関心領域はズバリ、単身赴任映画だ、ネタバレ満載
つい先ほど、ジョナサン・グレイザー監督『関心領域』を観て来た。忘れないうちに感想を書く。
その前にまず、誰に感情移入すればいいのか分からない映画だったということを先に述べておく。よもや虐殺に加担している真っ最中の主人公、ヴィクトール・E・フランクル著『夜と霧』でお馴染みルドルフ・フェルディナント・ヘスに感情移入なんてできるわけがないし、映らないユダヤ人に感情移入は不可能。
ホロコーストやポグロムといった、ユダヤ人に対する虐殺や迫害という前提知識が必要な映画。まあ、前提知識のない人はいないだろうけど。
ホロコースト? 何それ? そんな人が観たらチンプンカンプンだろう。
だけど、そもそも前提知識があるなら、「観る必要あるのか問題」を抱えている。だって、知ってるんだもん、何が起きたか。
それはさておき、まずネタバレ満載のストーリー。
アウシュビッツ強制収容所所長ヘスが色々計画している最中、転属のために単身赴任し、またアウシュビッツ強制収容所に戻って来る。
以上!
へー、あっそう。
壁の外はヘスの平和な家庭、壁の中は悪名高きアウシュビッツ収容所。んで、壁の外の平和な家庭だけを描く。平和と思いきや平和じゃない。そりゃそうだ、あっち側ではユダヤ人が閉じ込められてんだから。
黒い煙や赤い空、壁の中から聞こえる音、ユダヤ人からせしめた毛皮のコートや化粧品やスカーフ、歯などなど……から何が起こっているかをうかがわせる。
ユダヤ人の骨が川に流れて来る。そこで水遊びしていた我が子を洗って、ユダヤ人に対する嫌悪感を表現している。
強制労働させられているユダヤ人のために、リンゴを置いておく優しい少女。そのリンゴを取り合って大変なことになっているであろう声が、かすかに聞こえる。
その他、言動の数々が無関心、というか関心の外にあるということを表現している。植物の方が大切だったり鷹の声しか聞こえなかったり。
平和な家庭におばあちゃんが引っ越して来る。だけど、壁の向こうに辟易してとうとう出てゆく。と思いきや、実は家の中にユダヤ人がいることを嫌がっている。そうなんだ。ヘスの家ではユダヤ人がメイドとして働いているんだ。で、彼女らは終始、うつむき加減で暗い顔をしてる。
彼女たちのことを「地元の人」って言ってたけど、たぶんユダヤ人……だと思う。
唯一まともなのは、夜中、ずっと泣いている赤ん坊ぐらいだろう。
とにかく間接的に、虐殺あるある、迫害あるあるを表現する。
もうね、こういう表現はね、ダウンタウンの松本人志氏がね、ぶんぶん飛ぶハエを見て「俺はうんこか」「お前は死んでるのか」って言った時点でアガっちゃってると思うんだ。
まあアガってても、こういった表現はガンガンやるべきだと思う。だけど、やるならストーリーにメリハリをつけて欲しい、単身赴任して戻って来るだけじゃあねえ……
で、「君たちも、ウクライナやイスラエルに関心があっても、アフリカにある名も知らぬ国の紛争には関心ないでしょ? あの国で鳴っている鉄砲の音、聞こえてないでしょ? へっへっへ、君はね、この登場人物と同じだよ」って言いたいのかな?
しかも、現在のアウシュビッツ強制収容所なんかをとつぜん映して。
いや、わざわざお金払って説教してくれなくても、分かってますから。
でもまあ、虐殺や迫害を直接見せないで表現する試みはいいね!
王ケイ
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