、「資金が一番多い時から計算した資金減少量」という
概念です。

資金が半分になってしまった場合、
それを元の資産に戻すためには2倍のリターンが必要となります。

レバレッジ型商品は通常の商品よりも大きなドローダウンを被りやすく、
それが複利の性質上、元の資金に戻しにくくなります。
結果的に、パフォーマンスが悪くなり、長期投資に向かないのです。

つまり、200%のパフォーマンスを得たとしても、
それは大きく下がった資金を元に戻すために使われたという結果に
なりうる
のです。
これは先ほどの資産曲線の比較画像で明らかなように、
実際レバナスで起こったことです。

為替ヘッジコスト

レバレッジ型商品ではなく、レバナス投信特有となりますが、
この投信では為替ヘッジを行っています。
つまり、ドル資産に対してドルを売って円を買う手段を講じることで、
為替変動のリスクを避けています。

しかしながら、この行為はコストがかかります。
ざっくりとした説明ではアメリカの金利と日本の金利差となりますから、
2023年以降は年4%以上のコストがかかっていることになります。
これも無視できないコストです。
「年200%を目指すから、年数%のコストは気にしない」というのは、
投資行為として非常に危ういものと言えるでしょう。

商品に組み入れた先物の金利コスト

レバレッジ型商品の多くは、先物を利用しそのレバレッジを利用します。
先物のパフォーマンスは保有した期間の金利分が本質的に差し引かれます。
そして、そのコストはレバレッジの倍率だけ増えます

レバナスの場合、米国金利約4-5%の2倍、8-10%分だけ、
単純なNASDAQ100の2倍のパフォーマンスよりも差し引かれるのです。
理論的には、投信の純資産の余剰金と先物の証拠金の、
現金を短期国債運用することで、
金利コストを抑えることができますが、それも半分までです。
つまり、現在の金利約4-5%程度は確実にコストとしてかかっています。

このパフォーマンスが削られる金利要因は、
あまり指摘されてきませんでした。

iFreeレバレッジNASDAQ100では、
この金利コストについて言及があります。

結論

以上のことから、信託報酬、レバレッジ型商品の減価、為替ヘッジコスト、先物の金利コストを合算すれば、
年10%はパフォーマンスから差し引かれていることになります。
特に為替ヘッジも先物も、両方とも金利から発生しており、
ダブルで金利コストの要因を受けていることが分かります。

このコストやパフォーマンス低下を軽視する投資は本当に適切かどうかが、
レバレッジ型商品の長期投資への批判点の一つ
ではないでしょうか。

また、ドローダウンによる大きな資金減少が発生してしまうと、
大きな利益はその損の埋め合わせに大半が使われてしまいます。

ドローダウンが発生しないタイミングでの投資が必要であるということが、
レバレッジ型商品の重要な点です。

レバナスの積み立て投資なら、
2023年からの強気相場により利益が出ている可能性があるように、
レバレッジ型商品の使いどころは、
強気相場トレンドや連騰が続いている時に非常に効果的です。

借金しないからという理由でレバレッジ型商品を選ぶと、
無自覚に大きな不利益を被ることがありますが、
一概にレバレッジ型商品を否定するものではありません。
やはり、その金融商品の特性を理解し、
パフォーマンスという誘惑に駆られてデメリットを無視するのではなく、
メリットを効果的に利用するのが良いのかもしれません。

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Avo
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